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1章
4【友情難儀】
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「葵、君より美しい人はこの世に存在しないよ。心の底から愛してる」
「私もだ、阿久里。愛している」
アグリ班きってのおしどりバディ、阿久里と椎奈。
「アリスちゃん、今日お泊まりしていーい?」
「良いけど、明日早いから夜更かしは無理だよ」
「分かってるってばー。早く寝られるようにお手伝いしてあげるー」
「もう、バカ」
新人の中でいち早く恋人同士になった設楽と有栖。設楽は郡司の、有栖は椎奈の部下だ。
「生駒、一緒に晩ご飯でもどうだ?」
「あ、うん……良いよ」
「じゃあ店、予約しとく。仕事終わったら下で待ち合わせしよう」
「わ、分かった……」
徐々に、しかし確実に距離を縮めている相模と生駒。相模は阿久里、生駒は椎奈の部下である。
あっちを向いてもこっちを向いてもカップル。同期も新人も他班のバディも、カップル、カップル。イチャイチャ、ラブラブの見本市だ。
(なんだこれ、悪夢かよ。日本帝国の少子高齢化、こいつらのせいじゃね? スパイの精鋭集団がこんなんで良いのか、まじで)
外回りから戻った丹生は、局の廊下を歩きながら頭が痛くなる光景にうんざりしていた。
「りっちゃん! 今日も可愛いね、大好きだよー!」
無意識に溜め息が出ていた丹生を背後から抱きしめるのは、いつもの如くの人物で。はたから見れば自分も同類かと思うと、心底、嫌気がさした。
諦めの境地へ入った丹生は、朝夷を引きずったまま自分のオフィスへ向かう。新人調査官の仕事場は談話室を兼ねたオフィスラウンジで、デスクはパーテーションの間仕切りだが、入庁10年以上かつ高成績の調査官には個室が与えられるのだ。
「りっちゃん、なんか疲れてない? ゆうべ遅かったの?」
「寝てないんだよ。溜まってた書類と他のフォロー回って、夜中から歌舞伎町の潜入バイトして帰ってきたとこ。後でシャワー浴びて仮眠するわ」
「書類仕事なんて、言ってくれれば手伝ったのに」
「別に平気。それよりお前、今夜から北海道だろ? 今のうちに休んどかなくて良いのかよ」
「しばらくりっちゃんに会えないと思うと、どうしても顔見ておきたくってさ。ね、向こう着いたら電話して良い?」
「駄目。ちゃんと仕事してしっかり寝ろ」
「ええー! 完徹のりっちゃんがそれ言う? 冷たいー、寂しいー!」
「完徹したから言うんだよ。さすがに30過ぎるときちぃわ。お前はいつも元気で偉いな。そんなに体力有り余ってんなら、ススキノにでも行って発散してこい」
でかい図体と冷えた美しさの漂う顔に似合わぬ猫なで声で甘える朝夷に、周囲はドン引きだ。なんにせよ、この人目を気にしない鋼のメンタルは尊敬に値する。
「あ、そうそう。お土産なにが良い? 鮭? カニ? ジンギスカン?」
「ストロベリーチョコホワイト」
「りっちゃんは本当にアレ好きだよね」
「ミルクチョコと間違えるなよ」
「じゃあ両方買ってくるよ。甘党のりっちゃん可愛いね」
朝夷は出張のたびに毎回、山のような土産を買ってくる。マメな性格は嫌いではないが、程度という概念が欠けているのが難点だった。
宮城県へ行った時など、10人分以上はありそうな銘菓やダンボールいっぱいの笹かまぼことずんだ餅が送って来られ、トラウマになるかと思ったほどだ。
多すぎると何度伝えても治らないので、今や言う事も辞めてしまった。こうして聞かれた時は、なるべく日持ちのする物を答えるようにしている。丹生は『諦める』と『適応する』の達人である。
「あれ? でもりっちゃん、来週から沖縄じゃなかった?」
「ああ、そういやぁそうだったな」
「はぁ!? てことは思いっきり入れ違いじゃないか!」
「しかも最北端と最南端って、ウケるね」
「むう……なにがしかの悪意を感じる……」
「たまたまだろ」
更科の思惑が働いているのをひしひしと感じながら、丹生は苦笑を漏らした。
ここ最近、やたらと2人のスケジュールがすれ違うのだ。おかげで丹生は地獄のイントレから免れている訳である。
「はぁあー……半月も会えないなんて最悪だ……。俺、干からびちゃうよ……」
「ま、お前もたまには俺離れして羽伸ばせよ」
「有り得ない、無理。1分1秒も離れたくない。って事で、昼ごはん一緒しよ?」
「悪い、今日は巴山と先約あるんだわ」
「巴山ァ? なんで?」
ワンオクターブ下がった朝夷のドス声に、丹生はけらけらと笑って返した。
「凄むなよ。アイツ、久し振りに帰国したから近況報告のメシ。じゃ、またな」
「ちょっ……ええ!? せっかく今まで待ってたのに、そんなあっさり行かないでよ! せめてチュー! チューしてってー!」
置いてけぼりを食らった朝夷の虚しい叫びだけが廊下に響き渡り、職員の失笑をかった事は言うまでもない。
「よ、璃津。相変わらずのアイスクイーンぶりだな、朝夷さんにだけ」
「いいんだよ、あの人はアレで喜んでるから」
「なんだそれ。ドSなんだかドMなんだか……掴めない人だな」
巴山は他班の班長で、洗練された容姿と高い語学力を持ち、主に海外任務を請け負っている。
ある時、丹生がCIAとの情報交換に苦戦していた時、通訳とフォローをした事があり、同い年という事もあって交流が始まった。
今日は巴山が半年ぶりに帰国したため、局内の食堂でランチの約束をしていたのだ。
「中期潜入、お疲れ様だったね。バリはどうだった?」
「どうもこうもないよ。人は多いわ、湿度高くて蒸し暑いわ、不衛生だわで、そこそこ治安は良かったけど疲れたな。あ、これ土産ね」
「うわぁ、いつもありがとう巴山!」
丹生は大喜びでいそいそと包みを開ける。この顔見たさに買ってくるんだよな、と巴山はひっそり思った。
「おっ、可愛いブレス! ハンドメイド?」
「そ。あんま良いもんじゃなくて悪いな。土産で大袈裟なのもどうかと思ってさ」
「いやいや、めっちゃ良いよこれ!」
丹生は無邪気に破顔してご満悦だ。その左腕には、既にいくつか似たようなブレスレットがジャラジャラと音を立てている。巴山はその中に混ざる自分の土産を眺めながら、やや遠慮がちに問うた。
「その……他のそれってさ、全部もらい物か?」
「そうだよ。俺がアクセ好きなの知られてるから、土産にもらうこと多いんだよね。でも着けるのは気に入ったやつだけ」
「ふうん……」
なんとなく面白くない巴山だったが、お眼鏡にかなったようで取りあえず安堵した。
特別局において珍しい話ではないが、実はこの巴山、密かに丹生へ想いを寄せている。
丹生はミステリアスな色気と美貌、若くしてスカウトを受けた経緯で入庁当時から注目され、社交的な性格もあいまって周囲からちやほやと持てはやされてきた。
しばらくはそんな丹生を敬遠していた巴山だったが、いざ話してみると想像とは打って変わった純粋な面を見せられ、呆気なく恋に落ちた。しかしその時、既に彼の周囲は更科との黒い噂をはじめ、局内屈指の曲者、朝夷のバディという障壁で固められていた。
そして手も足も出せず、気づけば数年が経っていたというわけだ。今となっては友人関係を壊さない事に専念している。
インテリジェンスの世界で生きる者にとって、新たな友人を作る事は非常に難しい。上司も同僚も部下も、皆が騙しの天才だ。名前も素性も虚偽の世界で、まともな良心など持っていては仕事にならない。
そんな中、普通の友達のように接してくれる丹生は稀有な存在だ。
「で、しばらくこっちに居るの?」
「ああ。当分、国外には出たくないな。任務よりメシが不味いのが1番キツい」
「ははぁ。俺、国外任務は受けられないから、そういう悩みってちょっと羨ましかったりするんだよね」
「お前は色々と特別だからな。国外出りゃ偉いってわけでもないし、それで良いんじゃねぇの」
更科が丹生の国外任務をNGにしているうえ、国内任務の需要も多いため、問題にならないのは確かだ。
「けどさ、一生に一度くらいは出てみたいんだよね。俺、パスポートなんて持った事ないもん」
「まぁそうだよな。プライベートな旅行くらい、してみたいわな」
ここで問題が発生した。
話の流れとしては巴山が旅行へ誘う文句が出しやすい。しかし、丹生の周りには敵に回すと厄介な人物が数多くいる。更には万が一、断られた時のショックが大きい。
どうすべきか頭を悩ませていると、不意に背後から影が落ちた。
「巴山が連れて行ってあげれば良いんじゃないの?」
「あー、郡司ぃ! なんか久し振り?」
「ん、久し振り。変わりなさそうで安心したよ」
「お疲れ様です、郡司さん」
偶然、居合わせたらしい丹生のチームメイト、郡司 貴将が、人好きのする笑みで2人を見下ろしていた。巴山にとっては先輩で、神前のバディだ。冒頭で有栖といちゃついていた設楽の、直属の上司である。
郡司は極真空手を修めており、筋肉質で上背のある雄々しい体躯をしている。治安の悪い地域への潜入が多い、武闘派系の強面美男だ。見た目に反して性格は温和で人当たりが良く、優秀な調査官である。
「で、我らが璃津様は海外旅行がしたいんでしょ? 巴山は慣れてるんだし、一緒に行ってナビしてあげなよ」
「そ、それを言うなら郡司さんもでしょう。チームメイトですし……」
「俺はダメだよ、スラム街しか知らないから。むしろリゾート地とか観光名所とか、まったく行った事ないもんね」
「それはそれで難儀な……」
郡司の過酷な任務環境に巴山が苦笑していると、丹生が納得したように明るい声を上げた。
「そうだよなぁ。巴山と一緒なら土地勘なくても安心だし、連れてってよ!」
「え!? あ……も、もちろん! 俺で良いなら!」
「やったぁ! 今度、休みの予定合わせようね」
思わぬ助け舟を出され、巴山はここ数年で最高の幸福感に浸れる事となったのだった。
しかし、丹生の背後にのし掛かる暗い影が、下心ある男との海外旅行など絶対に許さない現実をこの時、誰も知らない。
「私もだ、阿久里。愛している」
アグリ班きってのおしどりバディ、阿久里と椎奈。
「アリスちゃん、今日お泊まりしていーい?」
「良いけど、明日早いから夜更かしは無理だよ」
「分かってるってばー。早く寝られるようにお手伝いしてあげるー」
「もう、バカ」
新人の中でいち早く恋人同士になった設楽と有栖。設楽は郡司の、有栖は椎奈の部下だ。
「生駒、一緒に晩ご飯でもどうだ?」
「あ、うん……良いよ」
「じゃあ店、予約しとく。仕事終わったら下で待ち合わせしよう」
「わ、分かった……」
徐々に、しかし確実に距離を縮めている相模と生駒。相模は阿久里、生駒は椎奈の部下である。
あっちを向いてもこっちを向いてもカップル。同期も新人も他班のバディも、カップル、カップル。イチャイチャ、ラブラブの見本市だ。
(なんだこれ、悪夢かよ。日本帝国の少子高齢化、こいつらのせいじゃね? スパイの精鋭集団がこんなんで良いのか、まじで)
外回りから戻った丹生は、局の廊下を歩きながら頭が痛くなる光景にうんざりしていた。
「りっちゃん! 今日も可愛いね、大好きだよー!」
無意識に溜め息が出ていた丹生を背後から抱きしめるのは、いつもの如くの人物で。はたから見れば自分も同類かと思うと、心底、嫌気がさした。
諦めの境地へ入った丹生は、朝夷を引きずったまま自分のオフィスへ向かう。新人調査官の仕事場は談話室を兼ねたオフィスラウンジで、デスクはパーテーションの間仕切りだが、入庁10年以上かつ高成績の調査官には個室が与えられるのだ。
「りっちゃん、なんか疲れてない? ゆうべ遅かったの?」
「寝てないんだよ。溜まってた書類と他のフォロー回って、夜中から歌舞伎町の潜入バイトして帰ってきたとこ。後でシャワー浴びて仮眠するわ」
「書類仕事なんて、言ってくれれば手伝ったのに」
「別に平気。それよりお前、今夜から北海道だろ? 今のうちに休んどかなくて良いのかよ」
「しばらくりっちゃんに会えないと思うと、どうしても顔見ておきたくってさ。ね、向こう着いたら電話して良い?」
「駄目。ちゃんと仕事してしっかり寝ろ」
「ええー! 完徹のりっちゃんがそれ言う? 冷たいー、寂しいー!」
「完徹したから言うんだよ。さすがに30過ぎるときちぃわ。お前はいつも元気で偉いな。そんなに体力有り余ってんなら、ススキノにでも行って発散してこい」
でかい図体と冷えた美しさの漂う顔に似合わぬ猫なで声で甘える朝夷に、周囲はドン引きだ。なんにせよ、この人目を気にしない鋼のメンタルは尊敬に値する。
「あ、そうそう。お土産なにが良い? 鮭? カニ? ジンギスカン?」
「ストロベリーチョコホワイト」
「りっちゃんは本当にアレ好きだよね」
「ミルクチョコと間違えるなよ」
「じゃあ両方買ってくるよ。甘党のりっちゃん可愛いね」
朝夷は出張のたびに毎回、山のような土産を買ってくる。マメな性格は嫌いではないが、程度という概念が欠けているのが難点だった。
宮城県へ行った時など、10人分以上はありそうな銘菓やダンボールいっぱいの笹かまぼことずんだ餅が送って来られ、トラウマになるかと思ったほどだ。
多すぎると何度伝えても治らないので、今や言う事も辞めてしまった。こうして聞かれた時は、なるべく日持ちのする物を答えるようにしている。丹生は『諦める』と『適応する』の達人である。
「あれ? でもりっちゃん、来週から沖縄じゃなかった?」
「ああ、そういやぁそうだったな」
「はぁ!? てことは思いっきり入れ違いじゃないか!」
「しかも最北端と最南端って、ウケるね」
「むう……なにがしかの悪意を感じる……」
「たまたまだろ」
更科の思惑が働いているのをひしひしと感じながら、丹生は苦笑を漏らした。
ここ最近、やたらと2人のスケジュールがすれ違うのだ。おかげで丹生は地獄のイントレから免れている訳である。
「はぁあー……半月も会えないなんて最悪だ……。俺、干からびちゃうよ……」
「ま、お前もたまには俺離れして羽伸ばせよ」
「有り得ない、無理。1分1秒も離れたくない。って事で、昼ごはん一緒しよ?」
「悪い、今日は巴山と先約あるんだわ」
「巴山ァ? なんで?」
ワンオクターブ下がった朝夷のドス声に、丹生はけらけらと笑って返した。
「凄むなよ。アイツ、久し振りに帰国したから近況報告のメシ。じゃ、またな」
「ちょっ……ええ!? せっかく今まで待ってたのに、そんなあっさり行かないでよ! せめてチュー! チューしてってー!」
置いてけぼりを食らった朝夷の虚しい叫びだけが廊下に響き渡り、職員の失笑をかった事は言うまでもない。
「よ、璃津。相変わらずのアイスクイーンぶりだな、朝夷さんにだけ」
「いいんだよ、あの人はアレで喜んでるから」
「なんだそれ。ドSなんだかドMなんだか……掴めない人だな」
巴山は他班の班長で、洗練された容姿と高い語学力を持ち、主に海外任務を請け負っている。
ある時、丹生がCIAとの情報交換に苦戦していた時、通訳とフォローをした事があり、同い年という事もあって交流が始まった。
今日は巴山が半年ぶりに帰国したため、局内の食堂でランチの約束をしていたのだ。
「中期潜入、お疲れ様だったね。バリはどうだった?」
「どうもこうもないよ。人は多いわ、湿度高くて蒸し暑いわ、不衛生だわで、そこそこ治安は良かったけど疲れたな。あ、これ土産ね」
「うわぁ、いつもありがとう巴山!」
丹生は大喜びでいそいそと包みを開ける。この顔見たさに買ってくるんだよな、と巴山はひっそり思った。
「おっ、可愛いブレス! ハンドメイド?」
「そ。あんま良いもんじゃなくて悪いな。土産で大袈裟なのもどうかと思ってさ」
「いやいや、めっちゃ良いよこれ!」
丹生は無邪気に破顔してご満悦だ。その左腕には、既にいくつか似たようなブレスレットがジャラジャラと音を立てている。巴山はその中に混ざる自分の土産を眺めながら、やや遠慮がちに問うた。
「その……他のそれってさ、全部もらい物か?」
「そうだよ。俺がアクセ好きなの知られてるから、土産にもらうこと多いんだよね。でも着けるのは気に入ったやつだけ」
「ふうん……」
なんとなく面白くない巴山だったが、お眼鏡にかなったようで取りあえず安堵した。
特別局において珍しい話ではないが、実はこの巴山、密かに丹生へ想いを寄せている。
丹生はミステリアスな色気と美貌、若くしてスカウトを受けた経緯で入庁当時から注目され、社交的な性格もあいまって周囲からちやほやと持てはやされてきた。
しばらくはそんな丹生を敬遠していた巴山だったが、いざ話してみると想像とは打って変わった純粋な面を見せられ、呆気なく恋に落ちた。しかしその時、既に彼の周囲は更科との黒い噂をはじめ、局内屈指の曲者、朝夷のバディという障壁で固められていた。
そして手も足も出せず、気づけば数年が経っていたというわけだ。今となっては友人関係を壊さない事に専念している。
インテリジェンスの世界で生きる者にとって、新たな友人を作る事は非常に難しい。上司も同僚も部下も、皆が騙しの天才だ。名前も素性も虚偽の世界で、まともな良心など持っていては仕事にならない。
そんな中、普通の友達のように接してくれる丹生は稀有な存在だ。
「で、しばらくこっちに居るの?」
「ああ。当分、国外には出たくないな。任務よりメシが不味いのが1番キツい」
「ははぁ。俺、国外任務は受けられないから、そういう悩みってちょっと羨ましかったりするんだよね」
「お前は色々と特別だからな。国外出りゃ偉いってわけでもないし、それで良いんじゃねぇの」
更科が丹生の国外任務をNGにしているうえ、国内任務の需要も多いため、問題にならないのは確かだ。
「けどさ、一生に一度くらいは出てみたいんだよね。俺、パスポートなんて持った事ないもん」
「まぁそうだよな。プライベートな旅行くらい、してみたいわな」
ここで問題が発生した。
話の流れとしては巴山が旅行へ誘う文句が出しやすい。しかし、丹生の周りには敵に回すと厄介な人物が数多くいる。更には万が一、断られた時のショックが大きい。
どうすべきか頭を悩ませていると、不意に背後から影が落ちた。
「巴山が連れて行ってあげれば良いんじゃないの?」
「あー、郡司ぃ! なんか久し振り?」
「ん、久し振り。変わりなさそうで安心したよ」
「お疲れ様です、郡司さん」
偶然、居合わせたらしい丹生のチームメイト、郡司 貴将が、人好きのする笑みで2人を見下ろしていた。巴山にとっては先輩で、神前のバディだ。冒頭で有栖といちゃついていた設楽の、直属の上司である。
郡司は極真空手を修めており、筋肉質で上背のある雄々しい体躯をしている。治安の悪い地域への潜入が多い、武闘派系の強面美男だ。見た目に反して性格は温和で人当たりが良く、優秀な調査官である。
「で、我らが璃津様は海外旅行がしたいんでしょ? 巴山は慣れてるんだし、一緒に行ってナビしてあげなよ」
「そ、それを言うなら郡司さんもでしょう。チームメイトですし……」
「俺はダメだよ、スラム街しか知らないから。むしろリゾート地とか観光名所とか、まったく行った事ないもんね」
「それはそれで難儀な……」
郡司の過酷な任務環境に巴山が苦笑していると、丹生が納得したように明るい声を上げた。
「そうだよなぁ。巴山と一緒なら土地勘なくても安心だし、連れてってよ!」
「え!? あ……も、もちろん! 俺で良いなら!」
「やったぁ! 今度、休みの予定合わせようね」
思わぬ助け舟を出され、巴山はここ数年で最高の幸福感に浸れる事となったのだった。
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