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悪霊

番外 悪霊

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  「なんで俺、こんなところに居るんだよ。」
作業服ズボンに縞のよれよれシャツを着た剛が台車に座りながらブー垂れる。
「仕方ないでしょ?ホラーの短編作らなきゃいけないんだからっ。」
私は少しイライラしながらボヤく。
  剛は私のふて腐れた顔を渋い顔で見ていた。
「だからって…なんだよ、この耳…」
剛は頭の上にちょこんと張り付く三角の耳を不満そうに掻いた。
「いいじゃない。今日のアンタはベルフェゴールなんだもん。」
少し恥ずかしい気持ちを荒い言葉で剛にぶん投げる。
「べ…べろ…ふぉーる?」
聞き慣れない単語に頭を混乱させながら、不安そうに話す剛が私を上目使いで見つめた。

  「ベルフェゴール…西洋の悪魔よ。」

  私は目を開いて空想の天頂に輝く星空を見つめた。
  そう、コイツは、夏のホラーイベントの為に作り上げたキャラだ。
  4月辺りから、ゆっくり書きためたけど…夏のホラーは諦めた。
  先が…出てこなくなったからだ。

「なんで、俺がそんな奴にならなきゃいけないのさ。」
剛は台車を前後に動かしながらブー垂れる。
「仕方ないでしょ?本物の召喚なんて、洒落でもしたくないもん。」
私は、ほほを膨らませ不機嫌顔になりながらも、剛の機嫌をよくする事もわすれない。
  現在、思い出深いファミレスで、奴の好きだったフリードリンクのアメリカンをテーブルの向かいの席に差し出す。
  現実には昼下がりに一人きり。
  夏フェアーのスイーツを頼み、ホットコーヒーと炭酸水をテーブルに並べていても、まわりの人は気にしていない。
  皆、自分達の友達の事でいっぱいいっぱいだからだ。
  私は、端の席に座り、メールを片手に本を開く。
  忙しくて書けなかった話の続きを書かなくてはいけない。
  が、問題が山積してるのだから。

  私は、現在、数点の未完を抱えている。
  そして、最悪な事に大賞にエントリーしている作品もそのなかにあるのだ。

  「まあ、飲みなよ…。今、ポテト頼むからさ。」

  ファミレスのメニューは、タブレットに変更されても、よく頼んだフライドポテトの写真をみると、昔を思い出して涙が出てくる。
  剛は死んでしまった。
  色々あって、2年間、会わない間に呆気なく。
  そんな剛に、悪魔のコスプレをさせるのも気が引けるが、そんな事を繰り返しても…私は、完結を目指したいのだ。

  「しかたがないなぁ…もう。」
剛は三角の耳をプルプル揺らしながら、迷惑そうに顔をしかめるが、テーブルに湯気をたてるポテトが置かれて、唇が嬉しさに歪むのを止められずにいた。

「そう。頼むわよ…今年は江戸川乱歩デビュー100周年なんだから。
  私、乱歩の未完『悪霊』を推理する予定なの。」

  私は、今年の夏のイベントをこの乱歩の未完で書こうと考えていた。
  本当は、春の推理のイベントを目指したが、ダメだったのでリベンジの予定だった…

  私の所属するサイトは、季節ごとの小さなイベントがある。
  それには、毎年、違うテーマがつく。
  勿論、推理とホラーのテーマは違う。
  今回の夏のテーマは『帰る』
  このテーマに辻褄を合わせたのは克也だった。
  時が過ぎ、克也は5Gを克服し、新しいスマホを買ったらしかった。
  ブー垂れる私に、奴は知恵を授けてくれた。

  未完とは、帰り道を迷っている状態なんだと。
  完結とはすなわち、原点に…家に帰ると動議だと。

  そして、私の作る解答に果たして、読者が満足するかと聞いてみると、ビックリマーク炸裂の文面の返信が来る。



  大丈夫だ!
  とにかく、卯月さんの考えをまとめる事が先決だ!
  今は、お盆だし、本人を呼び出して感想を貰えばいいんだよ!!
  君が霊感が無くても、話の流れが面白ければ、占いの結果を読者はしりたくなるはずだからネ!
  頑張れ。俺は忙しいからこれで!
  あ、こっくりさんとか、召喚系の占いはダメだよ!
  本当に呪われるからっ!




  本当に呪われるって…あんた…(-_-;)

  私は、克也のメールにため息を漏らす。
  コイツ…オカルトに詳しいのか…ただのミーハーなのか…
  奴の言う『本人』とは、江戸川乱歩の霊と、言うところなんだろうが、そんなもん、素人の占いに降臨するわけがない。

  確かに、ネット社会で、有名人と一般人の距離は縮んでいるが、オカルト世界では、そうはいかない。
  それに、没後50年を過ぎると言うことは、仏に近づく…個性をなくす…みたいな意味合いもあると思うから、仮に自称乱歩の霊が出てきたとしても…低級霊の可能性が高い。

  低級霊…(-"-;)

  子供の頃、よく漫画に出てきたけど、そんなもんに会ったことはない。
  思い返せば、私の人生、不快な思いをさせられたのは、ほぼ100%人間だ。

  私は、皿いっぱいのポテトに手をだした…

  食べきれるだろうか?

  向かいの席の幻の剛は、昔のようにイモを頬張って嬉しそうには笑わない…

  本当に、霊能力が私にあったとしたら、江戸川乱歩なんかより、剛の霊にあってみたい…

  切ない気持ちとフライドポテトが胸につまる。
  炭酸水をがぶ飲みしながら、私は、現世の悪魔(オカルティスト)を呼び出すことにした。

  克也に向けてメールをする。
  『今、ファミレスにいるんだけど…お茶しない?』
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