46 / 64
第四章 聖女編
43 負けられない戦いが始まりました
しおりを挟む
ソフィアと思わぬ再会をした僕だったが、どうやら犯罪者だったらしい。
いや、なんで?
記憶にないけど?
ソフィアは、僕がアリスを誘拐したと言った。確たる証拠もあると。
……もしかして。
変な誤解をしてるのか?
「えっと、一つ訂正させてもらってもいいかな?」
「犯罪者が何を言おうと犯罪者である事実は変わりませんけど、なんでしょうか?」
話くらいは聞いてあげます、と上から目線でソフィアは言った。
屋敷ではソフィアの上に立っていた僕だが、無職となって今ではメイドよりも下賎な身だ。
こういう態度を取られても仕方ないことだろう。
長話を付き合ってあげたのだから、もう少し友好に接してくれてもいいじゃないか、と思わなくもないけどさ。
ソフィアを助けたのは僕なのにさ。
……絶対に僕の口からは明かさないけど。
「誤解なんだ」
僕は言った。
「はて、なんのことでしょうか?」
僕とアリスしか知らない真実を打ち明ける。
「アリスと僕が共に王都を出たのは本当だよ。でも誘拐じゃない。アリス自らが屋敷を抜け出して、僕を追いかけてきたんだ」
「嘘ですね」
キッパリ、確信を持っているようだった。
「どうしてさ」
「アリス様は、あなたを嫌っていました。専属メイドである私が保証します」
嫌っていた?
逆じゃないのか?
「アリスは、僕のこと好いてくれていたよ」
自分で言うのは恥ずかしいが事実だ。アリスを見ていれば分かることだ。それに旅の始まりで、アリスは僕と一緒にいたいと言ってくれた。心配もしてくれた。だから、僕はアリスを旅に連れて行くことを決心したのだ。
「なんですか、それ。恥ずかしいセリフですね。アリス様が聞かれたら、あまりの気持ち悪さに失禁してしまいますよ」
ソフィアはふふっと微笑を浮かべた。
不愉快だった。
僕を小馬鹿にしたことではない。
アリスのことを知らなすぎることに対してだ。
ソフィアは、アリスの何を見てきたのだろうか。僕より長くアリスと同じ時を過ごしたはずだ。アリスを理解しようとは思わなかったのだろうか。
「アリスはそんなことしない。僕を、気持ち悪いと避けたりしない。お前らみたいに無職だからと差別しない」
アリスだけだった。
アリスだけが、僕を信じてくれた。
想ってくれた。
頼りにしてくれた。
褒めてくれた。
癒してくれた。
誰が何と言おうと、心に刻まれたこの熱は、偽物ではない。
「証拠はあるのですか?」
「__兄だから。それ以上でも以下でもないよ」
「気持ち悪いほどのシスコンですね」
うえっと本当に気持ち悪そうに言われると傷つくんだけど。
「いいでしょう。そこまで言うのなら、勝負をしましょう」
「勝負?」
「私とあなた、どちらがアリス様について詳しいのか勝負です! あなたが勝てば、あなたの言葉を信じましょう。逆に私が勝てば、私の言うこと全て無条件で聞いてもらいます」
「僕の負担大きすぎない!?」
「何ですか? 怖気づいたのですか? あなたのアリス様に対する思いはそんなものなのですか?」
「くっ」
な、何なんだ、この煽りメイドは!
「いいよ。その勝負受ける」
僕の言葉を信じさせるため、勝負を受けることにする。
「勝負内容は?」
「簡単です。先攻と後攻を決め、アリス様に関する問題を交互に出します。どちらか一方が、答えられなかった時点でその人の負けです」
「なるほど、簡単だ。問題は何でもいいの?」
「個人的なものは当然だめです。例えば、「自分の誕生日にアリス様から貰った品物は?」といったものです。アリス様とその人しか知らない事柄は答えようがありませんから」
僕とアリスだけの思い出話から問題を出すのは禁止ということか。
「アリス様と交流のある人ならば、知っているだろう問題に限定してください。それが守られればどんな問題でも構いません」
ソフィアの顔には自信があった。言葉通り、どんな問題でも絶対に答えられるという気概がみえる。
「先攻はお譲りします。私から勝負を挑んだのですからね」
「……ありがたく先攻で行かせてもらうよ」
先攻を譲られる形なのは納得いかないが、好機と捉えた方がいいだろう。なぜならこの問題次第では一瞬で勝負が決まるからだ。
考える。
余裕綽々なソフィアを負かす問題とは何か。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、特技といった単純なものではダメだ。
アリスの専属メイドの名は伊達ではない。常にアリスに付き従っていたソフィアには通用しない。
ではどうする。
ソフィアが知らず、かつ、アリスに詳しい人ならば知っていること。
……あれ、そんな問題あるのか?
今更ながら思った。
この勝負、負ける気はしないけど勝てる未来も見えないぞ。
「どうしました? 早く問題を出してもらわないと、勝負が成立しないんですが? まだですか? もしかして、アリス様のことを知らなすぎて問題が思いつかないのでしょうか?」
このメイド、腹立つなあ。
僕を煽るのも戦略なのだろうか。
仕方がない。まずは軽い問題で様子をみよう。
「じゃあ、アリスの趣味は?」
「ひねりもない緩い問題ですね。簡単です、答えはお菓子作りです」
「正解」
やはりこの程度では話にならない。アリスと一緒にいれば誰でも知っていることだ。
「次は私の番ですね」
ソフィアはどんな問題を出してくるだろう。
先ほど考えてみて分かったが、答える方より問題を作る方が案外難しい。
相手が知っていそうで知らない問題を捻り出す必要があるからだ。
ソフィアの手腕が試されるだろう。
「ーーアリス様が好まれるパンツの色は何色でしょう?」
「ん?」
聞き間違いだろうか。
パンツ? パンツと言ったのか? 下着の? あのパンツ?
いや、そんなはずがないだろう。
勝負事で、そんなしょうもない、と言ったらアリスに失礼だが、問題を出す人がいるだろうか。
たとえ思いついたとしても出す? 普通?
「もう一度言ってもらってもいい?」
「ですから、パンツです。アリス様が好きなパンツの色を答えてください。ぱんつぱんつ」
こ、こいつ終わっているだろ!
仮にもメイドだろ? 主人のパンツの色を問うとか正気じゃないだろ!
僕のことを脳なしとか言える立場か!?
僕がソフィアの頭の中に戦慄を覚えていると、
「あれ、答えられないのですか? あれほど啖呵切っておいて? 所詮、大言壮語だったということですね」
「くっ」
惑わされるな、僕。
頭のおかしな問題であることには間違いない。だがアリスに関する問題ではある。それに、微妙なところではあるが禁止事項に違反しているわけではない。
アリスの好きなパンツの色は何色か。
改めて考えてみると、良い問題だ。
……ん?
……良くないよ!?
いつの間にやら僕の思考回路がソフィアに毒されてきている。
危ない。危ない。
気をつけなければ。
とはいえ、問題は問題だ。答えられなければ僕の負け。
真剣に考えろ。
アリスが好むパンツの色。
純粋な白か。大人な黒か。情熱な赤か。はたまた可憐な桃色か。奇抜な黄色か。紫もありえる。
どれも似合う色であることは疑いようがない。
それでも一番アリスに似合う色はどれか?といえば、答えは自ずと一つに絞れる。
すなわち。
「白だ」
頭の中で想像して一番しっくりきた色を僕は答えた。
ソフィアは驚きの表情を浮かべる。
「迷うそぶりも見せずに即答!? まるで実際に見てきたかのような……ま、まさか……アリス様のお着替えを覗き見ていた!? へ、変態です! 無職の変態がここにいます!」
「お前がいうな!」
僕は叫び散らした。
勝負は始まったばかりだ。
いや、なんで?
記憶にないけど?
ソフィアは、僕がアリスを誘拐したと言った。確たる証拠もあると。
……もしかして。
変な誤解をしてるのか?
「えっと、一つ訂正させてもらってもいいかな?」
「犯罪者が何を言おうと犯罪者である事実は変わりませんけど、なんでしょうか?」
話くらいは聞いてあげます、と上から目線でソフィアは言った。
屋敷ではソフィアの上に立っていた僕だが、無職となって今ではメイドよりも下賎な身だ。
こういう態度を取られても仕方ないことだろう。
長話を付き合ってあげたのだから、もう少し友好に接してくれてもいいじゃないか、と思わなくもないけどさ。
ソフィアを助けたのは僕なのにさ。
……絶対に僕の口からは明かさないけど。
「誤解なんだ」
僕は言った。
「はて、なんのことでしょうか?」
僕とアリスしか知らない真実を打ち明ける。
「アリスと僕が共に王都を出たのは本当だよ。でも誘拐じゃない。アリス自らが屋敷を抜け出して、僕を追いかけてきたんだ」
「嘘ですね」
キッパリ、確信を持っているようだった。
「どうしてさ」
「アリス様は、あなたを嫌っていました。専属メイドである私が保証します」
嫌っていた?
逆じゃないのか?
「アリスは、僕のこと好いてくれていたよ」
自分で言うのは恥ずかしいが事実だ。アリスを見ていれば分かることだ。それに旅の始まりで、アリスは僕と一緒にいたいと言ってくれた。心配もしてくれた。だから、僕はアリスを旅に連れて行くことを決心したのだ。
「なんですか、それ。恥ずかしいセリフですね。アリス様が聞かれたら、あまりの気持ち悪さに失禁してしまいますよ」
ソフィアはふふっと微笑を浮かべた。
不愉快だった。
僕を小馬鹿にしたことではない。
アリスのことを知らなすぎることに対してだ。
ソフィアは、アリスの何を見てきたのだろうか。僕より長くアリスと同じ時を過ごしたはずだ。アリスを理解しようとは思わなかったのだろうか。
「アリスはそんなことしない。僕を、気持ち悪いと避けたりしない。お前らみたいに無職だからと差別しない」
アリスだけだった。
アリスだけが、僕を信じてくれた。
想ってくれた。
頼りにしてくれた。
褒めてくれた。
癒してくれた。
誰が何と言おうと、心に刻まれたこの熱は、偽物ではない。
「証拠はあるのですか?」
「__兄だから。それ以上でも以下でもないよ」
「気持ち悪いほどのシスコンですね」
うえっと本当に気持ち悪そうに言われると傷つくんだけど。
「いいでしょう。そこまで言うのなら、勝負をしましょう」
「勝負?」
「私とあなた、どちらがアリス様について詳しいのか勝負です! あなたが勝てば、あなたの言葉を信じましょう。逆に私が勝てば、私の言うこと全て無条件で聞いてもらいます」
「僕の負担大きすぎない!?」
「何ですか? 怖気づいたのですか? あなたのアリス様に対する思いはそんなものなのですか?」
「くっ」
な、何なんだ、この煽りメイドは!
「いいよ。その勝負受ける」
僕の言葉を信じさせるため、勝負を受けることにする。
「勝負内容は?」
「簡単です。先攻と後攻を決め、アリス様に関する問題を交互に出します。どちらか一方が、答えられなかった時点でその人の負けです」
「なるほど、簡単だ。問題は何でもいいの?」
「個人的なものは当然だめです。例えば、「自分の誕生日にアリス様から貰った品物は?」といったものです。アリス様とその人しか知らない事柄は答えようがありませんから」
僕とアリスだけの思い出話から問題を出すのは禁止ということか。
「アリス様と交流のある人ならば、知っているだろう問題に限定してください。それが守られればどんな問題でも構いません」
ソフィアの顔には自信があった。言葉通り、どんな問題でも絶対に答えられるという気概がみえる。
「先攻はお譲りします。私から勝負を挑んだのですからね」
「……ありがたく先攻で行かせてもらうよ」
先攻を譲られる形なのは納得いかないが、好機と捉えた方がいいだろう。なぜならこの問題次第では一瞬で勝負が決まるからだ。
考える。
余裕綽々なソフィアを負かす問題とは何か。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、特技といった単純なものではダメだ。
アリスの専属メイドの名は伊達ではない。常にアリスに付き従っていたソフィアには通用しない。
ではどうする。
ソフィアが知らず、かつ、アリスに詳しい人ならば知っていること。
……あれ、そんな問題あるのか?
今更ながら思った。
この勝負、負ける気はしないけど勝てる未来も見えないぞ。
「どうしました? 早く問題を出してもらわないと、勝負が成立しないんですが? まだですか? もしかして、アリス様のことを知らなすぎて問題が思いつかないのでしょうか?」
このメイド、腹立つなあ。
僕を煽るのも戦略なのだろうか。
仕方がない。まずは軽い問題で様子をみよう。
「じゃあ、アリスの趣味は?」
「ひねりもない緩い問題ですね。簡単です、答えはお菓子作りです」
「正解」
やはりこの程度では話にならない。アリスと一緒にいれば誰でも知っていることだ。
「次は私の番ですね」
ソフィアはどんな問題を出してくるだろう。
先ほど考えてみて分かったが、答える方より問題を作る方が案外難しい。
相手が知っていそうで知らない問題を捻り出す必要があるからだ。
ソフィアの手腕が試されるだろう。
「ーーアリス様が好まれるパンツの色は何色でしょう?」
「ん?」
聞き間違いだろうか。
パンツ? パンツと言ったのか? 下着の? あのパンツ?
いや、そんなはずがないだろう。
勝負事で、そんなしょうもない、と言ったらアリスに失礼だが、問題を出す人がいるだろうか。
たとえ思いついたとしても出す? 普通?
「もう一度言ってもらってもいい?」
「ですから、パンツです。アリス様が好きなパンツの色を答えてください。ぱんつぱんつ」
こ、こいつ終わっているだろ!
仮にもメイドだろ? 主人のパンツの色を問うとか正気じゃないだろ!
僕のことを脳なしとか言える立場か!?
僕がソフィアの頭の中に戦慄を覚えていると、
「あれ、答えられないのですか? あれほど啖呵切っておいて? 所詮、大言壮語だったということですね」
「くっ」
惑わされるな、僕。
頭のおかしな問題であることには間違いない。だがアリスに関する問題ではある。それに、微妙なところではあるが禁止事項に違反しているわけではない。
アリスの好きなパンツの色は何色か。
改めて考えてみると、良い問題だ。
……ん?
……良くないよ!?
いつの間にやら僕の思考回路がソフィアに毒されてきている。
危ない。危ない。
気をつけなければ。
とはいえ、問題は問題だ。答えられなければ僕の負け。
真剣に考えろ。
アリスが好むパンツの色。
純粋な白か。大人な黒か。情熱な赤か。はたまた可憐な桃色か。奇抜な黄色か。紫もありえる。
どれも似合う色であることは疑いようがない。
それでも一番アリスに似合う色はどれか?といえば、答えは自ずと一つに絞れる。
すなわち。
「白だ」
頭の中で想像して一番しっくりきた色を僕は答えた。
ソフィアは驚きの表情を浮かべる。
「迷うそぶりも見せずに即答!? まるで実際に見てきたかのような……ま、まさか……アリス様のお着替えを覗き見ていた!? へ、変態です! 無職の変態がここにいます!」
「お前がいうな!」
僕は叫び散らした。
勝負は始まったばかりだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
112
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる