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3章
23【個々好意】
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高級そうなアイランドキッチンの横、これまた立派なダイニングテーブルに所在無く座ると、湯気の立つカフェオレボウルと砂糖が出された。
「あ、有難う……」
「久し振りだな、こういうの」
かあっと丹生の頬が赤らむ。城戸との件を聞いて以来、個人的な連絡は取っておらず、当然、ここへも来ていないのだ。
どういうつもりだ、と上目遣いに見ると、さっきまでの不遜な態度とは打って変わって困ったように微笑む更科と目が合った。その顔から心情を悟り、丹生はふっと肩の力を抜く。
更科はひとつ紫煙を吐くと、やや歯切れ悪く切り出した。
「まあ、その、アレだ……お前を振り回すつもりはなかったんだよ。今まで何も言えなかったのは、これでも悩んでたからだ。どう話せば良いか、正直、未だにまとまってない」
「分かってるよ。俺に話さなかったのは、余計な心配かけたくなかったからでしょ? 別に怒ってないし、言いたくなきゃ何も言わなくて良い。あの時はただ……久し振りの名前に、ちょっとびっくりしただけだよ」
「物分りが良くて助かる。とりあえず今は緊急措置としてここへ連れて来たワケだが、嫌なら数日中に改めて部屋を用意する。さすがの俺も、昨日の今日では手が回らなかったからな」
丹生はカフェオレボウルの縁を指でなぞりながら薄く笑う。
(手が回らなかった? 冗談だろ。もし本当だったとしても、それこそホテル滞在なり、局泊まりなり、これ以外の方法は幾らでもあったはずだ。下手な言い訳だな、らしくない)
「ここまでしといてそんなこと言うの? 狡い人だね」
「歳食うと臆病になるんだよ。特に、お前みたいなのが相手だと尚更な」
「へえ、俺のせいってワケ。で、そっちは良いの? 城戸さんのこと。俺、上司たちと三角関係とかいう地獄、絶対イヤなんだけど」
「見ての通りの独り身だ。大体、城戸とはそういう関係じゃないって知ってるだろ。俺より、お前こそ現在進行形で粘着質なバディが居るくせに。自分の心配はしないのかよ」
「心配もなにも、ここに居るってことは極秘なんでしょ? 敢えて知らせる必要も無いし、知られたところでウチは何も問題無い」
「じゃあ、また俺の所へ戻ってくるってことで良いんだな」
丹生はすぐには答えず、カフェオレをひと口飲み、電子タバコを数回ふかした。その間、さて、どうしたもんかな、と考えていた。
(こんな状況じゃ、断りようもない気がするけど。もし断ったら、たぶん二度とこの関係は戻らない。それで良しとするか、もう少し遊んでみるか……)
ふう、と紫煙を吐くと、丹生は挑むように言った。
「今日、ベッドで俺を満足させてくれたら、全部水に流してあげるよ。どうする?」
「そう来たか」
更科は苦笑すると煙草を消し、静かに立ち上がった。
「分かったよ、女王様」
「期待してるよ」
寝室へ消える2人の背は、和やかなようでいて、僅かな軋みを孕んでいるようでもあった。
◇
丹生の引っ越しや、各種身辺整理も落ち着き、ようやく日常を取り戻した公安国際特別対策調査局。毎週、丹生宛に送られてくる王からのプレゼント以外、おおむね通常運転である。
「丹生さん、また来てますよー」
「はぁ……今度はなに?」
もはや定例となりつつある相模の声かけに、うんざりと頬杖をつきながら目を向ける。オフィスに運んで来られたのは、人間1人くらい入れそうな巨大な段ボール箱だった。
「うわ、何それ。でかくね? 怖いんだけど」
「でかいですよねー。でもこれ、見た目の割にやたら軽いんですよ。開けて大丈夫なんですかね?」
「まあ、ここまで通ってきてるってことは大丈夫なんだろうけど……」
これまで、100本は軽く超える真っ赤な薔薇の花束やら高級菓子、シルクの絨毯などなど、様々な貢物が送りつけて来られている。そのたびに皆に分けたり、躊躇なく捨てたり売ったりと、余計な雑務が増えて不機嫌になる一方だった。今や恒例行事となり、見物人まで集まる始末だ。
「璃津ー、また来たって? 今度はなに……って、床に座り込んで何してんの、2人とも」
「お疲れ様です、班長。これは、その……ハハハ」
「阿久里ー! 良いところに来た! ちょっと手伝って」
いつものごとく見物に来た阿久里は、床いっぱいに広げられた細長い乾燥植物の鞘から、極小の種子らしき物を取り出している丹生と相模の姿に、唖然とする。
「え、手伝ってって……何これ?」
「ハブ茶だってさ。さっきネットで調べたら、ビタミン豊富な健康茶で、日本でも昔から飲まれてた物なんだって」
「マフィアから健康茶って……どんな皮肉だよ、それ……。本当に口に入れて大丈夫ななのか? なんか怖くない?」
「成分分析にもかけてるし、大丈夫だろ、多分。しかしこれが意外と量あって、種取り出すの大変でさー。人海戦術ってことで、相模に手伝ってもらってんの。だから阿久里も手伝って」
「えっ? いやぁ……俺もあんまり暇じゃないんだけど……」
「ね、お願いー」
「ううーん……じゃあ、少しだけだぞ」
丹生の頼みは断れない男、2人目の阿久里もまんまと引きずり込まれる。3人で黙々と作業を始めて30分、今度は神前が現れた。
「見かけないと思ったら、お前ら一体、何してんだ?」
「おー、器用そうなナナちゃん! 入って入って!」
「え」
そうして神前もまた、あれよあれよとハブ茶取り出し作業の一員に加えられた。その後、うっかり顔を出してしまった生駒も加わり、地味すぎる作業で腰痛と肩こりと戦うこと小一時間。ようやく届いた物の半分が終わった。
「うあ……ダメだ、超腰痛い……」
「ちょっと休憩しよう……。健康茶のために不健康になりそう……」
音を上げる相模と阿久里に、丹生はポンと膝を叩いて立ち上がる。
「うし、コーヒーいれるよ。しかし生駒は器用だなー。めちゃくちゃ手早いじゃん」
「俺、こういう単調作業は結構、好きなんです」
「これでまだ半分とか、新手の嫌がらせじゃないのか」
「本当は種子だけ送りたかったらしいんだけど、空輸だと何かの規約に引っかかって駄目だったんだってさ。乾燥させてるから取り出しやすいって書いてたんだけどなー」
「俺は楽しいです。無心になれる」
「はぁ……生駒、可愛い……」
「おい、相模の鼻息が気持ち悪いんだけど。お前んとこの色ボケ部下、いい加減なんとかしろよな、阿久里」
「言わないで神前……。俺も困ってるから……」
全員分のコーヒーをつぎながら、丹生はふと声を上げた。
「あっ! こういう作業、1番得意そうなヤツ忘れてた!」
早速、電話して概要を説明する。数分後、誰も予想していなかった人物が現れた。
「よ、みんなお疲れ。それで、りっちゃんの言ってたハブ茶ってこれ?」
「うん。長門、こういうコツコツ系の地道な作業、得意だろ?」
「そうだね。終わるか止められるまで、延々と続けるね」
得意げな笑みを見せる朝夷に、全員が驚きをあらわにしている。
「まじかよ……。朝夷さんって、絶対こういうの苦手だと思ってた……」
「ああ。すぐ飽きて投げ出しそうなイメージだよな」
「と、思われがちなんだけど、実はめちゃくちゃのめり込む系なんだよなぁ、長門は。ってワケで手伝ってー!」
「おうとも、任せなさい」
そして朝夷も加わり、交代や休憩を繰り返しつつ、特別局で最も無意味で無益な作業は数時間、続いた。
「……お、終わったぁー!!」
「やば……腰と肩がバキバキに……っ」
「朝夷さんと生駒の手際が良くて、かなり助かったな」
「ぐっ……足の関節が固まった……! 立てない……ッ」
「相模、大丈夫?」
「みんな、ありがとー! んじゃ早速、飲んでみよっか」
「おおー、どんな味か気になるわ」
「気に入ったら分けるから言ってー」
そうして取り出されたハブ茶の種を煮出すと、紅茶を薄めた様な綺麗な紅色で、ほのかに花の香りが立ちのぼる。
皆で一緒にカップへ口を付けると、丹生が首をかしげながら1番に感想を述べる。
「んー……特に美味くも不味くもないな。飲めるけど」
「確かに。まあ、クセが無くて飲みやすいと言えば飲みやすいかもなぁ」
阿久里も丹生同様、微妙な反応だ。
「俺はこれ、結構好きですね」
「俺も良いと思う」
「美味しいです」
「うーん……」
「長門はこれダメなんだろ。あ、そうだ」
相模、神前、生駒は気に入ったようだが、朝夷は眉間にしわを寄せている。それを見た丹生が、おもむろに棚から蜂蜜を取り出し、己のカップに多めのワンスプーンを入れた。
「……ああ、うん、これだ!」
「お、蜂蜜と合うの? 更に健康感が増すね。ちょっと飲ませて」
丹生が渡した蜂蜜入りハブ茶に、朝夷も先程とは打って変わった反応だ。
「あ、うまっ! さっきより断然、美味いよ! さすがりっちゃん!」
「やっぱり甘みあったほうが飲みやすくなるよね」
朝夷の反応に、皆も蜂蜜を試してみる。
「うん、確かに美味くなった。こうすると、ほとんどフレーバーティーだな」
「美味しくて健康に良いなんて、文句なしですね」
「みんなコレいる? 持って帰るなら袋に分けるよ」
「頼む」
「あ、俺も!」
「俺も欲しいです」
「俺も下さい!」
「俺も欲しいから分けるの手伝うよ、りっちゃん」
「ははっ、結局みんな気に入ったんだ。王に感謝だな」
丹生は朝夷と共に全員分の小袋を作りながら笑う。神前はカップを干した後、片眉を上げて怪訝そうに言った。
「しかし、璃弊の首領ともあろう者が、おかしな男だな。璃津が公安庁の人間と知りながら、気を引こうとプレゼント攻撃。あげくに健康茶って、どういう思考回路してんだ?」
「速攻でバレたもんね、ここ。さっさと引っ越して正解だったわ。健康茶の発想は……なんだろ、華国人だから? 薬膳とか漢方とか、健康に気ぃつかってそうじゃん」
「そんな短絡的な……。まぁでも良かったですよね、暗殺とか爆破とかされなくて」
「馬鹿だろ、相模。モノにするっつってる相手を爆破してどうすんだよ」
「いや、こう、可愛さ余って的な……」
「無いわ。阿久里、お前の部下は色ボケなうえに阿呆だぞ。部長にしごかれるの、お前だからな」
「流れ弾やめてよ、神前……」
相模が神前にバッサリ切り捨てられ、阿久里が巻き添えをくらう横で、丹生は呑気にお茶をすする。
「んー、話した感じ、悪い印象はまったく受けなかったし、スジみたいなの通す人なんじゃないの?」
「ま、本当にスジ者だからね」
「あはは、確かに! さすが、長門は上手いこと言うねー」
そうして暫くのあいだ、アグリ班にハブ茶ブームが到来したのだった。
「あ、有難う……」
「久し振りだな、こういうの」
かあっと丹生の頬が赤らむ。城戸との件を聞いて以来、個人的な連絡は取っておらず、当然、ここへも来ていないのだ。
どういうつもりだ、と上目遣いに見ると、さっきまでの不遜な態度とは打って変わって困ったように微笑む更科と目が合った。その顔から心情を悟り、丹生はふっと肩の力を抜く。
更科はひとつ紫煙を吐くと、やや歯切れ悪く切り出した。
「まあ、その、アレだ……お前を振り回すつもりはなかったんだよ。今まで何も言えなかったのは、これでも悩んでたからだ。どう話せば良いか、正直、未だにまとまってない」
「分かってるよ。俺に話さなかったのは、余計な心配かけたくなかったからでしょ? 別に怒ってないし、言いたくなきゃ何も言わなくて良い。あの時はただ……久し振りの名前に、ちょっとびっくりしただけだよ」
「物分りが良くて助かる。とりあえず今は緊急措置としてここへ連れて来たワケだが、嫌なら数日中に改めて部屋を用意する。さすがの俺も、昨日の今日では手が回らなかったからな」
丹生はカフェオレボウルの縁を指でなぞりながら薄く笑う。
(手が回らなかった? 冗談だろ。もし本当だったとしても、それこそホテル滞在なり、局泊まりなり、これ以外の方法は幾らでもあったはずだ。下手な言い訳だな、らしくない)
「ここまでしといてそんなこと言うの? 狡い人だね」
「歳食うと臆病になるんだよ。特に、お前みたいなのが相手だと尚更な」
「へえ、俺のせいってワケ。で、そっちは良いの? 城戸さんのこと。俺、上司たちと三角関係とかいう地獄、絶対イヤなんだけど」
「見ての通りの独り身だ。大体、城戸とはそういう関係じゃないって知ってるだろ。俺より、お前こそ現在進行形で粘着質なバディが居るくせに。自分の心配はしないのかよ」
「心配もなにも、ここに居るってことは極秘なんでしょ? 敢えて知らせる必要も無いし、知られたところでウチは何も問題無い」
「じゃあ、また俺の所へ戻ってくるってことで良いんだな」
丹生はすぐには答えず、カフェオレをひと口飲み、電子タバコを数回ふかした。その間、さて、どうしたもんかな、と考えていた。
(こんな状況じゃ、断りようもない気がするけど。もし断ったら、たぶん二度とこの関係は戻らない。それで良しとするか、もう少し遊んでみるか……)
ふう、と紫煙を吐くと、丹生は挑むように言った。
「今日、ベッドで俺を満足させてくれたら、全部水に流してあげるよ。どうする?」
「そう来たか」
更科は苦笑すると煙草を消し、静かに立ち上がった。
「分かったよ、女王様」
「期待してるよ」
寝室へ消える2人の背は、和やかなようでいて、僅かな軋みを孕んでいるようでもあった。
◇
丹生の引っ越しや、各種身辺整理も落ち着き、ようやく日常を取り戻した公安国際特別対策調査局。毎週、丹生宛に送られてくる王からのプレゼント以外、おおむね通常運転である。
「丹生さん、また来てますよー」
「はぁ……今度はなに?」
もはや定例となりつつある相模の声かけに、うんざりと頬杖をつきながら目を向ける。オフィスに運んで来られたのは、人間1人くらい入れそうな巨大な段ボール箱だった。
「うわ、何それ。でかくね? 怖いんだけど」
「でかいですよねー。でもこれ、見た目の割にやたら軽いんですよ。開けて大丈夫なんですかね?」
「まあ、ここまで通ってきてるってことは大丈夫なんだろうけど……」
これまで、100本は軽く超える真っ赤な薔薇の花束やら高級菓子、シルクの絨毯などなど、様々な貢物が送りつけて来られている。そのたびに皆に分けたり、躊躇なく捨てたり売ったりと、余計な雑務が増えて不機嫌になる一方だった。今や恒例行事となり、見物人まで集まる始末だ。
「璃津ー、また来たって? 今度はなに……って、床に座り込んで何してんの、2人とも」
「お疲れ様です、班長。これは、その……ハハハ」
「阿久里ー! 良いところに来た! ちょっと手伝って」
いつものごとく見物に来た阿久里は、床いっぱいに広げられた細長い乾燥植物の鞘から、極小の種子らしき物を取り出している丹生と相模の姿に、唖然とする。
「え、手伝ってって……何これ?」
「ハブ茶だってさ。さっきネットで調べたら、ビタミン豊富な健康茶で、日本でも昔から飲まれてた物なんだって」
「マフィアから健康茶って……どんな皮肉だよ、それ……。本当に口に入れて大丈夫ななのか? なんか怖くない?」
「成分分析にもかけてるし、大丈夫だろ、多分。しかしこれが意外と量あって、種取り出すの大変でさー。人海戦術ってことで、相模に手伝ってもらってんの。だから阿久里も手伝って」
「えっ? いやぁ……俺もあんまり暇じゃないんだけど……」
「ね、お願いー」
「ううーん……じゃあ、少しだけだぞ」
丹生の頼みは断れない男、2人目の阿久里もまんまと引きずり込まれる。3人で黙々と作業を始めて30分、今度は神前が現れた。
「見かけないと思ったら、お前ら一体、何してんだ?」
「おー、器用そうなナナちゃん! 入って入って!」
「え」
そうして神前もまた、あれよあれよとハブ茶取り出し作業の一員に加えられた。その後、うっかり顔を出してしまった生駒も加わり、地味すぎる作業で腰痛と肩こりと戦うこと小一時間。ようやく届いた物の半分が終わった。
「うあ……ダメだ、超腰痛い……」
「ちょっと休憩しよう……。健康茶のために不健康になりそう……」
音を上げる相模と阿久里に、丹生はポンと膝を叩いて立ち上がる。
「うし、コーヒーいれるよ。しかし生駒は器用だなー。めちゃくちゃ手早いじゃん」
「俺、こういう単調作業は結構、好きなんです」
「これでまだ半分とか、新手の嫌がらせじゃないのか」
「本当は種子だけ送りたかったらしいんだけど、空輸だと何かの規約に引っかかって駄目だったんだってさ。乾燥させてるから取り出しやすいって書いてたんだけどなー」
「俺は楽しいです。無心になれる」
「はぁ……生駒、可愛い……」
「おい、相模の鼻息が気持ち悪いんだけど。お前んとこの色ボケ部下、いい加減なんとかしろよな、阿久里」
「言わないで神前……。俺も困ってるから……」
全員分のコーヒーをつぎながら、丹生はふと声を上げた。
「あっ! こういう作業、1番得意そうなヤツ忘れてた!」
早速、電話して概要を説明する。数分後、誰も予想していなかった人物が現れた。
「よ、みんなお疲れ。それで、りっちゃんの言ってたハブ茶ってこれ?」
「うん。長門、こういうコツコツ系の地道な作業、得意だろ?」
「そうだね。終わるか止められるまで、延々と続けるね」
得意げな笑みを見せる朝夷に、全員が驚きをあらわにしている。
「まじかよ……。朝夷さんって、絶対こういうの苦手だと思ってた……」
「ああ。すぐ飽きて投げ出しそうなイメージだよな」
「と、思われがちなんだけど、実はめちゃくちゃのめり込む系なんだよなぁ、長門は。ってワケで手伝ってー!」
「おうとも、任せなさい」
そして朝夷も加わり、交代や休憩を繰り返しつつ、特別局で最も無意味で無益な作業は数時間、続いた。
「……お、終わったぁー!!」
「やば……腰と肩がバキバキに……っ」
「朝夷さんと生駒の手際が良くて、かなり助かったな」
「ぐっ……足の関節が固まった……! 立てない……ッ」
「相模、大丈夫?」
「みんな、ありがとー! んじゃ早速、飲んでみよっか」
「おおー、どんな味か気になるわ」
「気に入ったら分けるから言ってー」
そうして取り出されたハブ茶の種を煮出すと、紅茶を薄めた様な綺麗な紅色で、ほのかに花の香りが立ちのぼる。
皆で一緒にカップへ口を付けると、丹生が首をかしげながら1番に感想を述べる。
「んー……特に美味くも不味くもないな。飲めるけど」
「確かに。まあ、クセが無くて飲みやすいと言えば飲みやすいかもなぁ」
阿久里も丹生同様、微妙な反応だ。
「俺はこれ、結構好きですね」
「俺も良いと思う」
「美味しいです」
「うーん……」
「長門はこれダメなんだろ。あ、そうだ」
相模、神前、生駒は気に入ったようだが、朝夷は眉間にしわを寄せている。それを見た丹生が、おもむろに棚から蜂蜜を取り出し、己のカップに多めのワンスプーンを入れた。
「……ああ、うん、これだ!」
「お、蜂蜜と合うの? 更に健康感が増すね。ちょっと飲ませて」
丹生が渡した蜂蜜入りハブ茶に、朝夷も先程とは打って変わった反応だ。
「あ、うまっ! さっきより断然、美味いよ! さすがりっちゃん!」
「やっぱり甘みあったほうが飲みやすくなるよね」
朝夷の反応に、皆も蜂蜜を試してみる。
「うん、確かに美味くなった。こうすると、ほとんどフレーバーティーだな」
「美味しくて健康に良いなんて、文句なしですね」
「みんなコレいる? 持って帰るなら袋に分けるよ」
「頼む」
「あ、俺も!」
「俺も欲しいです」
「俺も下さい!」
「俺も欲しいから分けるの手伝うよ、りっちゃん」
「ははっ、結局みんな気に入ったんだ。王に感謝だな」
丹生は朝夷と共に全員分の小袋を作りながら笑う。神前はカップを干した後、片眉を上げて怪訝そうに言った。
「しかし、璃弊の首領ともあろう者が、おかしな男だな。璃津が公安庁の人間と知りながら、気を引こうとプレゼント攻撃。あげくに健康茶って、どういう思考回路してんだ?」
「速攻でバレたもんね、ここ。さっさと引っ越して正解だったわ。健康茶の発想は……なんだろ、華国人だから? 薬膳とか漢方とか、健康に気ぃつかってそうじゃん」
「そんな短絡的な……。まぁでも良かったですよね、暗殺とか爆破とかされなくて」
「馬鹿だろ、相模。モノにするっつってる相手を爆破してどうすんだよ」
「いや、こう、可愛さ余って的な……」
「無いわ。阿久里、お前の部下は色ボケなうえに阿呆だぞ。部長にしごかれるの、お前だからな」
「流れ弾やめてよ、神前……」
相模が神前にバッサリ切り捨てられ、阿久里が巻き添えをくらう横で、丹生は呑気にお茶をすする。
「んー、話した感じ、悪い印象はまったく受けなかったし、スジみたいなの通す人なんじゃないの?」
「ま、本当にスジ者だからね」
「あはは、確かに! さすが、長門は上手いこと言うねー」
そうして暫くのあいだ、アグリ班にハブ茶ブームが到来したのだった。
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