45 / 84
4章
43【まよいご】
しおりを挟む
丹生の取り合いやら、イントレ禁止やら、新役職任命やらと慌ただしく日々は過ぎ、特別局にもようやく落ち着きが見えてきた、とある日。
丹生は久々に総務省を訪れていた。エントランスで出迎えてくれた風真に、片手を上げて挨拶する。
「久し振り」
「お疲れ、色々大変だったな。立ち話も何だし、あっちで座ろう」
「うん」
職員用の談話スペースのソファで、改めて向かい合う。
「気にはなってたんだけど、なかなか落ち着かなくて。顔出せなくて悪かったね」
「いや、良いんだ。大体の事情は分かってる。それで、問題は解決したのか?」
「うん、とりあえず。部長と朝夷が上手くやってくれたお陰で、なんとか生きてるよ」
「ハハ、それは心強いな。そういえばお前、ついに役職付きだって?」
「大袈裟だよ。うちは10年勤めりゃ、みんな係長級だもん。とは言え、俺なんかに肩書き付けるなんて、無理矢理感が半端なくていたたまれないぜ」
「まあ、それだけ大事になっていたという証拠だろう。お前が役付きになるのは、不思議でも何でもないがな」
「そりゃどーも。風真にも迷惑かけたな。そっちはどう?」
「安心しろ、上手く収めてある。修羅兄弟も動いていたしな。まるで蛇みたいな奴らだよ、公安警察は。政治家よりタチが悪い」
「ああ、そっか。今度そっちにもお礼言わなきゃな」
嘆息しながら丹生は眉をひそめた。風真は典型的なエリート官僚で、学歴も家柄も申し分ない生い立ちだ。
「時々、嫌になる。誰かの庇護下に居ないとやっていけないなんて、自分の存在の場違いさが身に染みるよ。特にお前を前にするとね」
「ははっ、よく言う。帝国二大名家と昵懇のくせに。しかも、朝夷家時期当主がバディだろう? 俺なんかとは格が違うじゃないか」
「あの人は別。ほとんどサイコパスだもん。お前みたいに、絵に描いたようなマトモなエリート見てると、自分の居る場所じゃないなって思い知るんだよ」
「どうした、珍しい。えらく弱ってるじゃないか。やっぱり疲れてるんじゃないのか?」
「んー……そうかも。最近、職場の雰囲気もギスギスしてるし……。いっちょ前にストレスとか感じちゃってんのかなぁ、俺」
ふ、と弱々しい笑みを浮かべる丹生に、相当苦労したようだ、と思った。
「お前の貴重な弱音が聞けて光栄だが、心配だな。俺に協力できることがあれば、遠慮なく言えよ」
「ありがと。こうして聞いてくれてるだけで助かってるよ。ところで、結月さんとは上手くいってるの?」
「ああ、すこぶる順調だ。どうやらお義父様は、吉原の魅力に開眼したらしくてな。今は番付で1番人気の太夫に、えらくご執心らしい」
「ええ、嘘でしょ!? あの橘副大臣が!?」
驚いてソファから腰を浮かせた丹生に、風真は声を立てて笑った。近頃、風真からの依頼が無いなと思っていたが、予想の斜め上の事態だ。
「本当なんだ。俺も初めて聞いた時は信じられなかったんだがな。先日、相良大臣が派手な宴席を設けた陰間茶屋で見初めたらしい。とは言え、あの方は相変わらず、色ごと目的ではないようだが」
「だったら何目的なんだよ……。あの人、すごい紳士で良い人だけど、やっぱりどっかおかしいわ……」
相良大臣の付き合いということは、間違いなく〝万華郷〟だろう。長門の異母弟、陸奥の職場であり、揚代の高さは他とは比べ物にならない、超高級大見世だ。
「相良大臣なりの懐柔作戦さ。橘財務副大臣を取り込めば、BEPS計画は完全凍結になる。橘副大臣は元々、吉原特区に懐疑的な立場だった。万が一、あそこが潰れたら、最も困るのはこの国だ。何せ、国庫の3分の1を吉原の売り上げで賄っているからな。上手くことが運んでくれて、官界もひと安心といった所だろう」
「ああ、なるほどね」
先日、陸奥から聞いた話と繋がり、合点がいった。
(にしても、大枚叩いておきながらセックス目的じゃないなんて、いっそ怖いわ。しかも吉原1番人気って……きっと陸奥さんみたいな超人なんだろうな。一晩いくらになるのか、想像もつかん)
そんなことを思っていると、長い足を組み換えながら風真が話題を変えた。
「目下の敵は総務課長だ。いつも結月をこき使って、近頃は職場で顔を見ることもままならない。隙をついて会いに行くんだが、目敏く見つけられて追い返されるんだ」
「いや仕事しろよ。イチャつくのは家でやれ。エリート官僚がそんなんで大丈夫なのか?」
「お前に言われると心外だ」
「仕方ないだろ、うちは特殊なんだから。もうバカップルの見本市で、脳内お花畑集団だと思ってる」
「組織公認で付き合えるなんて、俺からすると羨ましい限りだがな。お前なんて、玉の輿どころの騒ぎじゃないだろう」
「だからやめろってソレ。俺達は付き合ってないし、今後も付き合う気はない。ただの仕事仲間だよ」
「そうなのか? てっきり、今回の件でくっついたとばかり思っていたが」
「なんでだよ。確かに世話になったけど、仲間同士で助け合うのは当たり前だろ」
「あくまでもビジネスか……。それで肉体関係があるなんて、ますますもって不可思議だな、特別局というのは」
「まあね。俺が入れるくらいだから、相当イカレた所だよ」
「お前は部長殿の虎の子だろう? それだけ本質が秀でている証拠だ。学歴や家柄なんて、お前には必要無いのさ」
「さあ……どうだろうな。我が身くらい守れる程度の盾は欲しいよ」
ふう、と天井へ紫煙を吐きながら呟く丹生に、風真は穏やかに言った。
「確かに、お前が持っているのは盾ではないが、城壁だ。城壁を作るには、秀でた人徳と才覚が必要とされる。小さな盾を持つより、ずっと難しい。お前にはその力があるということだよ」
丹生は優しく微笑む風真を見て、ふっと笑った。
「さすが、上手いこと言うね。新人達に見習わせたいよ」
「事実だ。俺は平気で嘘もつくし作り笑いもする。だが、お前に対してそんなもの必要ないだろう」
「俺にへつらった所で、なんの見返りもないからな」
「そういう意味じゃない。分かっているくせに。まったく、その捻くれようは職業病か?」
「悪かったな、捻くれ者で。産まれつきこうなんだよ」
そう言って笑い合う姿は、まるで旧知の友のようで、丹生は久し振りに気の置けない時間を過ごせた気がした。
「……さて、そろそろ行くよ。忙しい中、時間取らせて悪かったな」
「もう行くのか? ゆっくりして行けば良いのに」
「多忙な風真様にそう言ってもらえて光栄だけど、無理させるのは嫌だから」
「無理なんかしていない。お前と話すためなら、どこへだって駆け付けるさ」
「ははっ、嬉しいね。愚痴聞いてもらってスッキリしたよ、有難う」
「ああ。今度、ゆっくり飲みにでも行こう」
「うん。また連絡して」
丹生は立ち上がり、見送りは良いと言って談話スペースを後にした。その背を見送りながら、風真は人知れず嘆息する。
初めて会った時から感じていたが、丹生という男はどこか存在が儚げで危うい。異様な存在感を醸し出しているくせに、瞬きすればふっと消えてしまいそうだ。まるで煙草の煙みたいな男だ、と思った。
「いくら結月君に会えないからって、省内で堂々と浮気とはやるねぇ、風真君」
「錦課長!? いつからいらしたんですか!?」
背後からひょっこり頭を出した錦に、風真は心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。
「最初から居たよ。君が気付かないなんて、そんなにあの子に夢中だったのかな?」
「彼とはそういう仲じゃありません。聞いていたならお分かりでしょう」
「ああ、〝お前のためならどこへでも駆け付ける〟だったかな。熱烈な告白だね」
「意地の悪い抜粋はやめて下さい。友人としての話です」
「ごめん、ごめん。で、彼が朝夷家跡取りのお相手かぁ。初めて見たけど、思ってたより調査官らしくないんだね」
「彼は色々と特別なんです。まるで、不思議の国に迷い込んだ少年のような男ですよ」
「しかし、結月君以外は眼中に無いくせに、珍しく大事にしてるじゃないか。素の表情で話してる所なんて、初めて見たよ」
「まぁ、彼には随分、世話になっていますからね」
ふうん、と意味ありげに相槌を打つと、錦は目を細めて問う。
「それだけじゃないんでしょ?」
「なんと言うか……放っておけないんですよ。飄々としているくせに、酷くバランスが悪い。朽ちた廃教会のような、今にも崩れてしまいそうなデカダンスを感じるんです」
「ああ、そんな感じだね。言いたいことは分かるよ。僕も彼のおかげで、特別局の印象が少しだけ変わったかな」
「どんな印象をお持ちだったんですか?」
「うーん、強かで小狡いというか……まぁ、諜報員なんてみんなそうなんだろうけど、公安庁は特にそれが強い感じがしてね。少しでも気を抜くとすべて持っていかれるような、油断ならない相手だと思っていたよ」
「確かにそれは否定できませんね。しかし彼に限っては絶対、そんなことはしないと言いきれます。きっと彼には、そこまでの野心は無いのでしょう」
「さっきの会話からするに、野心どころか劣等感を持っているようだったね。守ってあげたくなるのは、そういう雰囲気が滲んでいるからかもしれない。この世界で自己肯定感の低い人間は、とても珍しいから。さぞ生き辛いだろうなと思ってしまうよ」
「ええ、そうですね……」
すっかり丹生の姿が見えなくなったエントランスで、風真は小さく息を吐く。そんな風真の肩をポンと叩き、錦は柔和に微笑んだ。
「さ、そろそろ僕らも仕事に戻ろうか。さっきサボったぶん、今日も残業延長だからね」
「やれやれ……。国の中枢が最もブラックだなんて、まったく笑えない冗談ですよ」
そうして今日も、それぞれの忙しない日常が続くのだった。
丹生は久々に総務省を訪れていた。エントランスで出迎えてくれた風真に、片手を上げて挨拶する。
「久し振り」
「お疲れ、色々大変だったな。立ち話も何だし、あっちで座ろう」
「うん」
職員用の談話スペースのソファで、改めて向かい合う。
「気にはなってたんだけど、なかなか落ち着かなくて。顔出せなくて悪かったね」
「いや、良いんだ。大体の事情は分かってる。それで、問題は解決したのか?」
「うん、とりあえず。部長と朝夷が上手くやってくれたお陰で、なんとか生きてるよ」
「ハハ、それは心強いな。そういえばお前、ついに役職付きだって?」
「大袈裟だよ。うちは10年勤めりゃ、みんな係長級だもん。とは言え、俺なんかに肩書き付けるなんて、無理矢理感が半端なくていたたまれないぜ」
「まあ、それだけ大事になっていたという証拠だろう。お前が役付きになるのは、不思議でも何でもないがな」
「そりゃどーも。風真にも迷惑かけたな。そっちはどう?」
「安心しろ、上手く収めてある。修羅兄弟も動いていたしな。まるで蛇みたいな奴らだよ、公安警察は。政治家よりタチが悪い」
「ああ、そっか。今度そっちにもお礼言わなきゃな」
嘆息しながら丹生は眉をひそめた。風真は典型的なエリート官僚で、学歴も家柄も申し分ない生い立ちだ。
「時々、嫌になる。誰かの庇護下に居ないとやっていけないなんて、自分の存在の場違いさが身に染みるよ。特にお前を前にするとね」
「ははっ、よく言う。帝国二大名家と昵懇のくせに。しかも、朝夷家時期当主がバディだろう? 俺なんかとは格が違うじゃないか」
「あの人は別。ほとんどサイコパスだもん。お前みたいに、絵に描いたようなマトモなエリート見てると、自分の居る場所じゃないなって思い知るんだよ」
「どうした、珍しい。えらく弱ってるじゃないか。やっぱり疲れてるんじゃないのか?」
「んー……そうかも。最近、職場の雰囲気もギスギスしてるし……。いっちょ前にストレスとか感じちゃってんのかなぁ、俺」
ふ、と弱々しい笑みを浮かべる丹生に、相当苦労したようだ、と思った。
「お前の貴重な弱音が聞けて光栄だが、心配だな。俺に協力できることがあれば、遠慮なく言えよ」
「ありがと。こうして聞いてくれてるだけで助かってるよ。ところで、結月さんとは上手くいってるの?」
「ああ、すこぶる順調だ。どうやらお義父様は、吉原の魅力に開眼したらしくてな。今は番付で1番人気の太夫に、えらくご執心らしい」
「ええ、嘘でしょ!? あの橘副大臣が!?」
驚いてソファから腰を浮かせた丹生に、風真は声を立てて笑った。近頃、風真からの依頼が無いなと思っていたが、予想の斜め上の事態だ。
「本当なんだ。俺も初めて聞いた時は信じられなかったんだがな。先日、相良大臣が派手な宴席を設けた陰間茶屋で見初めたらしい。とは言え、あの方は相変わらず、色ごと目的ではないようだが」
「だったら何目的なんだよ……。あの人、すごい紳士で良い人だけど、やっぱりどっかおかしいわ……」
相良大臣の付き合いということは、間違いなく〝万華郷〟だろう。長門の異母弟、陸奥の職場であり、揚代の高さは他とは比べ物にならない、超高級大見世だ。
「相良大臣なりの懐柔作戦さ。橘財務副大臣を取り込めば、BEPS計画は完全凍結になる。橘副大臣は元々、吉原特区に懐疑的な立場だった。万が一、あそこが潰れたら、最も困るのはこの国だ。何せ、国庫の3分の1を吉原の売り上げで賄っているからな。上手くことが運んでくれて、官界もひと安心といった所だろう」
「ああ、なるほどね」
先日、陸奥から聞いた話と繋がり、合点がいった。
(にしても、大枚叩いておきながらセックス目的じゃないなんて、いっそ怖いわ。しかも吉原1番人気って……きっと陸奥さんみたいな超人なんだろうな。一晩いくらになるのか、想像もつかん)
そんなことを思っていると、長い足を組み換えながら風真が話題を変えた。
「目下の敵は総務課長だ。いつも結月をこき使って、近頃は職場で顔を見ることもままならない。隙をついて会いに行くんだが、目敏く見つけられて追い返されるんだ」
「いや仕事しろよ。イチャつくのは家でやれ。エリート官僚がそんなんで大丈夫なのか?」
「お前に言われると心外だ」
「仕方ないだろ、うちは特殊なんだから。もうバカップルの見本市で、脳内お花畑集団だと思ってる」
「組織公認で付き合えるなんて、俺からすると羨ましい限りだがな。お前なんて、玉の輿どころの騒ぎじゃないだろう」
「だからやめろってソレ。俺達は付き合ってないし、今後も付き合う気はない。ただの仕事仲間だよ」
「そうなのか? てっきり、今回の件でくっついたとばかり思っていたが」
「なんでだよ。確かに世話になったけど、仲間同士で助け合うのは当たり前だろ」
「あくまでもビジネスか……。それで肉体関係があるなんて、ますますもって不可思議だな、特別局というのは」
「まあね。俺が入れるくらいだから、相当イカレた所だよ」
「お前は部長殿の虎の子だろう? それだけ本質が秀でている証拠だ。学歴や家柄なんて、お前には必要無いのさ」
「さあ……どうだろうな。我が身くらい守れる程度の盾は欲しいよ」
ふう、と天井へ紫煙を吐きながら呟く丹生に、風真は穏やかに言った。
「確かに、お前が持っているのは盾ではないが、城壁だ。城壁を作るには、秀でた人徳と才覚が必要とされる。小さな盾を持つより、ずっと難しい。お前にはその力があるということだよ」
丹生は優しく微笑む風真を見て、ふっと笑った。
「さすが、上手いこと言うね。新人達に見習わせたいよ」
「事実だ。俺は平気で嘘もつくし作り笑いもする。だが、お前に対してそんなもの必要ないだろう」
「俺にへつらった所で、なんの見返りもないからな」
「そういう意味じゃない。分かっているくせに。まったく、その捻くれようは職業病か?」
「悪かったな、捻くれ者で。産まれつきこうなんだよ」
そう言って笑い合う姿は、まるで旧知の友のようで、丹生は久し振りに気の置けない時間を過ごせた気がした。
「……さて、そろそろ行くよ。忙しい中、時間取らせて悪かったな」
「もう行くのか? ゆっくりして行けば良いのに」
「多忙な風真様にそう言ってもらえて光栄だけど、無理させるのは嫌だから」
「無理なんかしていない。お前と話すためなら、どこへだって駆け付けるさ」
「ははっ、嬉しいね。愚痴聞いてもらってスッキリしたよ、有難う」
「ああ。今度、ゆっくり飲みにでも行こう」
「うん。また連絡して」
丹生は立ち上がり、見送りは良いと言って談話スペースを後にした。その背を見送りながら、風真は人知れず嘆息する。
初めて会った時から感じていたが、丹生という男はどこか存在が儚げで危うい。異様な存在感を醸し出しているくせに、瞬きすればふっと消えてしまいそうだ。まるで煙草の煙みたいな男だ、と思った。
「いくら結月君に会えないからって、省内で堂々と浮気とはやるねぇ、風真君」
「錦課長!? いつからいらしたんですか!?」
背後からひょっこり頭を出した錦に、風真は心臓が飛び出すかと思うほど驚いた。
「最初から居たよ。君が気付かないなんて、そんなにあの子に夢中だったのかな?」
「彼とはそういう仲じゃありません。聞いていたならお分かりでしょう」
「ああ、〝お前のためならどこへでも駆け付ける〟だったかな。熱烈な告白だね」
「意地の悪い抜粋はやめて下さい。友人としての話です」
「ごめん、ごめん。で、彼が朝夷家跡取りのお相手かぁ。初めて見たけど、思ってたより調査官らしくないんだね」
「彼は色々と特別なんです。まるで、不思議の国に迷い込んだ少年のような男ですよ」
「しかし、結月君以外は眼中に無いくせに、珍しく大事にしてるじゃないか。素の表情で話してる所なんて、初めて見たよ」
「まぁ、彼には随分、世話になっていますからね」
ふうん、と意味ありげに相槌を打つと、錦は目を細めて問う。
「それだけじゃないんでしょ?」
「なんと言うか……放っておけないんですよ。飄々としているくせに、酷くバランスが悪い。朽ちた廃教会のような、今にも崩れてしまいそうなデカダンスを感じるんです」
「ああ、そんな感じだね。言いたいことは分かるよ。僕も彼のおかげで、特別局の印象が少しだけ変わったかな」
「どんな印象をお持ちだったんですか?」
「うーん、強かで小狡いというか……まぁ、諜報員なんてみんなそうなんだろうけど、公安庁は特にそれが強い感じがしてね。少しでも気を抜くとすべて持っていかれるような、油断ならない相手だと思っていたよ」
「確かにそれは否定できませんね。しかし彼に限っては絶対、そんなことはしないと言いきれます。きっと彼には、そこまでの野心は無いのでしょう」
「さっきの会話からするに、野心どころか劣等感を持っているようだったね。守ってあげたくなるのは、そういう雰囲気が滲んでいるからかもしれない。この世界で自己肯定感の低い人間は、とても珍しいから。さぞ生き辛いだろうなと思ってしまうよ」
「ええ、そうですね……」
すっかり丹生の姿が見えなくなったエントランスで、風真は小さく息を吐く。そんな風真の肩をポンと叩き、錦は柔和に微笑んだ。
「さ、そろそろ僕らも仕事に戻ろうか。さっきサボったぶん、今日も残業延長だからね」
「やれやれ……。国の中枢が最もブラックだなんて、まったく笑えない冗談ですよ」
そうして今日も、それぞれの忙しない日常が続くのだった。
30
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる