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8章
78【吉原豆知識】※
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「それにしても遅いなぁ、陸奥のやつ。もうとっくに16時半過ぎてるってのに」
朝夷は先程の丹生と同じように後ろ手をつき、長い足を伸ばしてうんざりと声を上げた。丹生は座敷をあちこち見て周りながらのんびり答える。
「定時きっかりで終わるとは限らないんじゃねーの? 急いでるワケでもないし、気長に待とうぜ」
座敷は襖を隔てて二間に別れており、奥の襖は閉じられている。
「なぁ、こっちって何があんの? 勝手に見たらヤバいかな?」
「大丈夫だよ、開けてごらん」
丹生は一瞬、躊躇したものの、好奇心に負けてそっと開いてみた。座敷の中央には大きな赤い敷布団が据えられており、何をするための部屋かひと目で分かった。
「おお、すっげぇ! めっちゃヤリ部屋じゃん!」
「言い方……まぁ間違っちゃいないけど……。そこは寝屋って言うんだよ」
丹生のあけすけな物言いに苦笑しつつ、朝夷も並んで覗き込む。
「璃津は寝屋を見るのは初めて?」
「寝屋どころか、座敷に上がった事もねぇよ。見回りとか集金に付き合ってただけだから、見世の中がどうなってんのかまでは知らないんだ」
朝夷は「なるほどね」と相槌を打ち、布団を指さして豆知識を伝授した。
「敷布団が3枚重なってるの、分かる? あれは三つ布団っていって、上級娼妓にのみ許される数なんだよ。陸奥が吸い付けタバコに出してきた煙管も、やたら長かったでしょ? 太夫や花魁は最短でも1m以上の物を持つしきたりでね。逆にそれ以下の格には許されないんだ。吉原にはそうして、見た目ですぐに格が分かる仕組みが多いんだよ」
「へえー。格付けは値段にも影響するし、大事なステータスだもんなぁ。見た目で差別化をはかるってのは、確かに分かりやすくて良いな。特別待遇を目の当たりにすりゃ、他の娼妓の向上心も高まるだろうし。よく出来てやがるぜ、吉原ってとこは」
感慨深そうに寝屋を見回す丹生に、朝夷の悪戯心がむくむくと湧き上がる。するりと丹生の腰に手を回し、耳元へ顔を寄せて艶やかに囁いた。
「こういう所でするのも、風情があって良いと思わない?」
「確かになー……っておい。どこ触ってんだコラ。弟の職場で変な気おこすんじゃねぇよ」
「えー、だってあいつ来ないし。こんな部屋見てたら、あの上でよがる璃津が見てみたくなっちゃったんだもん。鮮やかな赤にその白い肌が、きっとよく映えるよ」
背後から覆い被さるように密着され、スラックスの上部から手が滑り込んでくる。丹生はぎょっとして押し退けようと体を捻った。
「ちょ、待て待て! なに考えてんだバカ! 冗談……んん……っ」
指の腹で後孔を押され、ぞわりと欲情が背筋を駆け抜ける。
「アハ、少し触っただけなのに、すぐ柔らかくなるね。今朝した名残かな?」
「っ、ぁ……お前が……勝手に盛っただけだろ……」
「寝顔が可愛くて。璃津こそ、寝ぼけながらしっかり感じてたくせに。毎朝、あれで起こしてあげようか?」
「バカ、か……っ」
そんなやり取りをしているうちに、指が潜り込んできて足の力が抜ける。丹生は座敷側に体を逃がしながら抵抗する。
「やめろって! こんなとこ陸奥さんに見られたら……」
「大丈夫だよ。あいつはこういう事が仕事なんだから、見慣れたもんさ」
「んなワケないだろ! まじで……ぅあっ! やっ、そこ……触ん、な、ァっ!」
「んー? そこってどこ? ここ?」
「イっ、あぁ! やッ……それ、ヤダっ……! んっ……はア、ぅうッ!」
「ああ……堪らないよ……。無駄な抵抗する璃津って、本当に可愛いね」
匍匐前進のようにずりずりと座敷へ逃れようとするものの、朝夷の指が的確に快い所を刺激し、あられもない声が上がる。
囁かれる低く優しい声音に理性が呑まれかけた時、勢い良く座敷の襖が開かれた。
「人の部屋で何やってるんですか、兄さん」
黒い笑みという物があるとしたら、恐らくこの時の陸奥の表情を言うのだろう。美しい微笑をたたえつつ、目元に影を落として口角を引きつらせている。
陸奥の背後からは、数名の和装美男らが興味津々で覗き込んでいた。朝夷は丹生にのしかかったまま、片眉をはね上げて笑う。
「遅いんだよ、陸奥。取り巻き集めに時間くってたのか? そんなにぞろぞろ引き連れて」
「貴方たちが騒いでるので、みんな何事かと集まってきたんですよ」
陸奥の後ろに屯している美男らから、ざわざわと驚きの声が上がる。
「あの人が陸奥さんのお兄さん? はー、さっすが兄弟。ハンパねぇ男前だな」
「やってる事も半端ないけどね……。あの組み敷かれてる子、誰なんだろう。大丈夫なのかな」
「ん? あの背格好、何か見覚えある気がすんだけどなー……。どこで見たんだっけか……」
「どっかの太夫とちゃうか、えげつない美人やし。つーかなんなん、この状況。これからまさかの兄弟3P?」
「えー、いいなぁー。俺も混ざりたぁい。美男との乱交とか天国すぎるぅ」
朝夷の指が挿入ったまま好奇の視線に晒され、丹生は帽子を目深にかぶって顔を隠す。思い切り文句を言いたいが、朝夷はまだゆるゆると指を動かしているため、迂闊に口を開いて更なる醜態を晒すのだけは御免だった。
陸奥はやれやれと嘆息し、ぴしゃりと後ろ手に襖を閉めた。向こう側からは、野次馬たちのくぐもった非難の声が上がっている。
「お待たせした事はお詫びしますが、いくらなんでもそれはどうなんですかねぇ。璃津さんが可哀想でしょう」
「よく言うよ、鬼畜ドSサイコパスのくせに」
「っ、それはお前だろ……っ! も、はやく退けって!」
「えー、俺は優しいでしょ? いつもこんなに可愛がってるのに、酷いなぁ」
ぐり、と強く中をこねられ、丹生から短い嬌声が上がる。
「ふ、ぅ……くそっ……! やめろっつってんだろ……このド鬼畜変態ッ」
「あー、まだ言う? だったら陸奥とどっちが鬼畜か比べてみようか」
「はぁ……? まじ、頭おかしいんじゃねぇの……。そんなの、陸奥さんが乗るワケねぇだろ……っ」
荒く息を吐きながら頬を上気させる丹生を見下ろし、陸奥は「ふむ」と嫌な予感をさせる声を漏らした。
「璃津さんは俺の吸い付けを受けた訳ですから、少々、お手合わせ願っても良いという事ですよね」
「エ゙っ!?」
まさかのセリフに、丹生は仰天して素っ頓狂な声を上げた。朝夷は「だからヤバいって言ったでしょ」と呆れたように言う。
陸奥は丹生の帽子を取り上げると顎を持ち上げ、必死で快楽を押し殺す表情を愉快そうに眺めた。
「ほう……。美人が苦悶する様というのは、やはり良いものですねぇ」
「ほら見ろ、やっぱりドSじゃないか」
丹生はどっちもどっちだと思いながら、前後を鬼畜兄弟に挟まれた己の身がどうなるのかと身震いする。
「お前の寝屋、使って良いよな?」
「良いも何も、そういう事は寝屋でするものですよ。座敷で組み敷くなんて、本来マナー違反なんですからね」
「じゃ、遠慮なく。はあー、あそこでぐちゃぐちゃになる璃津、想像しただけで滾るなぁ。嬉しいなぁ」
うきうきと丹生を正面から抱き上げる朝夷に、丹生は震える声で問いかける。
「なぁ、ちょっと待てよ……。冗談だよな……? マジでヤる気じゃないだろ……? し、しかも3人って……」
「んー? それは璃津次第だよ」
「はっ!? この状況のどこが俺次第なんだよ!?」
ふわりと柔らかい布団へ下ろされ、鼻が付く至近距離で朝夷が囁いた。
「陸奥の誘いに乗ったのはお前なんだから、俺が決める事じゃないでしょ」
「い、いや、だからあれは知らなくて……!」
「お前は誰でもすぐ咥え込むからね。せっかくだから、吉原屈指の太夫も味わってみれば? 萎びかけの大幹部より、よっぽど快くしてもらえると思うよ」
丹生はようやく理解した。朝夷は先日、逢坂とひと晩過ごした事を、酷く怒っているのだと。
「そんな今更……。アレは仕事の一環で……」
「そうだね。だったら今更、誰に抱かれようと気にする事ないよね」
「ちょっと待っ……んぐっ……ッ」
朝夷は気味が悪いほど優しい声と仕草で、丹生の口を手で塞いだ。丹生の頭上から、陸奥の呆れた笑い声が降ってくる。
「璃津さん次第なんて言っておきながら、そんな事をしたら元も子もないじゃありませんか」
「良いの、これはちょっとしたお仕置きだから。そもそも誘ったのはお前だろ? ほら、好きに弄れよ。太夫の手練手管ってやつを見せてやれ」
「兄さんも案外、意地が悪い」
朝夷は丹生の口を左手で塞いだまま、右手で器用にスラックスの前を開き、下着ごと取り払う。抵抗する腕をひとまとめにして、頭の上へ押さえつけながら陸奥とポジションを交代した。
あらわになった内ももに陸奥の手のひらが滑り、ぞわりと鳥肌が立つ。吐息がかかり、ぬめる舌が這わされると、丹生は喉を逸らせて呻いた。
「璃津、目を開けて。俺を見て」
甘く囁かれ、固く閉じていた目を恐る恐る開くと、恍惚とした朝夷が見下ろしている。
「不安そうだね。嫌なの? 怖いの? その顔、すごく可愛い。大好き」
下腹部から陸奥の「悪趣味」と呟く声が聞こえ、まったくだと思った瞬間、丹生のそれが生暖かい口腔へ含まれた。陸奥の舌技はさすがに巧みで、まるで生き物のように不規則に絡みつき、吸われ、時折わざと歯を当てられて体が跳ねる。
朝夷に口付けられ、未経験の快楽に頭の芯がぼうっとし始めた。これまで複数人と性行為をした事は無く、舐められながら口付けられる感覚に混乱する。
腰が持ち上げられ、陸奥の舌が後孔へ移動すると、途端に丹生は激しく首を横に振り、強い抵抗を見せた。口が解放されると同時に、悲鳴じみた声で叫ぶ。
「っ、ィヤ! それやだッ! やめ──ん゙ん゙っ!」
再び手で口を塞がれ、悲痛な呻きが喉から漏れた。
「璃津は本当にそこ舐められるの苦手だよね」
「どうしましょう、やめますか?」
当たり前のように朝夷へ問う陸奥に、聞く相手が違うだろ、人権無視か、と思った。
「良いよ、やっちゃって。この機に開発しておらおうね、璃津」
「ん゙ン゙ーッ!」
いやいや、と首を振る丹生に、朝夷は子どもをあやすように優しく言う。
「大丈夫。なんたって陸奥はプロ中のプロだから、きっと気持ち良くなれるよ」
そういう問題じゃねぇ、という叫びも、虚しい唸りとなるのみだった。
朝夷は先程の丹生と同じように後ろ手をつき、長い足を伸ばしてうんざりと声を上げた。丹生は座敷をあちこち見て周りながらのんびり答える。
「定時きっかりで終わるとは限らないんじゃねーの? 急いでるワケでもないし、気長に待とうぜ」
座敷は襖を隔てて二間に別れており、奥の襖は閉じられている。
「なぁ、こっちって何があんの? 勝手に見たらヤバいかな?」
「大丈夫だよ、開けてごらん」
丹生は一瞬、躊躇したものの、好奇心に負けてそっと開いてみた。座敷の中央には大きな赤い敷布団が据えられており、何をするための部屋かひと目で分かった。
「おお、すっげぇ! めっちゃヤリ部屋じゃん!」
「言い方……まぁ間違っちゃいないけど……。そこは寝屋って言うんだよ」
丹生のあけすけな物言いに苦笑しつつ、朝夷も並んで覗き込む。
「璃津は寝屋を見るのは初めて?」
「寝屋どころか、座敷に上がった事もねぇよ。見回りとか集金に付き合ってただけだから、見世の中がどうなってんのかまでは知らないんだ」
朝夷は「なるほどね」と相槌を打ち、布団を指さして豆知識を伝授した。
「敷布団が3枚重なってるの、分かる? あれは三つ布団っていって、上級娼妓にのみ許される数なんだよ。陸奥が吸い付けタバコに出してきた煙管も、やたら長かったでしょ? 太夫や花魁は最短でも1m以上の物を持つしきたりでね。逆にそれ以下の格には許されないんだ。吉原にはそうして、見た目ですぐに格が分かる仕組みが多いんだよ」
「へえー。格付けは値段にも影響するし、大事なステータスだもんなぁ。見た目で差別化をはかるってのは、確かに分かりやすくて良いな。特別待遇を目の当たりにすりゃ、他の娼妓の向上心も高まるだろうし。よく出来てやがるぜ、吉原ってとこは」
感慨深そうに寝屋を見回す丹生に、朝夷の悪戯心がむくむくと湧き上がる。するりと丹生の腰に手を回し、耳元へ顔を寄せて艶やかに囁いた。
「こういう所でするのも、風情があって良いと思わない?」
「確かになー……っておい。どこ触ってんだコラ。弟の職場で変な気おこすんじゃねぇよ」
「えー、だってあいつ来ないし。こんな部屋見てたら、あの上でよがる璃津が見てみたくなっちゃったんだもん。鮮やかな赤にその白い肌が、きっとよく映えるよ」
背後から覆い被さるように密着され、スラックスの上部から手が滑り込んでくる。丹生はぎょっとして押し退けようと体を捻った。
「ちょ、待て待て! なに考えてんだバカ! 冗談……んん……っ」
指の腹で後孔を押され、ぞわりと欲情が背筋を駆け抜ける。
「アハ、少し触っただけなのに、すぐ柔らかくなるね。今朝した名残かな?」
「っ、ぁ……お前が……勝手に盛っただけだろ……」
「寝顔が可愛くて。璃津こそ、寝ぼけながらしっかり感じてたくせに。毎朝、あれで起こしてあげようか?」
「バカ、か……っ」
そんなやり取りをしているうちに、指が潜り込んできて足の力が抜ける。丹生は座敷側に体を逃がしながら抵抗する。
「やめろって! こんなとこ陸奥さんに見られたら……」
「大丈夫だよ。あいつはこういう事が仕事なんだから、見慣れたもんさ」
「んなワケないだろ! まじで……ぅあっ! やっ、そこ……触ん、な、ァっ!」
「んー? そこってどこ? ここ?」
「イっ、あぁ! やッ……それ、ヤダっ……! んっ……はア、ぅうッ!」
「ああ……堪らないよ……。無駄な抵抗する璃津って、本当に可愛いね」
匍匐前進のようにずりずりと座敷へ逃れようとするものの、朝夷の指が的確に快い所を刺激し、あられもない声が上がる。
囁かれる低く優しい声音に理性が呑まれかけた時、勢い良く座敷の襖が開かれた。
「人の部屋で何やってるんですか、兄さん」
黒い笑みという物があるとしたら、恐らくこの時の陸奥の表情を言うのだろう。美しい微笑をたたえつつ、目元に影を落として口角を引きつらせている。
陸奥の背後からは、数名の和装美男らが興味津々で覗き込んでいた。朝夷は丹生にのしかかったまま、片眉をはね上げて笑う。
「遅いんだよ、陸奥。取り巻き集めに時間くってたのか? そんなにぞろぞろ引き連れて」
「貴方たちが騒いでるので、みんな何事かと集まってきたんですよ」
陸奥の後ろに屯している美男らから、ざわざわと驚きの声が上がる。
「あの人が陸奥さんのお兄さん? はー、さっすが兄弟。ハンパねぇ男前だな」
「やってる事も半端ないけどね……。あの組み敷かれてる子、誰なんだろう。大丈夫なのかな」
「ん? あの背格好、何か見覚えある気がすんだけどなー……。どこで見たんだっけか……」
「どっかの太夫とちゃうか、えげつない美人やし。つーかなんなん、この状況。これからまさかの兄弟3P?」
「えー、いいなぁー。俺も混ざりたぁい。美男との乱交とか天国すぎるぅ」
朝夷の指が挿入ったまま好奇の視線に晒され、丹生は帽子を目深にかぶって顔を隠す。思い切り文句を言いたいが、朝夷はまだゆるゆると指を動かしているため、迂闊に口を開いて更なる醜態を晒すのだけは御免だった。
陸奥はやれやれと嘆息し、ぴしゃりと後ろ手に襖を閉めた。向こう側からは、野次馬たちのくぐもった非難の声が上がっている。
「お待たせした事はお詫びしますが、いくらなんでもそれはどうなんですかねぇ。璃津さんが可哀想でしょう」
「よく言うよ、鬼畜ドSサイコパスのくせに」
「っ、それはお前だろ……っ! も、はやく退けって!」
「えー、俺は優しいでしょ? いつもこんなに可愛がってるのに、酷いなぁ」
ぐり、と強く中をこねられ、丹生から短い嬌声が上がる。
「ふ、ぅ……くそっ……! やめろっつってんだろ……このド鬼畜変態ッ」
「あー、まだ言う? だったら陸奥とどっちが鬼畜か比べてみようか」
「はぁ……? まじ、頭おかしいんじゃねぇの……。そんなの、陸奥さんが乗るワケねぇだろ……っ」
荒く息を吐きながら頬を上気させる丹生を見下ろし、陸奥は「ふむ」と嫌な予感をさせる声を漏らした。
「璃津さんは俺の吸い付けを受けた訳ですから、少々、お手合わせ願っても良いという事ですよね」
「エ゙っ!?」
まさかのセリフに、丹生は仰天して素っ頓狂な声を上げた。朝夷は「だからヤバいって言ったでしょ」と呆れたように言う。
陸奥は丹生の帽子を取り上げると顎を持ち上げ、必死で快楽を押し殺す表情を愉快そうに眺めた。
「ほう……。美人が苦悶する様というのは、やはり良いものですねぇ」
「ほら見ろ、やっぱりドSじゃないか」
丹生はどっちもどっちだと思いながら、前後を鬼畜兄弟に挟まれた己の身がどうなるのかと身震いする。
「お前の寝屋、使って良いよな?」
「良いも何も、そういう事は寝屋でするものですよ。座敷で組み敷くなんて、本来マナー違反なんですからね」
「じゃ、遠慮なく。はあー、あそこでぐちゃぐちゃになる璃津、想像しただけで滾るなぁ。嬉しいなぁ」
うきうきと丹生を正面から抱き上げる朝夷に、丹生は震える声で問いかける。
「なぁ、ちょっと待てよ……。冗談だよな……? マジでヤる気じゃないだろ……? し、しかも3人って……」
「んー? それは璃津次第だよ」
「はっ!? この状況のどこが俺次第なんだよ!?」
ふわりと柔らかい布団へ下ろされ、鼻が付く至近距離で朝夷が囁いた。
「陸奥の誘いに乗ったのはお前なんだから、俺が決める事じゃないでしょ」
「い、いや、だからあれは知らなくて……!」
「お前は誰でもすぐ咥え込むからね。せっかくだから、吉原屈指の太夫も味わってみれば? 萎びかけの大幹部より、よっぽど快くしてもらえると思うよ」
丹生はようやく理解した。朝夷は先日、逢坂とひと晩過ごした事を、酷く怒っているのだと。
「そんな今更……。アレは仕事の一環で……」
「そうだね。だったら今更、誰に抱かれようと気にする事ないよね」
「ちょっと待っ……んぐっ……ッ」
朝夷は気味が悪いほど優しい声と仕草で、丹生の口を手で塞いだ。丹生の頭上から、陸奥の呆れた笑い声が降ってくる。
「璃津さん次第なんて言っておきながら、そんな事をしたら元も子もないじゃありませんか」
「良いの、これはちょっとしたお仕置きだから。そもそも誘ったのはお前だろ? ほら、好きに弄れよ。太夫の手練手管ってやつを見せてやれ」
「兄さんも案外、意地が悪い」
朝夷は丹生の口を左手で塞いだまま、右手で器用にスラックスの前を開き、下着ごと取り払う。抵抗する腕をひとまとめにして、頭の上へ押さえつけながら陸奥とポジションを交代した。
あらわになった内ももに陸奥の手のひらが滑り、ぞわりと鳥肌が立つ。吐息がかかり、ぬめる舌が這わされると、丹生は喉を逸らせて呻いた。
「璃津、目を開けて。俺を見て」
甘く囁かれ、固く閉じていた目を恐る恐る開くと、恍惚とした朝夷が見下ろしている。
「不安そうだね。嫌なの? 怖いの? その顔、すごく可愛い。大好き」
下腹部から陸奥の「悪趣味」と呟く声が聞こえ、まったくだと思った瞬間、丹生のそれが生暖かい口腔へ含まれた。陸奥の舌技はさすがに巧みで、まるで生き物のように不規則に絡みつき、吸われ、時折わざと歯を当てられて体が跳ねる。
朝夷に口付けられ、未経験の快楽に頭の芯がぼうっとし始めた。これまで複数人と性行為をした事は無く、舐められながら口付けられる感覚に混乱する。
腰が持ち上げられ、陸奥の舌が後孔へ移動すると、途端に丹生は激しく首を横に振り、強い抵抗を見せた。口が解放されると同時に、悲鳴じみた声で叫ぶ。
「っ、ィヤ! それやだッ! やめ──ん゙ん゙っ!」
再び手で口を塞がれ、悲痛な呻きが喉から漏れた。
「璃津は本当にそこ舐められるの苦手だよね」
「どうしましょう、やめますか?」
当たり前のように朝夷へ問う陸奥に、聞く相手が違うだろ、人権無視か、と思った。
「良いよ、やっちゃって。この機に開発しておらおうね、璃津」
「ん゙ン゙ーッ!」
いやいや、と首を振る丹生に、朝夷は子どもをあやすように優しく言う。
「大丈夫。なんたって陸奥はプロ中のプロだから、きっと気持ち良くなれるよ」
そういう問題じゃねぇ、という叫びも、虚しい唸りとなるのみだった。
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