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1章
10【異色、特例、人非人】
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以前にも話に出たが、丹生は雨に弱い。ついでに言うと、寒さにも弱い。暑さはある程度まで耐えられるが、寒いのは極端に苦手なのだ。
こういう時だけは、寒い国への潜入がないことを心底ありがたく思う。冬の東北地方も、余程の事情がない限りNGである。
言わずもがな、更科を筆頭に丹生贔屓の上層部の取りはからいで、そんな所へ出向くことはほとんどない。無理を押して派遣したところで、得られる成果より彼の機嫌を損ねるリスクのほうが、遥かに高いからだ。
しかし、それとは正反対に上官からことごとく嫌われ、しょっちゅう過酷な任地へ飛ばされる者もいる。それが羽咲 慧斗である。より正確に言えば、羽咲と棗バディだ。
そもそも羽咲は、棗の行き過ぎた調査や尋問のとばっちりを受けた形だったが、「結果至上主義っつーんならごちゃごちゃ言うな!」と面と向かって反発し、一緒になって破天荒な振る舞いを繰り返した結果、見事にバディ共々、ブラックリスト入りを果たしたというわけだ。
羽咲は実年齢より遥かに若見えする童顔美形で、化粧せずとも女性に間違われるほど可憐な造作をしている。小顔で線が細く、20代の女性役に適任の容姿だ。
「はぁー、やっぱ母国は良いよなぁ。落ち着くわー。和食サイコー、白飯サイキョー」
「お帰り慧斗。めちゃくちゃ久し振りに顔見た気がするわ」
「まーね。なんたって3ヶ月ぶりの帰国だし」
「相変わらず中期任務が多いね」
「いやー、さすがに長かったわぁ。疲れたぁー」
丹生は、今度は一体どんなことをやらかして誰を怒らせたんだろう、と喉まで出かかった疑問を呑み込む。
「それにしても、りっちゃんは相変わらず美人だよなー。てか、ますます色気増してない? 何かあったんじゃないのー? いよいよ恋人できたとか」
「無い無い、相変わらずのおひとり様でフリーダムな日々だよ。慧斗はちょっと焼けたね」
「そりゃ中南米あちこちしてたからな。はー、璃津パワー充電させてー」
「よしよし、お疲れ様」
羽咲はユーバには厳しいがクロスには甘い男だ。今もオフィスラウンジのソファで丹生に膝枕をしてもらいつつ、だらだらイチャイチャしている。
そこへ朝夷がいつものハイテンションで入ってきた。
「りっちゃーん! お昼一緒に食べ……」
羽咲を視認するなり満面の笑みを即座に引っ込め、死んだ魚の目になって声もワンオクターブ下がった。
「うわ……もう帰ってきてたのか、最悪……」
「最悪ってなんだコラおい。相変わらず失礼なオッサンだな」
「失礼なのはお前だろ! っていうか、なにナチュラルに膝枕されてるんだよ、退け! 俺もしてもらったことないのに!」
「知らねーよ。せいぜい指くわえて見てろバーカ」
「……いい加減、その態度の悪さをどうにかしろよ。いつまでたっても成長しないガキだな」
「こら長門、あんまり慧斗をいじめるなよ。大人気ないぞ」
「待って、いじめかなこれ。大人気ないの俺の方かな。なにかおかしくない?」
丹生と羽咲に揃って「おかしくない」と一蹴され、朝夷はそれ以上の抗議を諦めた。
朝夷は羽咲が大の苦手である。理由は羽咲が丹生を捕まえて離さないことと、丹生が朝夷よりも羽咲を優先するからだ。
そもそも口が悪く、デリカシーの無い羽咲は、ユーバ全員から『触らぬ羽咲に祟りなし』と敬遠されている。
「俺が居ないあいだにちょっとは進展してんのかと思ったら、さっぱりなんだもんなぁ朝夷サン。本命相手に甲斐性なしとかダサすぎる」
「うるさいな! もうお前どっか行けよ! 俺たちの愛のランチタイムを邪魔するな!」
「恒例みたいに言うけど、そんなもんは今まで一度もなかったし、これからもないぞ。せっかく慧斗が帰ってきてるんだから、お前こそ邪魔するなよ」
丹生の言葉を受け、勝ち誇った顔で笑う羽咲に朝夷がブチ切れる寸前、へろへろに疲れきった声がオフィスラウンジに響いた。
「なんだぁー。やけに賑やかだと思ったら、羽咲帰ってきたのかぁ」
「おう米呂、相変わらず死にかけてんな」
辻 米呂はアグリ班の通信、ネットワーク担当だ。元は凄腕のブラックハッカーで、裏社会の情報屋として暗躍していたところを当時の部長にスカウトされた。若干19歳にして特別局入りを果たし、チームメンバーでは最年少という丹生に引けを取らぬ特殊経歴の持ち主である。
「やっと缶詰脱出したわー。いきなりターゲット会社のPCと役員のスマホ、丸ごとゾンビ化させろって言われてさー。そこらの三流企業ならまだしも、そこそこな大手でセキュリティもかなり複雑でよぉ。おかげで丸3日も不眠不休だぜ? まじ疲れたー。璃津ぅ、褒めろしー、撫でろしー、癒せしー」
「よく分かんないけどキツそう。すごいな米呂は。俺、パソコンからっきしだから尊敬するわ。偉いぞ」
辻は甘えた声を上げて丹生の首に抱きつき、頭を撫でてもらってご満悦だ。ほとんど表舞台には立たないが、エンジニアとして潜入することもあるため、知的ですっきりした印象のほどよい美男である。
この男は兎角、美しいものや可愛いもの、珍しいものに目がない。班内では丹生のミステリアスな美貌がお気に入りらしく、たまにこうして愛でに来るのだ。
「はぁー、癒されるぜー。細いし、美しいし、いい匂いするぅー。璃津って癒し系のなんか出てると思うんだわ、まじで。ヒーラーなのかもぉー」
「それ分かる。りっちゃんの居るとこって、なんでか人集まるよな」
「おいおい、人をパワースポットみたいに言うなよ。多分ご利益ないぞ」
若々しく戯れる丹生たちを前になすすべもない朝夷は、今日も丹生とのランチを諦めざるを得なかった。
と、そこへひょっこり相模が入ってきた。
「うおっ、朝夷さん? そんなところに立ち尽くして、どうしたんですか?」
「……なんかもう、如何ともし難くてな……。年代の壁を見つめているところさ……」
虚ろな目で呟く朝夷に、大して歳変わらないでしょう、と思いつつ追求するのは辞めておく聡い相模である。せめて空気を変えようと、明るい声で返した。
「ああ、これが噂の丹生ハーレムですか。初めて見ましたけど、あれじゃクロスだかユーバだか分からなくなりますよね」
と、相模の冗談めかした発言に、丹生たちの談笑がぴたりとやんだ。辻が首を真横にかしげて言う。
「なに言ってんだ相模、璃津はユーバもやってるぞ。なんせ伝説の〝クロスユーバ〟だからな」
「クロスユーバ……? なんですか、それ」
「名前の通り、クロスもユーバも兼任する調査官のことさ」
羽咲の明瞭簡潔な説明さえ、新人の相模にはショックが大きかったらしい。
「……いや、えっと……ちょっと待って下さい……。全然、理解が追い付かないと言うか、想定の範囲外と言うか……」
「ま、知らなかったなら無理もないけど。今どきそんなことしてるの、璃津くらいだろうし」
「そうだな。なんでもござれのりっちゃんにしかできないことかもな」
鳩が豆鉄砲を食らったようなとは、正にこの時の相模の表情を言うのだろう。隣の朝夷は不服そうに押し黙っている。
「けど、璃津見てたら分かりそうなモンだけどな。そんなに驚くことか?」
「驚きますよ! 聞いたことありませんよ、兼任なんて!」
「だーかーらぁ、異例だっつってんだろーが。異例づくしの璃津のことだぜ? いちいち騒いでっと身が持たねーぞ」
疲労困憊の心身に相模の若さが辛いらしく、辻はだんだんイラついてきたようで語気が荒い。丹生は辻の首を揉んでやって宥め、場の空気緩和に努めようと柔らかい声で話を続けた。
「まあ、新人くんらは知らなくて当然かもな。クロスユーバなんて、もはや過去の遺物だし。上はとっくに不要な情報と判断してるだろ」
「局の創設当初、あまりにも人手が足りなくて兼任してた名残だもんなぁ。余裕ができた今じゃ、ここ数年で1人くらいしか居なかったって聞くし。さすが璃津だぜ。よっ、伝説の男!」
「やめてよー、恥ずかしいなぁ」
無邪気にじゃれ合う丹生らを呆然と見つめる相模の肩に、そっと朝夷の手が置かれた。
「色々あるんだよ、色々な……。こういう職場だ。はやく慣れろよ、相模」
「はぁ……。俺の中の丹生さんのイメージが、見事に崩れ去りました……」
「お前、璃津にどんなイメージ持ってたの?」
「儚げで繊細で高貴な感じで、ちょっと影のある神秘的な存在だったのに……男らしくガンガン腰振ってるところなんて、とても想像できない……っ! ちょっと見てみたいけれども!」
「みょうな想像するんじゃないよ、潰すぞ」
「……はい、すみません……」
ドスの効いた朝夷の声と殺気に、相模の全身に鳥肌が立つ。そんな2人を見て、羽咲は腹をかかえて笑っている。
「アハハハ! 朝夷サン、顔めっちゃマジじゃん! 怖っ!」
「さすが、発想が若いなぁ。クロスだってれっきとした男なんだぜ? とは言っても、たまにホストとかキャッチとか、ナンパ師みたいなチャラい役やるだけで、ガチユーバのたらし込む系はほぼ無いけどね」
「璃津は猫系男子とか言われて、女の子からめちゃくちゃモテるもんなぁ。はーあ、うらやましいぜぇ」
「よく言うよ。米呂こそ理系男子で結構な人気じゃん」
両脇に美人をはべらせ、鷹揚に足を組む丹生は正にホストさながらであり、相模は一瞬でクロスユーバとは何たるかを理解した。
「言われてみれば、そういう軟派な雰囲気が出せるユーバって少ないですもんね。先輩方みんなガタイ良いし。ターゲットによっては構えちゃうかもしれませんね」
「そーゆーこと。まぁでも、基本クロスは異性装で男相手、ユーバは女相手の色仕掛けしかしないから、俺はマジで特例ね。もう馬車馬だよ」
「分かるわー。有能な人間のサガだよなー」
「羽咲が変に忙しいのは、単に上から嫌われてるだけな」
「黙ってろ米呂」
相模は、丹生がこれほど皆に持てはやされている理由が、やっと分かった気がした。
「……なんか、丹生さんの存在がますます遠く感じてきたなぁ……」
「近づかなくて良いんだよ。そのままフェードアウトしてくれるかな」
「あ、はい……」
朝夷に笑顔で威嚇されつつ、特別局と丹生の新たな一面を知った相模なのであった。
こういう時だけは、寒い国への潜入がないことを心底ありがたく思う。冬の東北地方も、余程の事情がない限りNGである。
言わずもがな、更科を筆頭に丹生贔屓の上層部の取りはからいで、そんな所へ出向くことはほとんどない。無理を押して派遣したところで、得られる成果より彼の機嫌を損ねるリスクのほうが、遥かに高いからだ。
しかし、それとは正反対に上官からことごとく嫌われ、しょっちゅう過酷な任地へ飛ばされる者もいる。それが羽咲 慧斗である。より正確に言えば、羽咲と棗バディだ。
そもそも羽咲は、棗の行き過ぎた調査や尋問のとばっちりを受けた形だったが、「結果至上主義っつーんならごちゃごちゃ言うな!」と面と向かって反発し、一緒になって破天荒な振る舞いを繰り返した結果、見事にバディ共々、ブラックリスト入りを果たしたというわけだ。
羽咲は実年齢より遥かに若見えする童顔美形で、化粧せずとも女性に間違われるほど可憐な造作をしている。小顔で線が細く、20代の女性役に適任の容姿だ。
「はぁー、やっぱ母国は良いよなぁ。落ち着くわー。和食サイコー、白飯サイキョー」
「お帰り慧斗。めちゃくちゃ久し振りに顔見た気がするわ」
「まーね。なんたって3ヶ月ぶりの帰国だし」
「相変わらず中期任務が多いね」
「いやー、さすがに長かったわぁ。疲れたぁー」
丹生は、今度は一体どんなことをやらかして誰を怒らせたんだろう、と喉まで出かかった疑問を呑み込む。
「それにしても、りっちゃんは相変わらず美人だよなー。てか、ますます色気増してない? 何かあったんじゃないのー? いよいよ恋人できたとか」
「無い無い、相変わらずのおひとり様でフリーダムな日々だよ。慧斗はちょっと焼けたね」
「そりゃ中南米あちこちしてたからな。はー、璃津パワー充電させてー」
「よしよし、お疲れ様」
羽咲はユーバには厳しいがクロスには甘い男だ。今もオフィスラウンジのソファで丹生に膝枕をしてもらいつつ、だらだらイチャイチャしている。
そこへ朝夷がいつものハイテンションで入ってきた。
「りっちゃーん! お昼一緒に食べ……」
羽咲を視認するなり満面の笑みを即座に引っ込め、死んだ魚の目になって声もワンオクターブ下がった。
「うわ……もう帰ってきてたのか、最悪……」
「最悪ってなんだコラおい。相変わらず失礼なオッサンだな」
「失礼なのはお前だろ! っていうか、なにナチュラルに膝枕されてるんだよ、退け! 俺もしてもらったことないのに!」
「知らねーよ。せいぜい指くわえて見てろバーカ」
「……いい加減、その態度の悪さをどうにかしろよ。いつまでたっても成長しないガキだな」
「こら長門、あんまり慧斗をいじめるなよ。大人気ないぞ」
「待って、いじめかなこれ。大人気ないの俺の方かな。なにかおかしくない?」
丹生と羽咲に揃って「おかしくない」と一蹴され、朝夷はそれ以上の抗議を諦めた。
朝夷は羽咲が大の苦手である。理由は羽咲が丹生を捕まえて離さないことと、丹生が朝夷よりも羽咲を優先するからだ。
そもそも口が悪く、デリカシーの無い羽咲は、ユーバ全員から『触らぬ羽咲に祟りなし』と敬遠されている。
「俺が居ないあいだにちょっとは進展してんのかと思ったら、さっぱりなんだもんなぁ朝夷サン。本命相手に甲斐性なしとかダサすぎる」
「うるさいな! もうお前どっか行けよ! 俺たちの愛のランチタイムを邪魔するな!」
「恒例みたいに言うけど、そんなもんは今まで一度もなかったし、これからもないぞ。せっかく慧斗が帰ってきてるんだから、お前こそ邪魔するなよ」
丹生の言葉を受け、勝ち誇った顔で笑う羽咲に朝夷がブチ切れる寸前、へろへろに疲れきった声がオフィスラウンジに響いた。
「なんだぁー。やけに賑やかだと思ったら、羽咲帰ってきたのかぁ」
「おう米呂、相変わらず死にかけてんな」
辻 米呂はアグリ班の通信、ネットワーク担当だ。元は凄腕のブラックハッカーで、裏社会の情報屋として暗躍していたところを当時の部長にスカウトされた。若干19歳にして特別局入りを果たし、チームメンバーでは最年少という丹生に引けを取らぬ特殊経歴の持ち主である。
「やっと缶詰脱出したわー。いきなりターゲット会社のPCと役員のスマホ、丸ごとゾンビ化させろって言われてさー。そこらの三流企業ならまだしも、そこそこな大手でセキュリティもかなり複雑でよぉ。おかげで丸3日も不眠不休だぜ? まじ疲れたー。璃津ぅ、褒めろしー、撫でろしー、癒せしー」
「よく分かんないけどキツそう。すごいな米呂は。俺、パソコンからっきしだから尊敬するわ。偉いぞ」
辻は甘えた声を上げて丹生の首に抱きつき、頭を撫でてもらってご満悦だ。ほとんど表舞台には立たないが、エンジニアとして潜入することもあるため、知的ですっきりした印象のほどよい美男である。
この男は兎角、美しいものや可愛いもの、珍しいものに目がない。班内では丹生のミステリアスな美貌がお気に入りらしく、たまにこうして愛でに来るのだ。
「はぁー、癒されるぜー。細いし、美しいし、いい匂いするぅー。璃津って癒し系のなんか出てると思うんだわ、まじで。ヒーラーなのかもぉー」
「それ分かる。りっちゃんの居るとこって、なんでか人集まるよな」
「おいおい、人をパワースポットみたいに言うなよ。多分ご利益ないぞ」
若々しく戯れる丹生たちを前になすすべもない朝夷は、今日も丹生とのランチを諦めざるを得なかった。
と、そこへひょっこり相模が入ってきた。
「うおっ、朝夷さん? そんなところに立ち尽くして、どうしたんですか?」
「……なんかもう、如何ともし難くてな……。年代の壁を見つめているところさ……」
虚ろな目で呟く朝夷に、大して歳変わらないでしょう、と思いつつ追求するのは辞めておく聡い相模である。せめて空気を変えようと、明るい声で返した。
「ああ、これが噂の丹生ハーレムですか。初めて見ましたけど、あれじゃクロスだかユーバだか分からなくなりますよね」
と、相模の冗談めかした発言に、丹生たちの談笑がぴたりとやんだ。辻が首を真横にかしげて言う。
「なに言ってんだ相模、璃津はユーバもやってるぞ。なんせ伝説の〝クロスユーバ〟だからな」
「クロスユーバ……? なんですか、それ」
「名前の通り、クロスもユーバも兼任する調査官のことさ」
羽咲の明瞭簡潔な説明さえ、新人の相模にはショックが大きかったらしい。
「……いや、えっと……ちょっと待って下さい……。全然、理解が追い付かないと言うか、想定の範囲外と言うか……」
「ま、知らなかったなら無理もないけど。今どきそんなことしてるの、璃津くらいだろうし」
「そうだな。なんでもござれのりっちゃんにしかできないことかもな」
鳩が豆鉄砲を食らったようなとは、正にこの時の相模の表情を言うのだろう。隣の朝夷は不服そうに押し黙っている。
「けど、璃津見てたら分かりそうなモンだけどな。そんなに驚くことか?」
「驚きますよ! 聞いたことありませんよ、兼任なんて!」
「だーかーらぁ、異例だっつってんだろーが。異例づくしの璃津のことだぜ? いちいち騒いでっと身が持たねーぞ」
疲労困憊の心身に相模の若さが辛いらしく、辻はだんだんイラついてきたようで語気が荒い。丹生は辻の首を揉んでやって宥め、場の空気緩和に努めようと柔らかい声で話を続けた。
「まあ、新人くんらは知らなくて当然かもな。クロスユーバなんて、もはや過去の遺物だし。上はとっくに不要な情報と判断してるだろ」
「局の創設当初、あまりにも人手が足りなくて兼任してた名残だもんなぁ。余裕ができた今じゃ、ここ数年で1人くらいしか居なかったって聞くし。さすが璃津だぜ。よっ、伝説の男!」
「やめてよー、恥ずかしいなぁ」
無邪気にじゃれ合う丹生らを呆然と見つめる相模の肩に、そっと朝夷の手が置かれた。
「色々あるんだよ、色々な……。こういう職場だ。はやく慣れろよ、相模」
「はぁ……。俺の中の丹生さんのイメージが、見事に崩れ去りました……」
「お前、璃津にどんなイメージ持ってたの?」
「儚げで繊細で高貴な感じで、ちょっと影のある神秘的な存在だったのに……男らしくガンガン腰振ってるところなんて、とても想像できない……っ! ちょっと見てみたいけれども!」
「みょうな想像するんじゃないよ、潰すぞ」
「……はい、すみません……」
ドスの効いた朝夷の声と殺気に、相模の全身に鳥肌が立つ。そんな2人を見て、羽咲は腹をかかえて笑っている。
「アハハハ! 朝夷サン、顔めっちゃマジじゃん! 怖っ!」
「さすが、発想が若いなぁ。クロスだってれっきとした男なんだぜ? とは言っても、たまにホストとかキャッチとか、ナンパ師みたいなチャラい役やるだけで、ガチユーバのたらし込む系はほぼ無いけどね」
「璃津は猫系男子とか言われて、女の子からめちゃくちゃモテるもんなぁ。はーあ、うらやましいぜぇ」
「よく言うよ。米呂こそ理系男子で結構な人気じゃん」
両脇に美人をはべらせ、鷹揚に足を組む丹生は正にホストさながらであり、相模は一瞬でクロスユーバとは何たるかを理解した。
「言われてみれば、そういう軟派な雰囲気が出せるユーバって少ないですもんね。先輩方みんなガタイ良いし。ターゲットによっては構えちゃうかもしれませんね」
「そーゆーこと。まぁでも、基本クロスは異性装で男相手、ユーバは女相手の色仕掛けしかしないから、俺はマジで特例ね。もう馬車馬だよ」
「分かるわー。有能な人間のサガだよなー」
「羽咲が変に忙しいのは、単に上から嫌われてるだけな」
「黙ってろ米呂」
相模は、丹生がこれほど皆に持てはやされている理由が、やっと分かった気がした。
「……なんか、丹生さんの存在がますます遠く感じてきたなぁ……」
「近づかなくて良いんだよ。そのままフェードアウトしてくれるかな」
「あ、はい……」
朝夷に笑顔で威嚇されつつ、特別局と丹生の新たな一面を知った相模なのであった。
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