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のーまじん

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サイドビジネス

幸せを売る女(仮)8

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 メインを食べ終わったところで私達は一度、食器を洗ったり片付けを始めた。
 こういうところは、雑そうに見えて奈津子は気が利く。

 デザートを前に汚れ物を片付け、そして、旦那と息子の分の夕食を取り分け、冷蔵庫に入れる。

 色々意識し過ぎて話がうまく出来なかったので、
 変な話、この台所の洗い物がリラックスして一番楽しかった。

 ならんでシンクに立って世間話をする…
 くだらない話を沢山するのは楽しかった。

 最近、家から出る機会も減り、人の温もりを感じながら話す事がなかった事を染々と感じた。

 私達は、色々話した。
 仲間の忘年会で別れてからの苦労話やら、子供の頃のアイドルの話、綾子の噂話。

 そして、つい、今回使った食器のエピソードを話したために、奈津子が爆笑したのだ。
 「ちょっとぉ…、やめてよぅ。」
私は、この食器のエピソードを思って不機嫌になる。
 奈津子は私の顔を見て必死に笑いをこらえる。
「ごめん。ごめん。スミレにも、そんな頃があったんだって思ったら、可愛らしくて。」
奈津子は私から少しはなれて軽く前屈みになりながら呼吸を整える。

 「そんな言葉でごまかされないわよ。もうっ。
この食器の話、笑い話じゃなかったんだからっ。

 本当に…大変だったんだからっ。」
私は不満を感じながら奈津子を見た。

 そう、この結婚祝いの食器類は私の夢でもあった。
 西洋文学や昭和の少女漫画を愛した私は、西洋の田舎風の夕食に憧れていた。

 そして、中学時代からずっと、そんな夢を友達に語っていた。
 私は結婚して素敵な洋式の家を建てて、ハンバークとか、なんかお洒落なご飯を作るのだと。

 が、10才違いの旦那が、私のお父さんに結婚を許してくれるなら、婿養子になるなんて言い出すから、厄介な事になったのだ。

 お父さんは、当初反対していたけど、婿養子の一言で手のひらを返し、

 あれよあれよと結婚が決まった。
 が、旦那はすぐに海外に出張する事が決まっていて…(だから、焦って結婚しようとしていた。)

 で、20才で人妻の私は、実家に取り残されたのだった。

 私は、外国について行きたかったが、行き先が中東と言うことで親と旦那に反対された。

 それから、3年離ればなれに暮らし、
 1999年、忘れもしない世紀末。

 転勤届けを受理されて、晴れて実家で暮らし始めたそんな夏。

 世の中は人類の滅亡の7の月にざわめき、

 父さんと母さんは、あからさまに私達に気を使って少し長い…バカンスに出掛けた。

 二人っきりになった私達は、新婚気分で数日を楽しむ予定だった。

 勿論、私は数日前から食器をくれた友人にその話をして、夢の食卓のために準備をした。

 そして、テーブルをセッティングし、お父さんが食べろと置いていった見事な鯛の白身を使ってムニエルを作ったのだった。

 が、これが良くなかった。
 海外に長くいた年上の旦那は、父が釣ってきた新鮮で見事な鯛を刺身で食べたかったらしいのだ。

 「なぜ、こんな料理に…。」

 旦那は、お父さんが自分に気を使って用意してくれた最上の鯛を、刺身で食べるべきだと思ったのだろう。
 でも、今考えれば…バカンスを前に、鯛釣りなんてお父さんも行かなきゃよかったのよっ。
 全く、うちの男どもは…釣りになると、判断力がなくなるんだからっ(-_-#)

 脱線した。

 確かに、いま思えば、あの鯛をムニエルなんて、勿体ない気もする。が、私にも夢があり、釣りたての鯛のありがたみなんて、知ったこっちゃない。

 それで、外国にまで好き勝手に出掛ける事の出来る旦那と、結婚で家から出るチャンスが無くなった私の立場の違いや不満が、ここで爆発したのだった。

 ここは旦那が折れて、私の夢に付き合うべきだと考えてしまったのだ。

 で、私は旦那を口汚く罵って、
「だったら食べなきゃいいでしょ!」
と、泣きながらムニエルをゴミ箱に捨てたのだった。
 それで、旦那がブチキレて私の頬を叩き……

 「くそジジぃ…大っ嫌い。」
と、私はどこかで見たドラマの決め台詞のように叫び、そのまま家を飛び出したのだった。
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