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第二章 覚醒編

5 旅が始まりました

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無職になった理由を解明する旅に出ようとした僕、アレクは妹アリスの懇願を拒否できず旅に同行させることにした。

「ところでお兄さまは、どこに向かわれておられるのですか?」

二人で王都を出て一時間が経過したときだった。

地図を見ながら街道を進む僕に、
黙々と後ろに付いて歩いていたアリスが急に立ち止まり聞いてきた。

「あれ、言ってなかった?」

「聞いてません!」

「そうだっけ」
てっきり伝えていたと思っていたが、違ったようだ。

「もう! お兄さまはいつもそうです! 一人でなんでもしようとして情報共有を疎かにするんですから!」

ぷんぷんと腰に手をあて注意してくる妹に、僕は笑いながら謝る。

「ごめんごめん」

ついでに頭を撫でてやると、

「そうやってすぐ頭を撫でて誤魔化そうとしないでください! ……もうっ」

といいつつ、大人しくなるのだから可愛いものだ。

「行き先はフリーユの街だよ」

「それは! ……どこですか?」

がくっ。

頭にはてなマークを浮かべるアリスに、僕は優しく教える。

「アリスはもう少し勉強しないとね。フリーユは交易で盛んな街なんだ」

自由都市フリーユ。
王都から東に徒歩ひと月の距離にあるこの街は、交易が盛んな街として有名だ。
海に近く、あらゆる国や街から物資や人が流れてきて、大きな市場がつくられている。
武器、防具、食材、調度品……ありとあらゆるものがフリーユには揃っている。
フリーユにないなら、どこにもない。
そんな逸話があるほどだ。
僕がフリーユを最初の目的地に決めたのは、この点にある。
人が集まるということは、人の数だけ営みがあり考えがあり情報があるということだ。
この旅の目的は、僕が無職になったことを解明すること。
それにはまず情報が必要だと考えた。
情報を集めるには人が多いところに行くのが1番だ。
というわけで、行き先にフリーユの街を選んだのだ。

「なるほど! さすがお兄さまです!」

アリスは旅の行き先がわかるとはしゃぎ出した。
フリーユの街に行くのが楽しみになったようだ。

「アリス、今からはしゃぐと体力がもたないよ。あとひと月もかかるんだから」

「それもそうですね!」

スキップしながら言われても説得力ゼロだよ……。

呆れつつも、僕はアリスの楽しそうにしている様子にほっと胸を撫で下ろす。

今回の旅をするにあたって最初に僕たちはとある決め事をした。
それはお金の使用を最小限に抑えること。極力無駄遣いはせず、節約を心がけることにしたのだ。

アリスが持ってきたバックパックには二人分の着替えに、ナイフや鍋などのサバイバルグッズ、携帯食料と水、そして金貨の入った皮袋があった。

アリスは始めから本当に旅に出ようとしていたのだ。準備の良さに驚きを通り越して呆れたものだ。

アリスのおかげで資金は潤沢だ。

街に戻り、荷馬車を借りて進むこともできたのだが僕はあえてそうしなかった。

この先何が起こるかわからないからだ。

資金はあっても、現状お金を稼ぐ方法は見つかっていない。

もしものときに資金が尽きるのを防ぐため節約することにしたのだ。

ひと月も歩くことになりアリスから不服の声が出るとも思ったが、逆でむしろ喜んでいた。

なんでも、
「お兄さまと二人きりの時間が長くなるわけですね! ゆっくり行きましょう!」
ということらしい。

返答に困った僕は頷く程度に止めるしかなかったが。

ふと顔を上げると、空は茜色に染まり始めていた。

「そろそろ日が暮れる頃だね。今日はここで野宿しよう」

歩き続けて6時間。日没が近くなってきたため、僕は街道を抜けて野営できる場所を探す。

「この辺がいいかな」

森の中に開けた場所を見つけたため、そこを本日のキャンプ地にきめる。

「僕はこの辺で晩御飯の獲物を探してくるから、アリスはこの場にいるように。何かあったらすぐに声を上げること。いいね」

「わかりました」

どうしたのか。
アリスの返事に覇気がなかった。

元気のないアリスを一人にするのは気がかりだったが、それよりもご飯を探さないと餓死してしまう。
二人が生き残れるかは僕の頑張りにかかっているのだ。
話は後で聞くことにして、僕はアリスに荷物を預けて森の奥深くに入った。

手にはナイフがある。
これで獲物を仕留めるつもりだ。

森は自然の宝庫だ。

少し奥に進んだだけで、すぐにいい感じの獲物を見つける。

角兎ホーンラビットだ。

頭にインプットした図鑑によれば、魔物の部類に入るものの強さはE級と最低だった。
無職の僕でも倒せる相手だろう。

「あれを今日の夕飯にしよう」

そう決め、角兎に気取られずにゆっくり近づく。

遠距離を攻撃できる武器があればよかったが、無い物ねだりしていてもどうしようもない。

気取られることなく近づきナイフで刺し殺すしかない。

僕は慎重に、なるべく呼吸音を止めるように進む。

ゆっくり。ゆっくり。

緊張により汗が滴る。これほどまでに緊張したのは職業クラスを神官に鑑定してもらったとき以来だ。

実際は無職だったわけだが。

そしてついに角兎との距離が目視5メートルを切った。

ここから先は隠れられるところはないため一発勝負となる。

呼吸を落ち着かせ機会を見計らう。

角兎は、こちらに背を向けて耳をピクピク動かしながら草を美味しそうに食べている。

完全に油断しているのだろう。

行くぞ。

ーーー今だ!

角兎が新しい草に飛びついた瞬間、僕は木陰から飛び出しナイフを持って駆け出した。

この一撃で決める。

「シッ……!」

キュルルル!?

角兎ホーンラビットは完全に油断していたのか、僕の一振りに対処できず、腹に致命傷を負い呆気なくその命を枯らした。

「よしっ! これで生きられるぞ!」

どうにか今日一日は餓死することはなさそうだ、とほっと一安心した時だった。


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熟練度が一定に達しました
スキル ナイフⅠ  を取得しました

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摩訶不思議な声が聞こえてきたのは。
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