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本を売る女

本命

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  様々な謎を解き、ラスボスに謎かけをする…

  この設定は胸が踊る。
  そして、私には勝也ではなく、本命がいた。

  三島 健
オカルトドキュメンタリー『預言者』の作者である。
  彼はテレビが普及する70年代に、オカルトブームに乗って時代の寵児になった。
  ルポルタージュ風味の書きくちの文章は、現実世界と交わりあい、なんとも言えないスリリングな世界に連れていってくれた。

  ネタを探すため、ネットを調べる私は、ある日、年老いた彼のコメントを見つけた。

  当時、自分の本を買った子供たちに謝りたい…

  そんな事が書いてあった。その文章が、私の胸に冷たい北風のような焦燥感として突き刺さった。

  そんな言葉を聞きたいわけじゃない。

  私は自分の本棚から溢れている本を思って悲しくなった。
  2017年、WEB小説家になったときから、その手のオカルト本が増えていた。

  かれこれ、50年も前のヤニ焼けした本を私は100円で手にしていた。
  本たちは、それなりに綺麗な状態で、需要がないまま100円で売られていた。
  内容から、もう、再版される事のない、前世紀の遺物…

  彼らは、私に話しかける。


  「己(おれ)は、まだ、まだ、アンタを…世界を楽しませる『何か』を持ってるんだ。なあ、アンタ、一緒に新しい物語を始めようぜ。」

  

  それは…私の心の声なのかもしれない。
  私は…自分の意思で、少ない、こずかいをやりくりして新刊を買ったのだ。
  
  確かに、新世紀になり、大人になると同時に、自分の本は捨ててしまったが、何年もたって、100円の古本として売られるそれらをみて、何か、こう、込み上げる気持ちがあった。

  古本…つまり、私の他に、あの本を買い、そして、私より長い間、この本と人生を共にした人物が居たと言うことだ。

  買った年が、前の持ち主の落胆を想像させた。
  2000年…ノストラダムスの予言を回避
  2012年…マヤ歴の終わりを回避
  2015年…マヤと古代エジプトの予言を回避…

  初めの持ち主はどんな気持ちで手放したのだろう?
  予言が外れて、価値を失ったのだろうか?

  古本は100円まで落ちたら、売れない場合、次は、再生紙として破棄される。
  その崖っぷちの世界の中で、新しい本に囲まれる彼らの姿に、私は長い…物語を感じてしまう。

  予言が外れた…価値が無くなった。

  全ては無駄だった。


  そんな風に終われない、長い、長い、年月に胸を打たれる。

  この本たちと…いつか、物語を書いて、公募に応募してみよう…

  何度か考えた夢だった。
  予言以外の何か、本の面白みのような、何かを表現したかった。
  

  健先生の本にはロマンがあった。
  美少女暗殺部隊。
  闇の復讐騎士
  ノストラダムスの隠された秘密の詩…

  それらは、現実世界では、用があるどころか、厄介な知識だ。
  が、無限に広がる歴史ファンタジーの世界なら、書きようによっては、金に…
  本当にカネになる素質を秘めているのだ。

  小説にして、誰かに評価され、そして、カネに…
  知識に価値をつけたかった。


  それから、暇があったり、面白いドキュメンタリーを見ると、ノートに色々、書き付けるようになった。
  が、しばらくして、それが、そう簡単でもない事に気がついた。

  健先生は、人気があった分、アンチもいた。
  彼らは言った。

  闇の騎士なんて、ノストラダムスの秘密の詩なんて、あるわけ無いだろ?あれは創作だ!と。


  そ、創作ですって!

  悪役令嬢のオープニングくらいの衝撃で、私も白目むき出しに驚いた。

  いや、捏造とか、その善悪とかではない。
  そんなものは、長い年月に超越していた。

  そんなことより、それが創作であると言う事実が厄介なのだ。

  それが、捏造であれ、創作であれ、本として出回っていれば、『著作権』が発生する。

  ここに来て、私は三島 健先生を、思ったより信頼していたことに気がついた。

  例え、多少のファンタジーがあるとしても、ギリシア辺りのとんち話や伝説を脚色したり、現地の都市伝説の類いで、参考資料を明記すれば、使っていいと考えていたのだ。

  全くの創作だとしたら?
  まあ、著者に許可をとるのが正当だよね?

  
  え?ブックマーク一桁の…貧乏な私が?権利を買うカネないし、それが本当なら、騙された上にカネを払うようで嫌だなぁ…
  UFOより遭遇確率低そうな先生に?どうやって連絡するの?
  
  いや、こうなったら、しらばっくれて事実として、参考資料に書いとけば…
  なんても思ったが、90年代、オカルト番組や本を信じる人が犯罪の加害者や被害者になり、世間を騒がせていたので、それも出来ないと思った。


  そして、忘れていた気持ちに、あのコメントが火をつけたのだ。

  いや、謝られるより、使わせてくれ!闇の騎士の色々を!勿論、ただで!もしくは、出世払いで。


  2019年…年の瀬に、色んな気持ちが入り交じっていた。

  実力はどうあれ、夢を見るのは自由である。

  面白い考察が書ければ…ネットの時代、先生に手が届くかもしれない…
 
  クラウド・ファンディングと言う言葉を良く耳にした。
  半分は小説のネタにしながら、私は最初で最後になるかもしれない10万字に挑戦していた。
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