祓魔師 短編集

のーまじん

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懺悔

黒魔術3

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 「牢の中で全てを知ったジル・ド・レ男爵は、しかし、そのすぐ後には忘れてしまいました。

 彼は心労と長年の不摂生と怪しげな儀式に蝕まれていたからです。

 あの、殿様の裁判に、カルロ様、あなたも出席なさいましたね?」
プレアティは穏やかにカルロに問うた。

「はい…いいえ。正確には出席はしませんでした。」
カルロはプレアティから視線を外した。
 ジル・ド・レ男爵の裁判を思うと暗い気持ちになった。
 カルロは、31年、ジャンヌ・ダルクが処刑された年に故郷を出て奉公をすることになった。
 もともと、寒村だったカルロの村は、イングランドとの戦いの為に子供を働き手として売るしかなかったのだ。

 近隣の村からも子供は集まりながら集まり、ノルマンディの主要都市、ルーアンに向かう。

 王を騙した魔女が処刑されるとあって、方々から人が集まり、親方衆との話し合いが楽だからだ。

 カルロには、道すがら仲間になった少年がいた。
 本当の名前は、ピエールだが、ピエールはよくある名前で沢山いたので、堀の深いイタリアのような顔立ちからルカニア…イタリアから来た男と呼ばれていた。
 ルカニアは、身長は高く腕が太く逞しいが、無口で大人しい少年だった。
 カルロは、戦争で身寄りがなく教会で育った彼が好きだった。
 文字が読め、ヨブ記の暗唱は美しくカルロの心を打った。

 その彼の骨を…ジルの屋敷でカルロは見た。

 殆ど肉が朽ちたその骨には、汚れた衣服が張り付き、彼の親が渡した唯一の財産である聖フランソワのメダルが首からかけられていた。

 25歳になったカルロは、その遺体の小ささに愕然とする。
 多分、16、17才で殺されたのだろう。最後の記憶の姿とさほど変わらない身長に胸がつかれた。

 許せないと思った。

 ジルの屋敷を調べるに当たって聞いていた、男色の噂が胸をえぐる。

 家族を欲しがったルカニア…鍛冶屋を目指すと言ったのは、カルロに職を譲ったからだ。
 本来なら、ラテン語の読み書きの出来ないカルロが鍛冶屋の親方につれて行かれるはずだった。

 怒りを制御出来ずに熱をだし、ジルの裁判には出席出来なかったのだ。


 「そうですか……。では、私は出席していました。」
プレアティは、何かを飲み込むような歯切れの悪い言い方をした。

 アンドレは一瞬、プレアティが泣いているように思えた。
 よくわからないが、ほんの一瞬だけ、彼が血の通った人間に見えて、次の瞬間、迷いを振るうように首をふり、十字を切った。
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