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無口な百合は視られる③

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24時間を渡す。

この毎週1時間行っている行動を24時間。

1時間くすぐっていたのが24時間。

ゾクリと体が震える。
それを分かってか、末樹は梵天の動きを止め、再び頭を撫で始めた。

「大丈夫…いっぱいキスしてあげるから…」

小声で、珍しく少し恥ずかしそうに末樹が呟く。

「…」

これは罠だ。

今日のこの時間は優しくする事で明日たっぷり弄ぶ気なのだ。

分かってる。分かってる…。

「本当に…全て借金払ってくれるの…?」

それで大好きな父親の苦しみが解放されるのなら、

「うん、約束する」

これで全てが終わるのなら、

「分かった…明日の24時間を…あげます…」

勝負をしよう。

「ありがとう」



――それから数十分後、百合と末樹は外にいた。

「ねえ、外にでない?」という末樹の突発な提案という命令から
帰り支度は済ませていたため、帰路につく事になり、
途中の公園のベンチで腰を下ろしていた。

公園には静かなりにそれなりに人がいた。

古くからある公園で子どもからご老人までに愛されているローカルスポットなのである。

他校の制服を着ている学生もみえるが同じ高校の制服をきている人はいない。
もし自分なんかが学校のアイドルの末樹と同じベンチに座っているとこなど見られたら…。

「ねえ百合ちゃん、キスしよ?」

などと考えていると、もっと窮地に追い込まれた。

「こっ…ここでっ…!?」

人混みという程ではないにしろそれなりに人がいる。
そんな中ベンチに座っている学生がキスなんてすれば周りの目に間違いなく留まるだろう。
ましてや女の子同士で。

「ここでは…ちょっと…」

「だーめ」

まだ1時間経っていない状態でその命令に逆らう事ができない。
それでもと説得を試みる。

「同じクラスの子に見られかもしれないよ…!?」

「へへっ、見られてもいいよ」

珍しく早口な百合の弁明にも聞く耳を盛らず、とろりとした目で百合の頬に手を置く。
その隣に座る可憐な少女の顔と、いつも身体に触れる温かい手で鼓動が少し早くなる。

「でも…まだ…」

その、スイッチが入っていない。
とまでは勿論言えない。

「だから…んっ…」

目を逸らし必死に説得しようとする少女の唇に、可憐な天使の様な少女の唇が触れる。

ベンチに隣同士座ったまま、顔だけが触れあう。

目の前には末樹の顔、周りの視線は気付かない。
だが、自分達が視られているようなひそひそ声が聞こえる。気がする。

「んっ…ぅ…ふぁ…」

末樹の舌が入ってくる。
いつもの濃厚なキスと同じ。

ただそれが外で、公園で行われると、また感触が違う。
外の空気が自分たちの唇と舌に触れ、
周りの耳には車の通る音、人の声、足音。

「ぇぅ……んむ……ぁ…」

恥ずかしい。
恥ずかしい恥ずかしい。

でも、末樹のキスはいつもと変わらず自分の脳内を溶かしてくる。
その意識を遠のかせるキスは、周りの視線を気にせず責めてくる。
だから、自分もそれに応える。

「はぅ……んん……」

いつもやり場に困っていた自分の手は、いつもより短いスカートを履いた末樹の太ももにそえられ撫で始める。
それと同時に末樹のキスがまた激しくなった気がした。

「ふぁ…ふぅ……ぁっ…」

知り合いに視られたどうしよう。

…その時はその時考えよう。

今はキスを続けよう。

今はキスを続けたいから…・

「んんっ…ぅ……はっ…ぁ…」

――この日の1時間はいつもより10分過ぎて終了した。
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