74 / 84
7章
72【合同暴露会議】
しおりを挟む
復帰初日は、ちょうどアグリ班の合同報告会議だった。
珍しく全チームメンバーと研修官が揃っており、おあつらえ向きの舞台となったため、挨拶がてら丹生が議長を務める事となった。
「まず会議の前にひと言。この度は本当にご迷惑、ご心配おかけしました。捜索に尽力してくれた皆に心からの感謝、ならびにお詫び申し上げます」
深々と頭を下げ、ひと呼吸置いてから「ただいま!」と満面の笑みで言った。室内から軽い拍手と「おかえり」と答える声が上がり、空気が一気にやわらいだ。
「さて、じゃあ会議始めまーす。何か報告ある人、居る?」
「はーい」
郡司がひらひらと手を挙げた。
「例の出茂会の枝は、公安部とマトリが一斉検挙のアミかけて取り合いしてまーす。武器と薬ダブルでいってたから、縄張り争いで死人が出そうな勢いだそうでーす」
「まったく、あそこもホント仲悪いよなぁ……俺らもだけど。公安部って職務内容被るところ多すぎだろ。ま、俺のせいで迷惑かけたし、マトリに有利な情報流して礼って事にしとこ」
「了解。俺の情報も後で渡すよ」
「サンキュー、郡司。俺も近いうちに逢坂へ接触して、今回の詳細調査と後始末やっとくわ」
「まだ早くないか? お前がただのフリーターじゃない事は、今回の件でバレただろう。万が一、向こうが逆上したらタダじゃ済まないぞ」
眉間に皺を寄せて言うのは神前だ。丹生は首の後ろに手をやって答える。
「身バレは確実だろうけど、別に本部はターゲットじゃないし、あのパイプ切るには惜しすぎるからな。逢坂は頭良いし、なにげに情に脆い男だから、協力のメリットとリターン押さえて説明すれば、聞くには聞くはず。その後も繋げてられるかは未定。次の会議までには報告できるようにしとくよ」
「俺は反対だ、危険すぎる。班長として許可できない」
重く言い放った阿久里は、声音に反して丹生から目を逸らせている。面倒だな、と思いながら丹生は苦笑した。
「逢坂は俺の協力者だ。局にとってもかなり有益な人物だから、これに関しては俺に決定権がある。どうしても反対するなら、部長と局長を通してくれ」
「……ならそうするまでだ。あの男のせいで窮地に陥った事実は変わらない。単身で接触するなんて、言語道断だ」
頑なに言い張る阿久里に、にわかに場の空気が険悪になり、研修官らはひりつく雰囲気に冷や汗を滲ませている。
「辞めとけよ、時間の無駄だから。逢坂は俺と王に面識があった事すら知らなかった。あの件に逢坂が関与していない事は明白。更に言えば、彼の動向で捜索がはかどった部分もあるはずだ。実際、本部に捜査の手が及んでいないのが良い証拠だろ。切る理由は無い。分かってくれるよな、阿久里班長」
語尾を和らげて言い含められ、阿久里は一瞬、苦しげに丹生を見たが、すぐに目を伏せて押し黙った。
丹生は「よし!」と明るく両手を打ち、室内を見回した。
「他に報告あるー?」
すっ、と椎奈が手を挙げる。
「報告ではないが……もし構わなければ、概要だけでも聞かせて貰いたい。君の拉致から奪還までに関して、我々には一切の情報が来ていない。今後の対策に関わる問題だし、君の精神衛生面も知っておきたいのだが、どうだろうか」
「了解。とは言え、ひたすら俺の恥さらし話になるから、みんな笑わないでね」
そう前置きして、丹生は料亭で王睿と出くわした所から始め、救出されるまでをざっくりと説明した。
「……と、まぁこんな感じ。念の為、休暇中に病院も行ってきたけど、心身ともに問題無し。研修官たちは俺みたいにゆるゆるな任務しちゃ駄目だぞー。絶対に見習わないようにー」
最後のひと言で、室内に密やかな笑い声が満ちる。
「しかし、璃津が昏倒するレベルの睡眠薬となると、相当ヤバい代物だな。俺らの中でも薬品耐性1番高いし、特に麻酔系はほぼ効かないのに。成分が気になる」
腕を組んで考え込む神前に、丹生も記憶をたぐりながら答えた。
「たしか特別調合とか言ってたけど、あの時は寝不足とアルコールで万全じゃなかったからなぁ。強めのヤツ幾つか混ぜてたのかも。ま、そもそも飲まされた時点で迂闊でしたわ、反省極まれりだわ」
「つーか、特殊任務課ってマジであったんだなー。ただの噂だと思ってたわ。実際、会ってみてどうだった? やっぱゴリゴリの武闘派?」
興味津々な羽咲の問いに、ひらひらと手を振りながら苦笑する。
「いや、全然。むしろ、めちゃくちゃ親切で良い人たちだったよ。美男美女でびっくりしたもん」
「そういや、〝赤い鳥〟が出張ってたらしいな。そんなに美人なのかよ、いっぺん見てみてぇんだよなぁ」
「へー、棗でも会った事ないんだ。てか、赤い鳥ってなに?」
「四之宮2佐の通り名。最前線に飛び込んでいく戦闘狂で、ぶち殺した敵の返り血で真っ赤になって帰ってくるんだとか。嘘くせぇ話だけどな」
まるでアニメかゲームのキャラクターのような言われように、丹生は思わず吹き出した。他の調査官らも失笑している。
「確かに〝籠の鳥〟と言えば冷酷無情な殺人集団って噂だよね。信じてたワケじゃないけど、やっぱりデマだったんだ」
「そりゃ見境なく殺して回るなんて事は有り得ないが、実際、武力制圧や暗殺は彼らの仕事だからな。冷酷ってのは合ってるんじゃないか」
「何にせよ、俺たち以上に機密性が高い組織だから。その一角でも見られたなら、璃津はかなりラッキーだよね」
郡司と阿久里がそんな事を話していると、棗がふと声を上げた。
「一角ってんなら、辻のほうがもっと見てるだろ。なんせ、嫁が特務課なんだからな」
とんでもない情報を暴露された辻は「まじ最悪」と頭を抱え、室内はしんと静まりかえった後に皆の絶叫が響き渡った。
「はぁ!? お前、結婚してたのか!?」
「しかも特殊任務課と!?」
「どこでどうなったらそうなんの?」
「米呂てめー、なんでそんな面白いネタ言わねぇんだよ!」
阿久里、椎奈、郡司、羽咲に詰め寄られ、辻は面倒そうに髪をガシガシやりながら答えた。
「あーもう、ぜってー許さねぇからな、棗!」
「良い機会じゃねぇか。ちょうど話題に出た事だし。嫁自慢したくて仕方ねぇくせに、意地張ってんなよ」
「素性バラしちゃ駄目なんだよ! 分かるだろそれくらい! もし俺が死んだらてめーのせいだぞ!」
辻と棗がやいのやいのと小競り合う中、丹生はパンパンと手を打ちながら声を張った。
「はーい、静かにー。聞いちゃったもんはしゃーない。幸い会議中だし、ここで見聞きした事は部外秘だからさ、教えてよ米呂。めちゃくちゃ気になる」
「えー……マジでヤバいんだけどなぁ……。まぁ、ここだけなら良いか。お前ら、ぜっっったい外部に漏らすなよ!」
「了解ー」
辻は深く嘆息した後、名前は伏せた上でしぶしぶ説明してくれた。
「昔、防衛省のシステム本部からペネトレーションテストの協力要請があって、出逢ったのはそこだな。俺がひと目惚れして即プロポーズして、今に至るって感じ」
「即プロポーズって、想像以上に劇的でびっくりしたぞ。お前がひと目惚れするって事は、相当、可愛かったか美人だったのか?」
阿久里の問いに、辻はそれまでの渋面から一転して、締まりの無いにやけ顔になった。
「そりゃもう美しいのなんのって! 彼女、珍しい全頭皮発症型の尋常性白斑でさぁ。生粋の日本人なのに髪が真っ白で、肌も白くて、もう存在が神々しい。しかもホワイトハッカーの腕も超一流でね、彼女こそ名実ともにホワイトクイーン。俺の女神様」
「お、おう……。やっぱり自慢したくて堪らなかったんだな……」
「へえー、そりゃ珍しいもの好きな米呂がひと目惚れするのも納得だわ」
「内気であんま喋んない所もまた神秘的でさぁ、ホント愛してる。あー、話してたら会いたくなってきたー」
堰を切ったように嫁自慢の止まらない辻に、皆は驚きつつ熱量差に引き気味だ。
「結婚してどれくらいなの?」
「5年目。あと100年見てても飽きない自信ある」
「5年!? お前、最年少のくせにちゃっかり妻帯者一番乗りかよぉ。ずりぃー!」
「ま、俺はお前らと違って、めんどーなバディのいざこざが無いもんでね。充実した夫婦生活送らせてもらってるワケ。とは言え、彼女くそ多忙だから、あんま帰ってこないんだけどさー」
「充実してるのか、それ……」
辻は元フリーのブラックハッカーだったが、当時の調査部長が腕を見込んでスカウトし、ホワイトハッカーへ転身を果たした。入庁当時は19歳で、丹生よりひとつ歳下だ。
「なー、特務課が嫁ってどんな気分? やっぱ心配?」
丹生の問いに、辻は首をかしげて「うーん」と思案げな声を上げる。
「特務課つっても兼任だし、ほとんどサイバー隊に居るからなぁ。任務内容とかお互いまったく知らないし、そう心配って事もねぇよ。特に俺らってシステム担当だから、現場出る事も少ないしな。しかも自衛官だし、俺より強いと思うしさ」
「なるほどね。ハイスペック理系夫婦か、かっこいいなぁ」
「辻も璃津に負けず劣らず、ぶっ飛んでるよな。まぁ、幸せそうで何よりだよ」
と、話がひと段落した所で、おもむろに朝夷が丹生の隣へ立ち並んだ。
「最後に、俺たちから報告がありまーす」
「なに、なに」
「怖い」
「今度は一体、どんな厄介事を……」
室内が嫌な予感にざわつく中、朝夷はぐいと丹生を引き寄せ、肩を抱いて高らかに宣言した。
「俺たち、結婚を前提にお付き合いさせて頂く事になりましたー!」
部屋は再び静まり返り、全員がぽかんと朝夷を見たあと、丹生を見る。どうせまた朝夷の悪ふざけだろうと、誰もが思っていたからだ。
丹生は、結婚前提とか初耳だし、膨らんでるぞ話が、と顔を引きつらせながらも、ひとつ息を吐いて口を開いた。
「……まぁ、そういう事です……」
その後、たっぷり1分ほどの間の後、会議室の外まで響くチームメンバーの絶叫があがったのだった。
珍しく全チームメンバーと研修官が揃っており、おあつらえ向きの舞台となったため、挨拶がてら丹生が議長を務める事となった。
「まず会議の前にひと言。この度は本当にご迷惑、ご心配おかけしました。捜索に尽力してくれた皆に心からの感謝、ならびにお詫び申し上げます」
深々と頭を下げ、ひと呼吸置いてから「ただいま!」と満面の笑みで言った。室内から軽い拍手と「おかえり」と答える声が上がり、空気が一気にやわらいだ。
「さて、じゃあ会議始めまーす。何か報告ある人、居る?」
「はーい」
郡司がひらひらと手を挙げた。
「例の出茂会の枝は、公安部とマトリが一斉検挙のアミかけて取り合いしてまーす。武器と薬ダブルでいってたから、縄張り争いで死人が出そうな勢いだそうでーす」
「まったく、あそこもホント仲悪いよなぁ……俺らもだけど。公安部って職務内容被るところ多すぎだろ。ま、俺のせいで迷惑かけたし、マトリに有利な情報流して礼って事にしとこ」
「了解。俺の情報も後で渡すよ」
「サンキュー、郡司。俺も近いうちに逢坂へ接触して、今回の詳細調査と後始末やっとくわ」
「まだ早くないか? お前がただのフリーターじゃない事は、今回の件でバレただろう。万が一、向こうが逆上したらタダじゃ済まないぞ」
眉間に皺を寄せて言うのは神前だ。丹生は首の後ろに手をやって答える。
「身バレは確実だろうけど、別に本部はターゲットじゃないし、あのパイプ切るには惜しすぎるからな。逢坂は頭良いし、なにげに情に脆い男だから、協力のメリットとリターン押さえて説明すれば、聞くには聞くはず。その後も繋げてられるかは未定。次の会議までには報告できるようにしとくよ」
「俺は反対だ、危険すぎる。班長として許可できない」
重く言い放った阿久里は、声音に反して丹生から目を逸らせている。面倒だな、と思いながら丹生は苦笑した。
「逢坂は俺の協力者だ。局にとってもかなり有益な人物だから、これに関しては俺に決定権がある。どうしても反対するなら、部長と局長を通してくれ」
「……ならそうするまでだ。あの男のせいで窮地に陥った事実は変わらない。単身で接触するなんて、言語道断だ」
頑なに言い張る阿久里に、にわかに場の空気が険悪になり、研修官らはひりつく雰囲気に冷や汗を滲ませている。
「辞めとけよ、時間の無駄だから。逢坂は俺と王に面識があった事すら知らなかった。あの件に逢坂が関与していない事は明白。更に言えば、彼の動向で捜索がはかどった部分もあるはずだ。実際、本部に捜査の手が及んでいないのが良い証拠だろ。切る理由は無い。分かってくれるよな、阿久里班長」
語尾を和らげて言い含められ、阿久里は一瞬、苦しげに丹生を見たが、すぐに目を伏せて押し黙った。
丹生は「よし!」と明るく両手を打ち、室内を見回した。
「他に報告あるー?」
すっ、と椎奈が手を挙げる。
「報告ではないが……もし構わなければ、概要だけでも聞かせて貰いたい。君の拉致から奪還までに関して、我々には一切の情報が来ていない。今後の対策に関わる問題だし、君の精神衛生面も知っておきたいのだが、どうだろうか」
「了解。とは言え、ひたすら俺の恥さらし話になるから、みんな笑わないでね」
そう前置きして、丹生は料亭で王睿と出くわした所から始め、救出されるまでをざっくりと説明した。
「……と、まぁこんな感じ。念の為、休暇中に病院も行ってきたけど、心身ともに問題無し。研修官たちは俺みたいにゆるゆるな任務しちゃ駄目だぞー。絶対に見習わないようにー」
最後のひと言で、室内に密やかな笑い声が満ちる。
「しかし、璃津が昏倒するレベルの睡眠薬となると、相当ヤバい代物だな。俺らの中でも薬品耐性1番高いし、特に麻酔系はほぼ効かないのに。成分が気になる」
腕を組んで考え込む神前に、丹生も記憶をたぐりながら答えた。
「たしか特別調合とか言ってたけど、あの時は寝不足とアルコールで万全じゃなかったからなぁ。強めのヤツ幾つか混ぜてたのかも。ま、そもそも飲まされた時点で迂闊でしたわ、反省極まれりだわ」
「つーか、特殊任務課ってマジであったんだなー。ただの噂だと思ってたわ。実際、会ってみてどうだった? やっぱゴリゴリの武闘派?」
興味津々な羽咲の問いに、ひらひらと手を振りながら苦笑する。
「いや、全然。むしろ、めちゃくちゃ親切で良い人たちだったよ。美男美女でびっくりしたもん」
「そういや、〝赤い鳥〟が出張ってたらしいな。そんなに美人なのかよ、いっぺん見てみてぇんだよなぁ」
「へー、棗でも会った事ないんだ。てか、赤い鳥ってなに?」
「四之宮2佐の通り名。最前線に飛び込んでいく戦闘狂で、ぶち殺した敵の返り血で真っ赤になって帰ってくるんだとか。嘘くせぇ話だけどな」
まるでアニメかゲームのキャラクターのような言われように、丹生は思わず吹き出した。他の調査官らも失笑している。
「確かに〝籠の鳥〟と言えば冷酷無情な殺人集団って噂だよね。信じてたワケじゃないけど、やっぱりデマだったんだ」
「そりゃ見境なく殺して回るなんて事は有り得ないが、実際、武力制圧や暗殺は彼らの仕事だからな。冷酷ってのは合ってるんじゃないか」
「何にせよ、俺たち以上に機密性が高い組織だから。その一角でも見られたなら、璃津はかなりラッキーだよね」
郡司と阿久里がそんな事を話していると、棗がふと声を上げた。
「一角ってんなら、辻のほうがもっと見てるだろ。なんせ、嫁が特務課なんだからな」
とんでもない情報を暴露された辻は「まじ最悪」と頭を抱え、室内はしんと静まりかえった後に皆の絶叫が響き渡った。
「はぁ!? お前、結婚してたのか!?」
「しかも特殊任務課と!?」
「どこでどうなったらそうなんの?」
「米呂てめー、なんでそんな面白いネタ言わねぇんだよ!」
阿久里、椎奈、郡司、羽咲に詰め寄られ、辻は面倒そうに髪をガシガシやりながら答えた。
「あーもう、ぜってー許さねぇからな、棗!」
「良い機会じゃねぇか。ちょうど話題に出た事だし。嫁自慢したくて仕方ねぇくせに、意地張ってんなよ」
「素性バラしちゃ駄目なんだよ! 分かるだろそれくらい! もし俺が死んだらてめーのせいだぞ!」
辻と棗がやいのやいのと小競り合う中、丹生はパンパンと手を打ちながら声を張った。
「はーい、静かにー。聞いちゃったもんはしゃーない。幸い会議中だし、ここで見聞きした事は部外秘だからさ、教えてよ米呂。めちゃくちゃ気になる」
「えー……マジでヤバいんだけどなぁ……。まぁ、ここだけなら良いか。お前ら、ぜっっったい外部に漏らすなよ!」
「了解ー」
辻は深く嘆息した後、名前は伏せた上でしぶしぶ説明してくれた。
「昔、防衛省のシステム本部からペネトレーションテストの協力要請があって、出逢ったのはそこだな。俺がひと目惚れして即プロポーズして、今に至るって感じ」
「即プロポーズって、想像以上に劇的でびっくりしたぞ。お前がひと目惚れするって事は、相当、可愛かったか美人だったのか?」
阿久里の問いに、辻はそれまでの渋面から一転して、締まりの無いにやけ顔になった。
「そりゃもう美しいのなんのって! 彼女、珍しい全頭皮発症型の尋常性白斑でさぁ。生粋の日本人なのに髪が真っ白で、肌も白くて、もう存在が神々しい。しかもホワイトハッカーの腕も超一流でね、彼女こそ名実ともにホワイトクイーン。俺の女神様」
「お、おう……。やっぱり自慢したくて堪らなかったんだな……」
「へえー、そりゃ珍しいもの好きな米呂がひと目惚れするのも納得だわ」
「内気であんま喋んない所もまた神秘的でさぁ、ホント愛してる。あー、話してたら会いたくなってきたー」
堰を切ったように嫁自慢の止まらない辻に、皆は驚きつつ熱量差に引き気味だ。
「結婚してどれくらいなの?」
「5年目。あと100年見てても飽きない自信ある」
「5年!? お前、最年少のくせにちゃっかり妻帯者一番乗りかよぉ。ずりぃー!」
「ま、俺はお前らと違って、めんどーなバディのいざこざが無いもんでね。充実した夫婦生活送らせてもらってるワケ。とは言え、彼女くそ多忙だから、あんま帰ってこないんだけどさー」
「充実してるのか、それ……」
辻は元フリーのブラックハッカーだったが、当時の調査部長が腕を見込んでスカウトし、ホワイトハッカーへ転身を果たした。入庁当時は19歳で、丹生よりひとつ歳下だ。
「なー、特務課が嫁ってどんな気分? やっぱ心配?」
丹生の問いに、辻は首をかしげて「うーん」と思案げな声を上げる。
「特務課つっても兼任だし、ほとんどサイバー隊に居るからなぁ。任務内容とかお互いまったく知らないし、そう心配って事もねぇよ。特に俺らってシステム担当だから、現場出る事も少ないしな。しかも自衛官だし、俺より強いと思うしさ」
「なるほどね。ハイスペック理系夫婦か、かっこいいなぁ」
「辻も璃津に負けず劣らず、ぶっ飛んでるよな。まぁ、幸せそうで何よりだよ」
と、話がひと段落した所で、おもむろに朝夷が丹生の隣へ立ち並んだ。
「最後に、俺たちから報告がありまーす」
「なに、なに」
「怖い」
「今度は一体、どんな厄介事を……」
室内が嫌な予感にざわつく中、朝夷はぐいと丹生を引き寄せ、肩を抱いて高らかに宣言した。
「俺たち、結婚を前提にお付き合いさせて頂く事になりましたー!」
部屋は再び静まり返り、全員がぽかんと朝夷を見たあと、丹生を見る。どうせまた朝夷の悪ふざけだろうと、誰もが思っていたからだ。
丹生は、結婚前提とか初耳だし、膨らんでるぞ話が、と顔を引きつらせながらも、ひとつ息を吐いて口を開いた。
「……まぁ、そういう事です……」
その後、たっぷり1分ほどの間の後、会議室の外まで響くチームメンバーの絶叫があがったのだった。
30
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる