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腋【告白】

腋①

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「あちぃ…」

梅雨が明け気味で気温が急激に上がる季節。
まだ炎天下という程ではないが太陽は憎らしく、
なにより続く雨の影響で湿度が高い。
じめじめした憂鬱な気温。

その中グラウンドで行われた体育の授業を終え、
体操服姿の立川 愛理(タチカワ アイリ)はだらだらと校舎に戻ろうとしていた。
が、気になるものを見かける。

校舎に戻っていく女子生徒とは逆に、グラウンドの方へ歩いてくる男子生徒がいる。
体育は男女別で行われ、男子は体育館で本日は行われていた為不思議に思う。
その男子が愛理に近付いてきて誰か分かった。
近藤 琢磨(コンドウ タクマ)。愛理が密かに想いを寄せている男子生徒。

その琢磨が愛理の方へと近付いてくる。

「よ、よう。近藤じゃん。こんなとこでどしたん?」

琢磨に声が届く距離まで来たので話しかけると、琢磨は愛理の正面で立ち止まる。

「愛理、告白させてくれ」
「はあ――!?」

周りの女子が2人を見ながらヒソヒソ話し、校舎へと歩いていく。
好きな異性からの告白に愛理の思考が停止しかける。
いや、何かの勘違いかもしれない。

「え、なん…どういう意味!?」

「愛理、好きだ!付き合ってくれ!」

校舎に戻りかけた女子達のざわつきが大きくなる。
勘違いでもない。
目が回る。
嬉しい。

「わ…私も好き…です!」

「本当か!?良かった……!」

安堵の表情を浮かべ胸を撫で下ろす琢磨を見て顔が熱くなる。
額に流れてくる汗は蒸し暑い気温だけが原因じゃない。
夢みたいだ。

琢磨がゆっくり愛理の側へと歩み寄る。
そのまま琢磨よりやや低い位置にある愛理の肩に手添える。

「じゃあ舐めるぞ…?」

「……え」

愛理の思考が再び停止しかける。

「い、いいいやいやいや、舐めなくても付き合うから!大丈夫だから!」

「いや、告白の返事は10分間舐め終わった後のものが適用される。舐めるぞ」

琢磨の表情は真剣そのもの。
その真剣な顔で食い気味に見つめてくる。

「だ、大丈夫だって!私も好きだから!舐めなくてもいいから!」

「ルールはルールだ。守らねばならない」

周りの女子達が名残惜しそうに校舎に戻っていく。
蒸し暑さ、嬉しさ、焦り。
いろんな要因で更に汗が流れる。

「わ、わわわ分かった!じゃあ次の授業があるし!後で!な!?」

「駄目だ!今すぐ答えを聞きたい!告白は授業より優先される事が許されている!」

どんどん琢磨の顔が近付いてくる。
全力で顔を逸らす。
体温が上がる。

告白されて嬉しい。
いつもなら舐められるのも嬉しく思うはず。

だけど今は駄目。
体育終わりでまだ体操服から着替えてない。
蒸し暑い中での運動後。
恥ずかしさや焦りで上がる体温。

「わ、私…汗っかきなの!駄目なの!」

汗っかきと言っても平均的な人より若干程度。
それでも間違いなく汗をかいている今。
何も準備もしていない今。
そんな今、好きな男子に顔を近付けるのは嫌だ。

汗っかきだと嫌われるかもしれない。
臭いで嫌われるかもしれない。
恥ずかしい。

「大丈夫だ。俺は汗なんて気にしない」

「……」

真剣なトーン。ズルい。
本来告白される側は舐められる事に拒否権は無い。
なのにちゃんと同意を得ようとしてくる彼の優しさに惚れ直す。

少しの間、少しの間恥ずかしい思いを我慢すれば良いんだ。

「……分かった。どこ…舐めるの?」

「ありがとう。腋を出してくれ」

優しくなかった。
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