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田園

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 目が覚めると…花純が米をといでいた。

 驚く私に花純は不安そうに言い訳をする。
 ファミレスで無職の伯母に散財させない言い訳を!

 全く…

 車を運転しながら、イライラするこころをベートーベンが慰める。
 『田園』
 1808年、この曲を作曲したベートーベンは人生のどん底にいた。

 「クラッシック…好きなの?」
花純に聞かれて苦笑する。
 母の看病をしながら、私は自宅で何か、小遣い稼ぎを考えていた。
 で、ネットに動画を投稿しようとか…今考えると…なんとも恥ずかしい事を思いつき、著作権の切れた作品を探したりしていたのだ。
「ま、まあね。私の学生時代は、音楽の授業であんまりクラッシックを扱わなくなったから。」
これは本当だ。こんなネット全盛期になるなら、著作権の切れた作品を教えたり、演奏させてくれたらよかったのに、と、あの時は思った。
 まあ…当時の音楽の先生に言ったら、『教えました』と、返り討ちにされそうだけれど…ちがう曲の記憶しかない。
「凄いね…」
姪に誉められた(///∇///)
「別に…わりとクラッシックってかかってるのよ?あのガス屋のCMとか、」 
「うん。あの面白いオジサンが出るやつでしょ?」
花純が食いついてきた!
「そうそう。この曲はベートーベンの『田園』って曲でね、音楽家のベートーベンが耳の病気で辛かった時に作曲したものなのよ。凄いわね。」
ふふっ…CDの解説の受け売りなんだけど。
「だから、好きなんだね。」
花純が尊敬の眼差しを向ける。
「いや、そういう訳じゃないわ…と、言うか、私はそんなに大変じゃないわよ?優雅にも…暮らしてはないけど。」
私は花純がまた、変な気を回してないか気になる。
 花純は黙って頷くと曲を聴いている。

 「この曲が好きな人は、わりと多いのよ?
 例えば、宮沢賢治とか。」
ああ、これは音楽の先生のウンチクだった…
 山田という名の男の先生で、オデコの形はベートーベンに似ていた。
 それで、ベートーベンの話をするときは楽しげだったのを思い出す。

 ああ、先生、確かに、クラッシックも教えて貰ってました(>_<)

 もっと、素晴らしい曲を教えたいとボヤく山田先生の額の輝きを思い出す。

「宮沢賢治…」
「ねえ?まさか、宮沢賢治を知らないなんて言わないわよね?」
「『セロひきゴーシュ』を書いた人でしょ?」
花純は先生に答えるように少し、得意気に話す。
「そ、そう。あ、ついたわ。」

 そうこうしていると、目的地についた。
 そこはうちの畑と健太のうちの畑がある場所だ。

 うちが畑が出来なくなると、変わりに手入れをしてくれていた。
 この数年、健太には随分と世話になった。
 畑を借りて貰い、野菜を貰っていた。時には肉も。
 彼のお陰で、食料の心配はしなくて済んでいた。

 「おばちゃーん!ああ、カスミちゃんだろ?
 久しぶりだな!」

私達の姿を見て、健太の息子の颯太(そうた)が駆けてきた。
 颯太は確か、小6。
 やんちゃざがりで、畑仕事なんて、手伝いもしない奴なのに。

 不信に思う私以上に花純が不安そうに私にしがみつく。
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