15 / 44
懺悔
黒魔術3
しおりを挟む
「牢の中で全てを知ったジル・ド・レ男爵は、しかし、そのすぐ後には忘れてしまいました。
彼は心労と長年の不摂生と怪しげな儀式に蝕まれていたからです。
あの、殿様の裁判に、カルロ様、あなたも出席なさいましたね?」
プレアティは穏やかにカルロに問うた。
「はい…いいえ。正確には出席はしませんでした。」
カルロはプレアティから視線を外した。
ジル・ド・レ男爵の裁判を思うと暗い気持ちになった。
カルロは、31年、ジャンヌ・ダルクが処刑された年に故郷を出て奉公をすることになった。
もともと、寒村だったカルロの村は、イングランドとの戦いの為に子供を働き手として売るしかなかったのだ。
近隣の村からも子供は集まりながら集まり、ノルマンディの主要都市、ルーアンに向かう。
王を騙した魔女が処刑されるとあって、方々から人が集まり、親方衆との話し合いが楽だからだ。
カルロには、道すがら仲間になった少年がいた。
本当の名前は、ピエールだが、ピエールはよくある名前で沢山いたので、堀の深いイタリアのような顔立ちからルカニア…イタリアから来た男と呼ばれていた。
ルカニアは、身長は高く腕が太く逞しいが、無口で大人しい少年だった。
カルロは、戦争で身寄りがなく教会で育った彼が好きだった。
文字が読め、ヨブ記の暗唱は美しくカルロの心を打った。
その彼の骨を…ジルの屋敷でカルロは見た。
殆ど肉が朽ちたその骨には、汚れた衣服が張り付き、彼の親が渡した唯一の財産である聖フランソワのメダルが首からかけられていた。
25歳になったカルロは、その遺体の小ささに愕然とする。
多分、16、17才で殺されたのだろう。最後の記憶の姿とさほど変わらない身長に胸がつかれた。
許せないと思った。
ジルの屋敷を調べるに当たって聞いていた、男色の噂が胸をえぐる。
家族を欲しがったルカニア…鍛冶屋を目指すと言ったのは、カルロに職を譲ったからだ。
本来なら、ラテン語の読み書きの出来ないカルロが鍛冶屋の親方につれて行かれるはずだった。
怒りを制御出来ずに熱をだし、ジルの裁判には出席出来なかったのだ。
「そうですか……。では、私は出席していました。」
プレアティは、何かを飲み込むような歯切れの悪い言い方をした。
アンドレは一瞬、プレアティが泣いているように思えた。
よくわからないが、ほんの一瞬だけ、彼が血の通った人間に見えて、次の瞬間、迷いを振るうように首をふり、十字を切った。
彼は心労と長年の不摂生と怪しげな儀式に蝕まれていたからです。
あの、殿様の裁判に、カルロ様、あなたも出席なさいましたね?」
プレアティは穏やかにカルロに問うた。
「はい…いいえ。正確には出席はしませんでした。」
カルロはプレアティから視線を外した。
ジル・ド・レ男爵の裁判を思うと暗い気持ちになった。
カルロは、31年、ジャンヌ・ダルクが処刑された年に故郷を出て奉公をすることになった。
もともと、寒村だったカルロの村は、イングランドとの戦いの為に子供を働き手として売るしかなかったのだ。
近隣の村からも子供は集まりながら集まり、ノルマンディの主要都市、ルーアンに向かう。
王を騙した魔女が処刑されるとあって、方々から人が集まり、親方衆との話し合いが楽だからだ。
カルロには、道すがら仲間になった少年がいた。
本当の名前は、ピエールだが、ピエールはよくある名前で沢山いたので、堀の深いイタリアのような顔立ちからルカニア…イタリアから来た男と呼ばれていた。
ルカニアは、身長は高く腕が太く逞しいが、無口で大人しい少年だった。
カルロは、戦争で身寄りがなく教会で育った彼が好きだった。
文字が読め、ヨブ記の暗唱は美しくカルロの心を打った。
その彼の骨を…ジルの屋敷でカルロは見た。
殆ど肉が朽ちたその骨には、汚れた衣服が張り付き、彼の親が渡した唯一の財産である聖フランソワのメダルが首からかけられていた。
25歳になったカルロは、その遺体の小ささに愕然とする。
多分、16、17才で殺されたのだろう。最後の記憶の姿とさほど変わらない身長に胸がつかれた。
許せないと思った。
ジルの屋敷を調べるに当たって聞いていた、男色の噂が胸をえぐる。
家族を欲しがったルカニア…鍛冶屋を目指すと言ったのは、カルロに職を譲ったからだ。
本来なら、ラテン語の読み書きの出来ないカルロが鍛冶屋の親方につれて行かれるはずだった。
怒りを制御出来ずに熱をだし、ジルの裁判には出席出来なかったのだ。
「そうですか……。では、私は出席していました。」
プレアティは、何かを飲み込むような歯切れの悪い言い方をした。
アンドレは一瞬、プレアティが泣いているように思えた。
よくわからないが、ほんの一瞬だけ、彼が血の通った人間に見えて、次の瞬間、迷いを振るうように首をふり、十字を切った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
姫様、江戸を斬る 黒猫玉の御家騒動記
あこや(亜胡夜カイ)
歴史・時代
旧題:黒猫・玉、江戸を駆ける。~美弥姫初恋顛末~
つやつやの毛並みと緑の目がご自慢の黒猫・玉の飼い主は大名家の美弥姫様。この姫様、見目麗しいのにとんだはねかえりで新陰流・免許皆伝の腕前を誇る変わり者。その姫様が恋をしたらしい。もうすぐお輿入れだというのに。──男装の美弥姫が江戸の町を徘徊中、出会った二人の若侍、律と若。二人のお家騒動に自ら首を突っ込んだ姫の身に危険が迫る。そして初恋の行方は──
花のお江戸で美猫と姫様が大活躍!外題は~みやひめはつこいのてんまつ~
第6回歴史・時代小説大賞で大賞を頂きました!皆さまよりの応援、お励ましに心より御礼申し上げます。
有難うございました。
~お知らせ~現在、書籍化進行中でございます。21/9/16をもちまして、非公開とさせて頂きます。書籍化に関わる詳細は、以降近況ボードでご報告予定です。どうぞよろしくお願い致します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
やり直し王女テューラ・ア・ダンマークの生存戦略
シャチ
歴史・時代
ダンマーク王国の王女テューラ・ア・ダンマークは3歳の時に前世を思いだす。
王族だったために平民出身の最愛の人と結婚もできす、2回の世界大戦では大国の都合によって悲惨な運命をたどった。
せっかく人生をやり直せるなら最愛の人と結婚もしたいし、王族として国民を不幸にしないために活動したい。
小国ダンマークの独立を保つために何をし何ができるのか?
前世の未来知識を駆使した王女テューラのやり直しの人生が始まる。
※デンマークとしていないのはわざとです。
誤字ではありません。
王族の方のカタカナ表記は現在でも「ダンマーク」となっておりますのでそちらにあえて合わせてあります
白雉の微睡
葛西秋
歴史・時代
中大兄皇子と中臣鎌足による古代律令制度への政治改革、大化の改新。乙巳の変前夜から近江大津宮遷都までを辿る古代飛鳥の物語。
――馬が足りない。兵が足りない。なにもかも、戦のためのものが全て足りない。
飛鳥の宮廷で中臣鎌子が受け取った葛城王の木簡にはただそれだけが書かれていた。唐と新羅の連合軍によって滅亡が目前に迫る百済。その百済からの援軍要請を満たすための数千騎が揃わない。百済が完全に滅亡すれば唐は一気に倭国に攻めてくるだろう。だがその唐の軍勢を迎え撃つだけの戦力を倭国は未だ備えていなかった。古代に起きた国家存亡の危機がどのように回避されたのか、中大兄皇子と中臣鎌足の視点から描く古代飛鳥の歴史物語。
主要な登場人物:
葛城王(かつらぎおう)……中大兄皇子。のちの天智天皇、中臣鎌子(なかとみ かまこ)……中臣鎌足。藤原氏の始祖。王族の祭祀を司る中臣連を出自とする
天狗斬りの乙女
真弓創
歴史・時代
剣豪・柳生宗厳がかつて天狗と一戦交えたとき、刀で巨岩を両断したという。その神業に憧れ、姉の仇討ちのために天狗斬りを会得したいと願う少女がいた。
※なろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+の各サイトに同作を掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
隠密姫
鍛冶谷みの
歴史・時代
跡目争いが決着せず、改易の危機にある伊那代藩。
唯一の生き残り策は、将軍の養女となった老中の姫に婿として認めてもらうこと。
能と武術にしか興味のないうつけの若殿は、姫に認められるのか。
一方、若殿の後見役でもある叔父は切れ者として藩政を牛耳り、藩主の座を狙う。
おっとり姫とちゃきちゃき腰元のコンビ(実は反対)が、危機を救うのか、それとも潰すのか。
架空の藩、実在の人物はなし。箸休め的なお気楽時代劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる