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本を売る女

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  2019年冬。私はどう頑張っても負けない戦に酔っていた。
  書籍化なんて出来なくても、私には沢山の『残念賞』が散りばめられていた。

  公募にエントリーさえすれば落選しても速攻で他サイトで小銭を稼ぎに行ける。
  
  文字数だけは色々あった。
  500円位なら楽勝だと考えていた。

  ツヨシも都会で短期の…羽振りの良い仕事にありついていて、仕事が終了した時点で、横浜から名古屋経由で自宅に帰れば楽勝だと思っていた。

  
  あとは、ありがとうの気持ちを込めて、『パラサイト』を書いてしまえば良かった。

  新しい年が来る…

  それは虹色に輝く…美しい夢のようだった。

  私は頑張った。

  肉食の繭蛾を見つけられなかったが、ネットや図書館でそれをつなぐ『なにか』を探し当てていた。

  私は、こう言う『アタリ』が凄く良いのだ。
  ヒメバチ…寄生バチを選んだ事により、彼らの生体を調べることになる。
  そして、面白いことを知った。

  彼らは生きた獲物に卵を産み付ける。
産み付けた獲物が、それと知らずに活動させるのが、寄生バチ。
 始めに獲物に針を刺し、相手を麻痺させて巣に誘うのが狩りバチ

  ヒメコバチは、寄生バチだ。
  私の見つけたアオムシサムライヒメコバチは、主にキャベツを餌にする青虫に卵を産む。

  これらについて調べるのは、気持ちのいいものでは無かったが、ここから、蚕に繋げなければいけない私には、気味悪がってる時間はない。

  寄生バチは、キャベツなどの農産物を襲う青虫を撃退する…益虫の一面があるので、検索すると色々なサイトがヒットした。
  ついでに、モンシロチョウの幼虫の青虫に寄生するので、青虫を守りたい人たち、小学生の理科のサイトなど、選り取りみどりで閲覧できた。

  そこで、寄生バチは、青虫だけではなく、たまに間違って蚕など、ほかの虫に産卵することを知った。
  ついでに、寄生バチの幼虫が宿主の抗体に攻撃されないようにウイルスが媒介していることを知った。

  このあたりを使って、なんとか物語を『オーデション』と繋げて行くことにした。
  寄生バチや狩りバチが、宿主を操るように…何かに寄生され操られる…そんな物語が見えた気がした。

  特別な寄生バチなら、ショクダイオオコンニャクに群がる甲虫にも産卵するかもしれないし、
  その仲間が蚕に産卵するかもしれない…

  広大な生物のネットワークの断片が見えた気がした。
  エンディングは決まっていた。

  生物学者の妻を殺した夫と愛人は…実は寄生バチに…ひいてはウイルスに操られ、田舎の小さな別荘から、それはパンデミックとして広がる…

  そんな、不気味で静かな終わり方を考えていた。

  アメリカでインフルエンザが猛威を振るっていた。
  けれど、私は気にしてなかった。
  インフルエンザなんて、毎年流行する。

  しかし、この作品は今年、書かなければ旬を逃す。
  2020年、来年は西條八十先生の没後50年だった。それで著作権がフリーになる!と浮かれた。
  そして、今年、2019年は八十のデビュー100周年で、あの、都市伝説にもなった『トミノの地獄』もそのデビュー作品の一つであった。

  夏のイベントのホラーの為に1年前から温めていた設定を『パラサイト』にはぶちこんでいた。

  来年は、大手を振って、あの詩を、『トミノの地獄』を自分の作品で披露できる。

  大晦日は数日後。

  しかし、私は知らなかった、2018年著作権のルールが変更になった事を…
 西條八十先生は、この新しいルールにあてはまっていた。
  2018年に著作権がある作品は、死後70年保証されることになったのだった。
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