魔法の呪文

のーまじん

文字の大きさ
上 下
13 / 15
ヴィーナオーパンバル

魔法の呪文

しおりを挟む
 穏やかに眠るフランクにメアリーは術式の成功を確信しました。

 フェネジはフランクに魔法をかけるメアリーが、ほんのチョッピリ可愛く感じた自分に驚きました。

 メアリーは、けちんぼではなかったんだ。

 フェネジは愛しそうにフランクを見つめるメアリーを見てそう思いました。

 「さあ、仕上よ。」
メアリーはそう言うと、目を閉じてベッドの横に膝まづくとガラスのベルのような澄んだ声で、天使召喚の祝詞のりとをあげました。

 すると、フランクの上に半透明の美しい青年が現れました。
 彼には、美しい翼も、純白の着物もありません。
 その代わり、少し日焼けした穏やかな笑顔で、誰かを癒すハーブの入った頭陀袋ずたぶくろを持っていました。

 メアリーは、その青年を見つめて、興奮したように嬉しそうに微笑み、両手を組んで見上げました。

 エマは、恐ろしげにフェネジの後ろに隠れ、
 フェネジは、立ち上がってその半透明の人物の名前を呟きました。

 「ラファエル様…」

 召喚されたのは、大天使ラファエル。
 癒しと旅の守護天使。

 メアリーは、ラファエルに祈りました。

 どうか、フランクに癒しを与えてください。と。

 ラファエルは、両手を広げてメアリーを祝福して消えました。

 メアリーは、天使の力を貰い、さらに呪文を唱えます。
 すると、フランクの胸の辺りから、美しいキラキラとした心が、宝石となって現れました。

 それは、美しいピンク色をしていましたが、メアリーをなくして、ガラスの破片のように鋭くいびつな形をしていました。

 メアリーは、どこまでも澄んだ美しい、それでいて、痛々しいフランクの心を具現化ぐげんかして、悲しい気持ちに襲われましたが、気を取り直して両手に魔力を込めると、幼い頃、二人で歌った山の歌を歌いはじめました。

 それは、アルプスの山が大好きなおじさんに教えてもらった歌で、エーデルワイスの悲しい伝説を美しくうたい上げたものでした。
 メアリーが歌うと、メアリーのフランクとの思い出が、ダイヤモンドの霧のようにフランクの傷ついた気持ちを優しくなでて行きました。

 霧がフランクの心を撫でる度に、メアリーの心はとても痛みましたが、
 それでも、フランクが苦悩するのを見るくらいなら、この方がずっと楽だと思いました。

 フランクの心は、メアリーの歌と気持ちに癒されながら、尖った部分を丸くして行きました。
 でも、代わりに、メアリーの体力を奪って行きました。

 疲れてきたメアリーを支えるように、エマが一緒に歌いはじめました。

 すると、メアリーは元気を取り戻し、少し時間がかかりましたが、フランクの心は、美しく磨かれてキラキラと輝きながら、フランクの体の中に戻って行きました。

 「ありがとうエマ。助かったよ。」
メアリーは、汗だくになりながら、床に座り込んでお礼を言いました。

「どういたしまして。少し疲れたけれど、私、とても楽しかったわ。決めたわ、私、魔法技師になるっ。
 メアリー、私にも魔法の呪文を教えてくれない?」
「はぁ?」
メアリーは、疲れもあってよく理解できませんでした。

 メアリーは、罰として魔法技師にされたのであって、魔法技師になる呪文なんて知りません。
 その様子を見つめながら、エマはがっかりしたようにため息をつきました。

 「ああ、ウイリーはダメなのね?魔法の呪文を使えないのね。」
「なんの話だい?頭の中がこんがらかって、わけが分からないよ。」
メアリーは、不服そうに呟き、エマは責めるようにメアリーを見つめました。
「魔法の呪文よ。トトに教えて、あなたをここにつれてきた、三つの願いを叶えてくれる。私はウイリーだから使えないのね。悲しいわ。」
エマは、本当に残念そうにもう一度ため息をつきました。

 「そんなことは無いよ。」
一瞬の沈黙を破ってフェネジが言いました。

「あれは、恋を知らない若い娘なら、誰でも唱えることが可能なんだ。と、思うけど…、やってみればいいじゃない。やってみなきゃ、わからないんだから。」
 フェネジの言葉をメアリーは呆れながら聞いていました。

 魔法の呪文を唱えて失敗したら、メアリーのように魔法技師になり、永遠の旅を続けないといけないのです。
 考えなしにやってみれば良いものではありません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...