上 下
38 / 52

それは記憶で自分じゃない

しおりを挟む
ウルドは二つの記憶に悩まされていた

テレージアとフリードと
別れて
あれから一ヵ月

思い出した断片的な記憶を整理して

やっと、母とウルドの時間が埋まり
親子らしく話せるようになってきていた

と言っても母は10年ほどクリスタルの中で眠っていたため

年も近く母と言うより姉という感じで、
育ててくれた義母の方がやはり母という感じだ

(母さんにはまた、新たな人生を歩んでほしい)

それとは別に、頭を悩ませるのは前世の記憶だ

テレージアに会い、前世の兄に会った事で頭の痛みとともに
いろいろな記憶が蘇った

金髪の美しい、前世の母
昔の青の騎士団の部下
兄フリード
テレージア
かつての家族

そして、苦楽を共にした
アレン
七色の剣

何より、自分が
あのレアード•アルディンだという

到底受け入れ難い記憶

自分がレアードだとすると

ライアン副団長は前世の自分の息子って事になる

「今からどんなふうに見れば、、接すればいいのか」

そもそも、自分がレアードだと
知るものはいない

自分の中に記憶があるだけで

自分はウルド•スティアードだ

それを確固たる存在とする思いが自分にはあった




今日は休日で騎士団は休みだ

ライランド邸へ向かう少し登った
石畳の道を歩く

昨日、仕事終わりにミュリエルがテレージアに会いに行くと言うので

自分も連れて行って欲しいと言うと
了承してくれた

道すがら、綺麗な庭園の邸宅の東屋に
綺麗な夫人が座って編み物をしている姿が見えた

その姿に

懐かしく、心が騒いだ

その人が振り向くと目が合う

その人は柔らかく微笑んで会釈をくれる

(ああ、、そうか、、ここはライアン副団長の、、、かつての自分の家だ)

懐かしく思うのはレアードの記憶

立ち去らなければ、ただの不審者だ

しかし、なかなか立ち去ることが出来なかった

その時

ポンと肩を叩かれた

振り返るとそこにミュリエルとライアンが立っている

「ウルド、もー来たの?早かったね」
ミュリエルが言うと

ライアンも声をかけた
「どうしたんだ?こんなところに立ち止まって」

ミュリエルの手には大きな紙袋があって
その袋には彼女の好きなスイーツ店のロゴがある

「テレージアにお土産買ってきた」
ミュリエルがニコっと笑うと

庭からうれしそうな声が聞こえた

「まぁ、ミュリエルじゃない。あらライアンもおかえり」

柔らかい優しい声にまた、心が反応する

「お久しぶりですフィレア様」

「ちょうど良かった!さっきりんごのタルトを作ったの食べて行かない?」

「え!いいんですか?」
ミュリエルは喜び、夫人に促されるまま
中に入っていく

「はぁ、母上にも困ったものだ、ミュリエルに命を救われてから彼女の事がお気に入りでな」

ライアンはため息をつくと
ウルドに振り返る

「ウルドも寄って行ってくれ、母上のタルトはなかなかうまいから」


ライアンが玄関に向かう

ウルドは胸の辺りの服をぎゅッと握った

(知っている)

(彼女の作る料理はすべて美味しかった)

死んだ後、家に帰ってくることができるなんて

まるで、自分のことのように懐かしく
涙が出そうだった

「ウルド?」
ライアンの呼ぶ声にさえ、感極まる

「今行きます」


中に入ると、前世の記憶とあまり変わらない家の中

昔、愛した女性と、今好きな女性が仲良くお茶の準備をしていた

ウルドはいろいろな感情をとりあえず押し込み

フィレアに挨拶をした

「はじめまして、ライアン副団長の部下でウルド・スティアードと申します」

「あら、じゃあ
あなたも青の騎士団なのね」

「はい」

「ウルドは私の先輩なのですよ」

ミュリエルが嬉しそうに話す

「なんだかミュリエル様、嬉しそうですね~」

ここの侍女メリーが皿やカトラリーを運んできた

「はい、みんなとお茶会ができてうれしいです」

少し歳をとったフィレアが嬉しそうに笑う

ウルドはほっとした
(元気そうだ)

みんなが席につき夫人の作ったタルトと紅茶をいただく

「美味しい!」
ミュリエルの笑顔が弾ける

「うれしいわ、あなたのそんな顔が見れて」

「いっそうちの娘にならない?ライアンはどうかしら?」

フィレアが言うとお茶を飲んでいたライアンが咳き込む

「母さん!」

「あら、いいじゃない!こんなかわいい娘ができたら毎日楽しいわ」

ウルドは唖然とした

人たらしのミュリエルはどこに行ってもこうなのか

「そういえば!ミュリエルが夫人の命を救ったと聞きましたが、何があったのですか?」

ウルドは話題を変えようと話を振る

「あの時はほんとうに助かりましたよ」

メリーばぁやが思い出したように語った

「庭で倒れた奥様を見つけて、颯爽とお姫様抱っこで運んでくださって、手当てしてくださいました」

「あれから奥様はどんどん元気になって」

ウルドはじっとミュリエルを見た

視線に気づいたミュリエルはニコッと笑い、ハッとした表情になる

「あ!私、用事があるの忘れていました!」

「ああ、テレージア様に会いに行くんだったな」
ライアンが言う

「はい、これで失礼します」
ミュリエルは立ち上がりウルドを見た

「行こう、ウルド」

ウルドは立ち上がり、夫人に深く会釈をしてミュリエルについて行った


アルディン邸を出て
2人は無言でライランド邸までの道を歩いていると
唐突にウルドが口を開いた

「ミュリエル、ありがとう」

「なにが?」
微笑みながら返す彼女に

ウルドは曖昧に笑うと
今度は真面目な顔をした

「ミュリエルは副団長のとこに嫁ぐのか?」

「えー?あの家族のことは大好きだけど、ライアンとは結婚しないよ」

「そうか」

(よかった)

ウルドは胸を撫で下ろす

(そうだ、俺は彼女が好きなのだ)

(レアードは記憶であって、俺は今ウルドなのだ)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜

水垣するめ
恋愛
「あなたを愛することはありません」 ──私の婚約者であるノエル・ネイジュ公爵は婚約を結んだ途端そう言った。 リナリア・マリヤックは伯爵家に生まれた。 しかしリナリアが10歳の頃母が亡くなり、父のドニールが愛人のカトリーヌとその子供のローラを屋敷に迎えてからリナリアは冷遇されるようになった。 リナリアは屋敷でまるで奴隷のように働かされることとなった。 屋敷からは追い出され、屋敷の外に建っているボロボロの小屋で生活をさせられ、食事は1日に1度だけだった。 しかしリナリアはそれに耐え続け、7年が経った。 ある日マリヤック家に対して婚約の打診が来た。 それはネイジュ公爵家からのものだった。 しかしネイジュ公爵家には一番最初に婚約した女性を必ず婚約破棄する、という習慣があり一番最初の婚約者は『生贄』と呼ばれていた。 当然ローラは嫌がり、リナリアを代わりに婚約させる。 そしてリナリアは見た目だけは美しい公爵の元へと行くことになる。 名前はノエル・ネイジュ。金髪碧眼の美しい青年だった。 公爵は「あなたのことを愛することはありません」と宣言するのだが、リナリアと接しているうちに徐々に溺愛されるようになり……? ※「小説家になろう」でも掲載しています。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...