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引きこもり少女と銀の魔法使い①

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どれくらいそうしていたのか
両手を地につけていた手のひらに草の感触

強く握りしめると草の匂いがした。

夢であれと思うが、これは現実みたいだ
もう一度、スマホを取り出して画面を見つめる

13:20

なんと一時間以上も放心していたみたいだ

スマホで現在地を検索してもやはり真っ白である

ここがどこなのかわからない

ゆっくりと立ち上がると改めて辺りを見回す

右手にはだいぶ遠くに鬱蒼とした森が広がっていて風が吹くとザワザワと音する

(深そうだな)

左手には高い石の塊のような岩山があった、岩山には所々に木が生えている

(登れそうかな)

その真ん中には草原のような原っぱで、所々丈の長い草が生えていた

とにかく広く、人や街は見当たらない

ここにこのままいるのは良くないのかもしれない

元いた世界とは違って救助など来るはずもない

夜の森は危険だと聞いたことがあるし

リンは岩山へ向かうことにした

夜になる前に休める場所を見つけたい

高い所から見渡せば人里とか、人とか、川とか何か見つかるかもしれない

獣とかいたらどうしよう
運転手からもらったポーチを肩にかけベルトを締める

スマホのプレイリストから曲を選択すると

ヘッドホンから微かに漏れる音楽に少しテンションを上げて

ポーチにスマホをしまってリンは歩き出した

キョロキョロと警戒しながら進んでいくい

歩きながら、考える 普通母の事故の連絡とかって電話では?

あの時は動揺して冷静じゃなかった
あの運転手が私を異世界に放り出したとしたら

家の前にタイミングよくタクシーが止まっていたのも偶然ではない?

ポーチからスマホを出し事故の連絡があったメッセージをもう一度みる

送信元は見覚えのない番号で母の携帯でも会社の電話番号でもメールアドレスもない

これ、、、。

フリーメッセージの送信元番号をタップすると

プルルルっと
発信音が鳴った

「繋がる、、、?」

プルルルっ

「はい」

(出た!?)

「その声は運転手?!」

「はい、どうですか?空気のいい所でしょう?」

運転手は軽い口調でそんな事を言う

「どうして私をこんな所に置いていくのよ!迎えに来てよ」

「え、無理ですよ転送する媒介に使ったタクシーが故障しまして」

あれが?タクシーが?
そんな装置だったと言うのか

「あ、そうそう、もう気づいているかもしれませんが、あなたのお母さん今も普通にお仕事中ですので」

「騙したの?詐欺師かあんたは」

「まあ、騙したというのはそうですね、あなた、全然あの家から出てこないもので」

リンは急激に頭の芯が冷えていくような感覚、、と憤りを感じた

「なんのために私をここに連れてきた」

口調も一音低く苛立ちを運転手にぶつけるように言葉を発する

「、、、、、、。それはまだ秘密ですね、言ってしまうと不利になってしまいます」

運転手はフフっと軽く笑い続ける

「あの家には強力な防護結界の魔法がかけてあるので、どうしてもあなたを誘き出すために騙すことになってしまったことはあやまっておきましょう。すいません」

なんだ結界って意味がわからない
なんだそのヘラヘラした謝罪は運転手が話すたび

私と運転手の温度差にイライラする

「お詫びにいい事を教えてあげますね、あなたに渡したバック何でも入る魔法のバックです。入れたものの時間を止めて保存できるので便利ですよ。容量は多分あなたのお部屋くらいかな?あなたの部屋の広さわかりませんが、そんなイメージです」

一方的に話す運転手の話を黙って聞いてはいるが怒りが収まらない

「しかしこの端末機便利ですね、通話とメールは私の持っている端末のみ使えるので、またかけてみてください。気が向いたら出ますので、ではこれで。
私はこれでも忙しい身のうえでして失礼。」

プツ
一方的に切られた通話にますます腹が立ち、すかさず再発信するが繋がらない

私はスマホを投げつけてしまう勢いでその手を振り上げる

がそんなことをしたら終わりだ
思いとどまりその震える手をもう一方の手で抑える

落ち着こう、これは唯一の希望だ

スマホを大事にポーチにしまう
とりあえず、お母さんは元気だ

私も元気。

立ち止まっていた足を動かす。

それから三時間ほどかけて岩山を登り
少し広い岩山の上から辺りを見回す

「ふわぁー!疲れた、、こんなに動いたの久しぶり、、、。」

きっと明日は筋肉痛


息を整えて眼下を見下ろす
「おお、すごいキレイ」
気持ちいい風が吹き抜ける
空は日が暮れかけていて、闇に染まる前の混ざり合った青と黄色、桃色のグラデーション、それに相まって上から見る自然の景色はとても美しく思えた。

リンはいつの間にかスマホを取り出して写真を撮った

そうしてだんだん夜に近づく
灯りのようなものは見えず、暗闇に染まっていく

怖い

ここには電気もない、火を起こす道具もない
もうすぐ闇になる

持ってくる三つの中にライターとか言っとくんだった

とりあえずそこらへんに落ちている木の枝や落ち葉を集めた

昔みた火起こしの動画を思い浮かべて木の枝のうえに木の棒を適当に刺し両手ですり合わせて摩擦を起こしてみる

「やっぱりそう簡単にはつかないかー」

火種さえ起こせない
日が落ちると寒くなってきた
そして心細い

スマホのライトをつけると灯りは取れるけど

寒さはどうにもならない
お腹もすいた

水も飲みたい

ここは高台だから少し休めるだろうか
歩き疲れていた、スマホのアプリは使えるのかな

さっきカメラ機能は使えたし、試しに日記アプリを開く

「あ、ちゃんと使えるっぽい、、、、他には、、、」

どんな原理なのかはわからないけど運転手以外にかけても繋がらない
相変わらず運転手も応答なしだった
メールも、メッセージアプリも、使える機能と使えない機能はおいおい試していこう。

「、、、、、、、、、。」

寒い、ヘッドホンをしよう、耳が暖かい
かも
「、、、、、、、、。」

音楽を聴こう、気が紛れる

心細い、寂しい、おかしな話だ、ずっと引きこもっていたのに

でもあの家にはお母さんも、花も、美音もいて

お母さんは何にも言わずにごはんを作ってくれた

花は私を疎ましく思っていただろうけど、声をかけてくれていたし

美音は私なんかに懐いてくれていた

一人閉じこもっていたけど、一人じゃなかった

でも、今は一人だ

リンはスマホを操作して元気の出る曲を耳に流す

そして元気よく歌い出した

どうせ誰も聞いていない。誰もいない。

一曲終わると少しポカポカしてきた

調子に乗ってもう一曲、今度は大好きなアーティストのバラードだ

夜空に歌が響く

曲が終わるとゆっくり体を倒して地面に背をつける

夜空が星でいっぱいだった

「異世界にも星があるんだ」

すっかり暗くなった空にいつの間にか星が光っている

月はない

「結構寒いけど寝たら風邪引くかも」

毛布とか布団とかこたつが恋しい。

目を閉じる

もう寝よう、明日は森に行ってみよう

朝なら森に入っても大丈夫な気がする

「、、、、、。」

「あれ?美しい歌声に誘われて来てみれば、死んでいる?」

低めの優しい男の声がした
誰もいないはずだった

リンは目を開け、その目を見開いた

浮いている人間を見るのは初めてだ

目の前には銀髪の長い髪の男がフワリと浮かんでこっちを見下ろしている

人が

浮いてる

「あ、生きてた」男も驚いた顔をしてリンをみつめる

言っていることはわかる、でも口から発せられている言葉は何語かわからない
異世界語?

「誰?」

私の口から発せられたのは日本語だ

「ん?わからないな、なんて言った?」

男は首をひねる仕種で少し考えるとゆっくり地面に降りてくる

どうしてこの男の言葉がわかるのか、心を読んだわけでもないのに

しかも自分の言葉はやはり伝わっていないようだ

リンは身を起こし男に向き直ると
男は背が高かった180センチ以上ある気がする

意を決して唱える
「イン」
すると男は意外そうな顔をしてニヤリと笑った

『なんだ魔法が使えるのか』

男の心が聞こえた

「魔法?」

父と秘密の魔法とは言ってみたりしていたけど
これは魔法?

「面白い、内面を探られているような気がする」

男はそう言って

身体を曲げるとリンの足裏を掴み肩に担いだ

まるで米俵でも担ぐように

「うわぁ?!」

そのまま浮き上がる

「ここで寝たら朝には死んでるかもな。もてなしてやろう」

何が起こったのか

結構な速度で移動していたように思う

気づけば木々の合間にある家の前にいた

中に入ると外から見たら温かみのある家に見えたけど、中は魔女の家に似た様子だった

大きな鍋にグツグツと何か煮えていて
そこらじゅうにあやしい何かが散乱している

もしかして食べられるのではと思っていると男はグイっとリンの手を引く

すぐ側には本が山積みで
自分の身長(160センチ)くらいの本の塔がそびえ立っていた

うっかり倒さないようにそれを避けると
奥は食卓になっているようだ

さらに奥はキッチンのようでそこからひょっこりと小さな男の子が皿を持って出てきた

「師匠、いきなり出てってどうしたんですか、早く食べましょう、よ、、?」

少年と目が合う

「え?誰ですか?まさか拐かしてきたのですか師匠!」

リンを見た少年が不審げに師匠を見る

「ああ、ただいまウル、違うよ、この子は、え~と死にかけの歌がうまい魔法使い?」

なんだその紹介は

リンが冷めた視線を男に向けた時

グーとリンのお腹が収縮するように音を立てた

つづけてグーとなり続ける

「この子の分も用意してあげて」

と男が頼むと今度はリンが少年から冷たい視線をいただく

「仕方ないな」

ふぅと呆れ気味にため息をつくと少年は皿を置き、
キッチンへ入っていく

それからすぐ少年はもう一枚皿を持ってくると鍋からトロリとスープを注いだ
グツグツと煮えていたのはトマト風のシチューのようなスープだった

席に着き、目の前に料理が並ぶと少年が

「どうぞ」

とスプーンを差し出してくれる

「ありがとう、いただきます」

リンは手を合わせてスプーンを動かす

リンの言葉を聞いて少年は首を傾げたが大体の意味を感じ取ったのか

構わず食事を始めた

スープは熱々で温かい味は深みと旨味がものすごくてとっても美味しい

男が水差しからグラスに水を注ぎリンの近くに置いた

「ゆっくり食べるといいまだまだある」

リンは目頭が熱く瞳が潤んでいくのがわかった

温かい食事と優しい言葉は目にくる

私がこの世界で初めて出会ったのはこの優しい魔法使いだった。






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