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5章
47【七色吐息】
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「お前、だいぶ目立ってるけど自覚ある?」
「ん?」
昼休み。オフィスのソファでゼリー飲料を咥えていた丹生が、きょとんと神前を見返す。
「指輪。朝、阿久里にも何か言われてたろ」
「ああ、これか。そんなに有名なものなの?」
「そりゃ看板デザインだからな。知ってる奴が見ればすぐ分かる。誰から貰ったのかって話で、局内は持ちきりだぞ」
「へー。大袈裟っつーか、暇人ばっかりだな。平和か? 平和だからか? ならいいことだな」
「お前のことだからだよ。いい加減、自覚しろ」
「はいはい」
生返事の丹生に、神前は小さく溜め息をつく。
「で、本当のところ誰から貰ったんだ?」
「なんだよ、結局ナナちゃんも気になってんじゃん」
「当然だろ。まさか、王睿じゃないだろうな」
「違うよ。つーか忘れてたわ。居たな、そんなのも」
「ま、言いたくないなら無理には聞かないいが」
「うーん、ナナちゃんには話しても大丈夫かな。実は、かくかくしかじか……」
事のあらましを話した後、神前は30秒ほど硬直した。
「おーい、ナナちゃん?」
「あ、ああ……悪い。ちょっと展開がアレで……まだ理解が追いついてない」
「我ながら急だと思うわ。恋はジェットコースターですねぇ」
「要約すると、あの引越しから現在も同居中で、先週から付き合い始めたってことなのか?」
「うん、そう」
神前は額に手を当てながら「なるほどな」と呟いた。
「家のことは口外禁止だったから、話せなくてごめん」
「気にするな。どこから情報が漏れるか分からない以上、当然の措置だろ。王の件もまだ完全にカタが付いたとは言えんし、部長と同居しているなんて知れたら、騒ぎになるのは間違いないしな」
「うん。だから、さっきの話は内密にね」
「分かってる。それにしても驚きだな、ついに身を固めたとは。お前はそういう縛りを忌避してるんだと思ってたよ」
「いやだな、大袈裟だよ。特に何が変わった訳でもないし」
「そうか……でも本当に良かった。お前も、あの人にも……幸せになって欲しいからな」
「俺もナナちゃんには幸せになって欲しいよ。きっと部長もそう思ってる」
「分かってるさ。ただ、お前らの期待には添えんかもしれんが」
神前は呟くように言って視線を逸らせた。丹生の脳裏に、先週の郡司の様子が蘇る。
「もしかして、郡司となんかあった?」
「いや……ただの考え過ぎだと思う……」
「言ってよ。俺にも分からないかもしれないけどさ」
「特に何があった訳でもないが……なんとなく避けられてる気がする」
「いつから?」
「先週の金曜あたりかな」
丹生の心臓がギクリと嫌な音を立てた。
「廊下で会った時、普段ならうるさいくらい何か言ってくるのに、目も合わせずにお疲れのひと言で終わりだった」
「……それって何時頃?」
「夜中。確か、1時半かそこらだ」
丹生の悪い予感はますます募った。それはまさしく、郡司が自分のオフィスを出た直後だったからだ。
関係ないと自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
「随分、遅かったんだね。疲れてたんじゃない?」
「俺もそう思った。ただ、さっき顔を合わせた時も、妙によそよそしくてな」
もう返す言葉も無かった。正直、丹生にも郡司の胸中などさっぱり分からない。
あの夜、寝言で好きだと言ってみると抱き締められ、ありがとうと呟いて出て行った郡司が、何を思っているのか。なぜ神前への態度が変わったのか。いくら考えても上手く繋がらない。
「すまん、答えなんて出るはずないよな。あいつの考えてることなんて、あいつにしか分からないんだし」
「……ううん、俺こそ力になれなくてごめん。これはただの憶測だけど、そろそろ郡司も限界なのかな、とは思う……」
「限界、か。そういえば何ヶ月か前、朝夷さんにそんなこと言ってたな」
「だったら助けてあげなよ。ナナちゃんにしか出来ないことなんだからさ」
「……そう、出来れば良かったがな。言っただろ、期待には添えないって」
と、神前は嘲笑にも似た、どこか侘しい笑みを浮かべた。妙な空気を感じ、丹生は眉をひそめて問う。
「なに、どういうこと?」
「手遅れなんだよ、俺もアイツも。まぁ元々、郡司とどうなるつもりも無かったが、俺は俺なりに前進してるのさ」
まったく話が見えず、丹生は混乱の一途をたどる。
(なに言ってんだ? 最近、男の影があると思ってたのに……まさか、相手は郡司じゃなかったのか!? だとしたら一体、誰なんだ……?)
丹生の表情を読み取った神前は、薄く笑みを浮かべて言った。
「俺もお前に話してなかったことがあるんだ。最近、懇意にしてる相手が居るのはもう気付いてるよな。それ、城戸さんなんだ」
予想もしていなかった名前に、丹生は目を見開いて固まった。神前は愉快そうに声を立てて笑う。
「ようやく立場逆転だな。俺はいつもそうやって驚かされてたんだぞ」
丹生にとっては、とてもじゃないが笑える話ではない。たった2、3日の間に様々なことが重なり、縺れながら転がり落ちるようで目眩がしそうだ。
「……なんで、城戸さんなんだよ……」
「そんなに驚くことか? お前も知っての通り、元々、そういう関係だったんだ。焼けぼっくいに火がついてってやつだろ」
「でもお前、アレは……」
「確かに、始まりは愛でも恋でもなかったがな。カップルすべてが純愛で始まらなきゃ駄目なのか? お前はそんなロマンチストじゃないと思ってたけど、恋人が出来ると変わるもんなのかね」
要点はそこじゃないだろ、と言いたかったが辞めた。こんな場所で持ち出す話題ではないし、口を出す権利も無いからだ。丹生はしばし押し黙った後、「そうか」と呟いた。
「何であれ、お前が望んだことなら良いさ。めちゃくちゃびっくりしたけどね」
「ああ、今のところ満足してる。自分でも意外なくらい上手くいってるぞ」
「そりゃ何よりだけど……まさかナナちゃんと城戸さんがねぇ……。俺らの何倍も仰天カップルじゃんか」
「まぁな。だから郡司には悪いが、俺は俺の幸福を優先させる。アイツが限界だっていうなら、ちょうど良いだろ」
「ああ……そうかもね……」
丹生は久々に見る神前の底意地の悪さにやや辟易しつつ、苦笑で応えた。
「じゃ、仕事戻るわ。また連絡する」
「うい、お疲れー」
神前が出ていくと、丹生は大きく嘆息しながらソファへ寝転んだ。電子タバコをふかし、ぼんやり思考を巡らせる。
(元々ややこしい2人だったけど、なんで今更、拍車がかかってんだよ。これ以上こじらせようが無いだろうに。しかも、よりによって城戸さんとくっつくなんて……。いつの間にそんなことになってたか知らないけど、このタイミングで聞きたくなかったな。もしかして、郡司はナナちゃんたちの関係に気付いておかしくなったんじゃないのか? 前進するのは良いけど、せめて班内の蟠りくらい解消してからにしろよな、まったく……)
内心でぶつぶつと文句を垂れ、紫煙を吐いて丹生は唸った。
「……これぞ正しく、あちら立てばこちらが立たぬ、かぁ……。まぁ、あっちはほっときゃ良いとして、こっちはなんとかしないと拙いよなぁ……。って、そんなの俺がなんとか出来る問題か? しかし、無関係とは言えないし……部長に相談する必要あるかもだよなぁ……」
「なにぶつぶつ言ってるの? 次の任務のシュミレーション?」
「キャ────ッ!!」
ひょこっと背もたれの上から顔を出した郡司に、丹生は思いきり悲鳴をあげた。
「おいおい、その反応はさすがに酷くない? まるで変質者か幽霊の気持ちよ、俺」
「いきなりそんなとこから出てきたら、誰でも悲鳴くらい上げるわ! ノックするとか声かけるとかしろよ、バカ郡司ッ!」
「ハハッ! ごめん、ごめん。ちょっぴり驚かせてみたくなってね。予想以上の反応でクセになりそう」
「コノヤロウ……。俺はドッキリが苦手なんだっつの……。あー、くそ。まじでビビった……。いっぺん心臓出たぞコラ」
たった今、頭を悩ませていた張本人の登場ということも輪をかけて丹生を驚かせたのだが、お陰でいつも通りの顔で話せるのには安堵する。
「で、どうしたの? ただ驚かせに来たワケじゃないんでしょ」
「うん。今、調査中の件でやたら絡んでくる違法薬物があって、そっちも何か聞いてるか相談したくてさ。もしかしたら、根っこで繋がってるかもしれないと思って。前にも来たんだけど、寝てたから遠慮したんだ」
「そうなの? なんだ、起こしてくれれば良かったのに」
「夜遅かったし、よく寝てたし、起こすの悪いしさ。可愛い寝顔が見られたから、それで満足しちゃった」
「長門みたいなこと言うのやめろよ、軽口なんて似合わないぞ。えーと、それって最近、出回り始めた合成麻薬だよな?」
「そうそう。やっぱ歌舞伎にも出てる?」
「あれなー、出茂会系列が絡んでるっぽいんだよね。どうせ上納金キツい枝が資金繰りに捌いてるんだと思うけど。そういえばマトリから資料もらってるわ。取ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って丹生はソファから立ち上がった。デスクの後ろの棚からファイルを取り出し、ページをめくりながら怪訝に思った。
(なんだ、全然いつも通りじゃん。となると、おかしいのはナナちゃんにだけってことか。じゃあ、やっぱりあの日の件は関係なくて、ナナちゃんに男できたのがバレたからなんじゃね? なんだよ、無駄に悩んで損したわ。でもまぁそうか……そうだよな。襲いかかったワケでもあるまいし、寝ぼけてしがみ付いたくらい、なんてことないよな……)
ふと、手元に影が落ちて我に返った。いつの間にか、後ろに郡司が立っている。それも、背と腹が触れそうなほど近くに。
郡司と丹生の身長差はおよそ20センチあり、背後に立たれると郡司の体にすっぽり覆われるのだ。
「ん?」
昼休み。オフィスのソファでゼリー飲料を咥えていた丹生が、きょとんと神前を見返す。
「指輪。朝、阿久里にも何か言われてたろ」
「ああ、これか。そんなに有名なものなの?」
「そりゃ看板デザインだからな。知ってる奴が見ればすぐ分かる。誰から貰ったのかって話で、局内は持ちきりだぞ」
「へー。大袈裟っつーか、暇人ばっかりだな。平和か? 平和だからか? ならいいことだな」
「お前のことだからだよ。いい加減、自覚しろ」
「はいはい」
生返事の丹生に、神前は小さく溜め息をつく。
「で、本当のところ誰から貰ったんだ?」
「なんだよ、結局ナナちゃんも気になってんじゃん」
「当然だろ。まさか、王睿じゃないだろうな」
「違うよ。つーか忘れてたわ。居たな、そんなのも」
「ま、言いたくないなら無理には聞かないいが」
「うーん、ナナちゃんには話しても大丈夫かな。実は、かくかくしかじか……」
事のあらましを話した後、神前は30秒ほど硬直した。
「おーい、ナナちゃん?」
「あ、ああ……悪い。ちょっと展開がアレで……まだ理解が追いついてない」
「我ながら急だと思うわ。恋はジェットコースターですねぇ」
「要約すると、あの引越しから現在も同居中で、先週から付き合い始めたってことなのか?」
「うん、そう」
神前は額に手を当てながら「なるほどな」と呟いた。
「家のことは口外禁止だったから、話せなくてごめん」
「気にするな。どこから情報が漏れるか分からない以上、当然の措置だろ。王の件もまだ完全にカタが付いたとは言えんし、部長と同居しているなんて知れたら、騒ぎになるのは間違いないしな」
「うん。だから、さっきの話は内密にね」
「分かってる。それにしても驚きだな、ついに身を固めたとは。お前はそういう縛りを忌避してるんだと思ってたよ」
「いやだな、大袈裟だよ。特に何が変わった訳でもないし」
「そうか……でも本当に良かった。お前も、あの人にも……幸せになって欲しいからな」
「俺もナナちゃんには幸せになって欲しいよ。きっと部長もそう思ってる」
「分かってるさ。ただ、お前らの期待には添えんかもしれんが」
神前は呟くように言って視線を逸らせた。丹生の脳裏に、先週の郡司の様子が蘇る。
「もしかして、郡司となんかあった?」
「いや……ただの考え過ぎだと思う……」
「言ってよ。俺にも分からないかもしれないけどさ」
「特に何があった訳でもないが……なんとなく避けられてる気がする」
「いつから?」
「先週の金曜あたりかな」
丹生の心臓がギクリと嫌な音を立てた。
「廊下で会った時、普段ならうるさいくらい何か言ってくるのに、目も合わせずにお疲れのひと言で終わりだった」
「……それって何時頃?」
「夜中。確か、1時半かそこらだ」
丹生の悪い予感はますます募った。それはまさしく、郡司が自分のオフィスを出た直後だったからだ。
関係ないと自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
「随分、遅かったんだね。疲れてたんじゃない?」
「俺もそう思った。ただ、さっき顔を合わせた時も、妙によそよそしくてな」
もう返す言葉も無かった。正直、丹生にも郡司の胸中などさっぱり分からない。
あの夜、寝言で好きだと言ってみると抱き締められ、ありがとうと呟いて出て行った郡司が、何を思っているのか。なぜ神前への態度が変わったのか。いくら考えても上手く繋がらない。
「すまん、答えなんて出るはずないよな。あいつの考えてることなんて、あいつにしか分からないんだし」
「……ううん、俺こそ力になれなくてごめん。これはただの憶測だけど、そろそろ郡司も限界なのかな、とは思う……」
「限界、か。そういえば何ヶ月か前、朝夷さんにそんなこと言ってたな」
「だったら助けてあげなよ。ナナちゃんにしか出来ないことなんだからさ」
「……そう、出来れば良かったがな。言っただろ、期待には添えないって」
と、神前は嘲笑にも似た、どこか侘しい笑みを浮かべた。妙な空気を感じ、丹生は眉をひそめて問う。
「なに、どういうこと?」
「手遅れなんだよ、俺もアイツも。まぁ元々、郡司とどうなるつもりも無かったが、俺は俺なりに前進してるのさ」
まったく話が見えず、丹生は混乱の一途をたどる。
(なに言ってんだ? 最近、男の影があると思ってたのに……まさか、相手は郡司じゃなかったのか!? だとしたら一体、誰なんだ……?)
丹生の表情を読み取った神前は、薄く笑みを浮かべて言った。
「俺もお前に話してなかったことがあるんだ。最近、懇意にしてる相手が居るのはもう気付いてるよな。それ、城戸さんなんだ」
予想もしていなかった名前に、丹生は目を見開いて固まった。神前は愉快そうに声を立てて笑う。
「ようやく立場逆転だな。俺はいつもそうやって驚かされてたんだぞ」
丹生にとっては、とてもじゃないが笑える話ではない。たった2、3日の間に様々なことが重なり、縺れながら転がり落ちるようで目眩がしそうだ。
「……なんで、城戸さんなんだよ……」
「そんなに驚くことか? お前も知っての通り、元々、そういう関係だったんだ。焼けぼっくいに火がついてってやつだろ」
「でもお前、アレは……」
「確かに、始まりは愛でも恋でもなかったがな。カップルすべてが純愛で始まらなきゃ駄目なのか? お前はそんなロマンチストじゃないと思ってたけど、恋人が出来ると変わるもんなのかね」
要点はそこじゃないだろ、と言いたかったが辞めた。こんな場所で持ち出す話題ではないし、口を出す権利も無いからだ。丹生はしばし押し黙った後、「そうか」と呟いた。
「何であれ、お前が望んだことなら良いさ。めちゃくちゃびっくりしたけどね」
「ああ、今のところ満足してる。自分でも意外なくらい上手くいってるぞ」
「そりゃ何よりだけど……まさかナナちゃんと城戸さんがねぇ……。俺らの何倍も仰天カップルじゃんか」
「まぁな。だから郡司には悪いが、俺は俺の幸福を優先させる。アイツが限界だっていうなら、ちょうど良いだろ」
「ああ……そうかもね……」
丹生は久々に見る神前の底意地の悪さにやや辟易しつつ、苦笑で応えた。
「じゃ、仕事戻るわ。また連絡する」
「うい、お疲れー」
神前が出ていくと、丹生は大きく嘆息しながらソファへ寝転んだ。電子タバコをふかし、ぼんやり思考を巡らせる。
(元々ややこしい2人だったけど、なんで今更、拍車がかかってんだよ。これ以上こじらせようが無いだろうに。しかも、よりによって城戸さんとくっつくなんて……。いつの間にそんなことになってたか知らないけど、このタイミングで聞きたくなかったな。もしかして、郡司はナナちゃんたちの関係に気付いておかしくなったんじゃないのか? 前進するのは良いけど、せめて班内の蟠りくらい解消してからにしろよな、まったく……)
内心でぶつぶつと文句を垂れ、紫煙を吐いて丹生は唸った。
「……これぞ正しく、あちら立てばこちらが立たぬ、かぁ……。まぁ、あっちはほっときゃ良いとして、こっちはなんとかしないと拙いよなぁ……。って、そんなの俺がなんとか出来る問題か? しかし、無関係とは言えないし……部長に相談する必要あるかもだよなぁ……」
「なにぶつぶつ言ってるの? 次の任務のシュミレーション?」
「キャ────ッ!!」
ひょこっと背もたれの上から顔を出した郡司に、丹生は思いきり悲鳴をあげた。
「おいおい、その反応はさすがに酷くない? まるで変質者か幽霊の気持ちよ、俺」
「いきなりそんなとこから出てきたら、誰でも悲鳴くらい上げるわ! ノックするとか声かけるとかしろよ、バカ郡司ッ!」
「ハハッ! ごめん、ごめん。ちょっぴり驚かせてみたくなってね。予想以上の反応でクセになりそう」
「コノヤロウ……。俺はドッキリが苦手なんだっつの……。あー、くそ。まじでビビった……。いっぺん心臓出たぞコラ」
たった今、頭を悩ませていた張本人の登場ということも輪をかけて丹生を驚かせたのだが、お陰でいつも通りの顔で話せるのには安堵する。
「で、どうしたの? ただ驚かせに来たワケじゃないんでしょ」
「うん。今、調査中の件でやたら絡んでくる違法薬物があって、そっちも何か聞いてるか相談したくてさ。もしかしたら、根っこで繋がってるかもしれないと思って。前にも来たんだけど、寝てたから遠慮したんだ」
「そうなの? なんだ、起こしてくれれば良かったのに」
「夜遅かったし、よく寝てたし、起こすの悪いしさ。可愛い寝顔が見られたから、それで満足しちゃった」
「長門みたいなこと言うのやめろよ、軽口なんて似合わないぞ。えーと、それって最近、出回り始めた合成麻薬だよな?」
「そうそう。やっぱ歌舞伎にも出てる?」
「あれなー、出茂会系列が絡んでるっぽいんだよね。どうせ上納金キツい枝が資金繰りに捌いてるんだと思うけど。そういえばマトリから資料もらってるわ。取ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って丹生はソファから立ち上がった。デスクの後ろの棚からファイルを取り出し、ページをめくりながら怪訝に思った。
(なんだ、全然いつも通りじゃん。となると、おかしいのはナナちゃんにだけってことか。じゃあ、やっぱりあの日の件は関係なくて、ナナちゃんに男できたのがバレたからなんじゃね? なんだよ、無駄に悩んで損したわ。でもまぁそうか……そうだよな。襲いかかったワケでもあるまいし、寝ぼけてしがみ付いたくらい、なんてことないよな……)
ふと、手元に影が落ちて我に返った。いつの間にか、後ろに郡司が立っている。それも、背と腹が触れそうなほど近くに。
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