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本を売る女

魔術師

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  私は、19世紀と言う、混乱とバイタリティに溢れた時代を調べていた。

  それは、初めての少女小説のヒロインを幸せにするためであり、
  ゲッペルスとホロスコープを調べるためでもあった。

  とはいえ、その時、調べていたのは、クローリーと魔術についてだったが。

  ゲッペルスがホロスコープを作るのも怪しくはあったが、クローリーとノストラダムスの組み合わせも違和感がある。

  私にとって、アレイスター・クローリーとは、『馬鹿一直線』と言うイメージだった。
  良くも悪くも見境なく、好きなものに没頭する人物で、本気でオカルトを信じている…ガチ勢なはずだ。

  が、チャーチルに味方をし、ホロスコープや予言をねじ曲げてインチキホロスコープを作ってしまえば、彼は、良くも悪くも世紀の大魔術師から、ただの詐欺師に成り下がってしまう…
  いや、まて、

  本当に、クローリーって、魔術師なんだろうか?

  嫌な予感が込み上げてきた。
  昭和のオカルトファンタジーの根っこの部分を支え、オカルト雑誌『みい・ムー』の付録、実践魔術を華々しく飾り立てたのは、クローリー…主に魔術結社、ゴールデンドーンの教えをもとにしていた。

  それをファンタジーの原動力に私も小説活動をしてるんだから、これが違ったら、ゲッペルスどころの騒ぎではないのだ!

  ああ…泣きたくなる…

  大人になれば、子供の頃の夢の世界はあせて行く…
  普通はそうなんだろうが、私は、逆だった。

  西洋人との付き合いの無かった貧乏な田舎の我が家には、クリスマスにもサンタは来なかったし、
  世の中は科学無双で迷信をなぎはらっていった。

  私は、ブラウン管の空を飛ぶ少年ロボットと一緒に、迷信が溢れる世界のなかで、それらとふれ合いながらも、どこかで一線を引いていた。

  うちは、お父さんがケーキを買ってくれても、おもちゃをくれるサンタは来ない。
  だって、サンタさんは、カッパのように見えない世界の住人なんだから。


  でも、大人になり、様々なヒトと知り合うようになると、世の中は私の考えるより複雑で、そうして、不思議なものに溢れていると感じるようになった。

  剛とフリマに行くと不思議と晴れが続いたし、喧嘩をすると雨が降る…

  いや、ドラマのような激しい話ではないが、小さな瞬間、瞬間に、ささやかな奇跡があった。

  2019年…あの冬に音信不通の克也に会えたのだって、クリスマスの奇跡のようなものだ。

  お互い、積極的に連絡したり、会ったりしない私たちだから、あの冬…
  全てが変わる、歴史的な転換点で、皆でファミレスの忘年会が出来たのは、何物にも変えがたい、見えざるもののギフトに違いないからだ。

  

  そう、神様がいるかは知らないが、何か、そんなふうな何者かがいて、どんなに科学が進もうと、こう言った、小さな奇跡は消えないと確信していた。

  そして、それらが、世界や時代でなんと呼ばれようと、そう言った天使や妖精の様なものを従えられるなら、ニセホロスコープを撒き散らしたり、インチキはしなくていいはずだ。

  色々、考えるとモヤモヤする。それじゃあ、有名なご当地アイドルと恋人だとうそぶく怪しいオヤジと一緒じゃないか、イベント会場で握手をしてもらっても、それだけじゃ、恋人じゃないぞ。

  知り合いに、自慢しすぎて、帳尻会わせに嘘をつき、偽装する…そんなオヤジとクローリーが重なった。

  本当に、魔術があるなら、素直にナチスを呪うか、チャーチルを祝福すればいいじゃないか。

  それが、出来ないなら、クローリーは、ただの嘘つきで、彼らの作り出した近代魔術はファンタジーで使えなくなる。

  もう、もう、なんてこったい…

  私は、泣きながらクローリーを調べることになった。

  もう、本当に、いい年になって、なんで、こんな事を真剣に調べなきゃ、いけないんだろう。

  クローリーがインチキだろうと、三島先生がノストラダムスの超解説をしようと、そんなもん、私の生活に支障はないのだ。

  が、しかし、書き始めた物語に命を吹き込むには、誰が信じなくても、自分が信じられなくてはダメなのだ。

  1度、更新し、場に出てしまえば、そこからは、読者と言う探偵に根掘り葉掘りと追求される。

  物語の芯の部分に輝く真実を…それが、例え、自己満足なものだとしても…
  その物語の芯で輝く宝石がイミテーションだと探偵が見抜いてしまったら、物語はそこで終わりなのだ。

  私の小さな呪文使いは、まだ、場にすら出られていない。
  これから、始まる呪文使いの胸に輝く魂の光を…今からけがすわけには行かないのだ。
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