万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩

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番外編~迷作文学~

【白雪姫⠀3】

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 白雪姫がエルフの館に身を寄せることになった、その頃。隣国のお城では、王と王妃が苦い顔で王子と対峙していた。

「……陸奥むつよ、いい加減に嫁をもらってくれんか? このままでは王族の血筋が途絶えてしまう」
「ははぁ、分かっちゃいるんですがねぇ。なかなかコレって子に出会えないんですよー」
「そう言い続けてもう34だぞ、お前……。そろそろ夢を見るのも終わりにして、妥協してくれよ」
「無理ですよー。俺は網代あじろ王みたいにホイホイ後妻もらえるほど器用じゃありませんし。まぁ正直、俺より歳下をめとったのにはドン引きしてますけどね」
「ホイホイってなんだ、失礼な。仕方ないだろう。王妃は国の母なんだから、空席にしておく訳にはいかんじゃないか。大体、次期国王が恋愛結婚なんてファンタジーでしか有り得んからな」
「あれー? もしかして網代王、黒蔓くろづる王妃を娶れなかったこと、まだ根に持ってます? 若くて美人な嫁がすぐ横に居るっていうのに、未練がましいですね。和泉いずみ王妃が可哀想だ」
「こ、こら陸奥! 余計なことを言うんじゃない!」
「王子ごときに可哀想がられる筋合いはありません。私のことは放っておいて下さい。王もお気になさらず、話の続きをどうぞ」
「あ、ああ……。まぁ、なんだ、その……ともかく! もうお前のワガママを聞くのも限界だ。近々、国中の妙齢女性をすべて招いて舞踏会を開くことにする。そこから相手を選べ」
「ええっ!? イヤですよそんなの! っていうか、国中とか絶対無理でしょう!」
「大丈夫じゃないか? うちそんな大きくないし。せいぜい2、300人くらいかな」
「いやいやいや、ひと晩で終わります? それ」
「終わる訳ないだろう。最低でも三日三晩は続けるぞ。言っておくが、拒否権は無いからな」
「くそ……っ」
「舞踏会はひと月後だ。精々、相貌そうぼう認識力を養っておくか、それまでにお前の言う理想の嫁とやらを見つけるかするんだな」
「……分かりました。ちょっと嫁探しの旅に出てきます」
「はいはい。あ、舞踏会には間に合うように戻れよー」
「見つからない前提で言わんで下さい!!」

 100人単位の女性を相手にするなどまっぴらな王子は、ヤケ気味に部屋を飛び出していった。
 足音も荒々しく自室を目指していると、鬼気迫る王子の形相に驚いた使用人の渡会わたらい吉良きらが声を掛けてくる。

「お、王子? どうなさったんですか、そんなに怖いお顔をされて……」
「ちょっと旅に出てくる」
「ええ!? また急ですねー。目的地はどこなんです?」
「理想の嫁」
「は?」
「1ヶ月以内に嫁見つけないと、舞踏会にかぼちゃの馬車で乗り付けて、0時になったらわざとらしくガラスの靴落として帰る足の小さな女と結婚するハメになるんだよ!」
「何なんですか、その怖いくらい具体的な未来予想図は……」
「そんなことになったら、話のベクトルが180度変わるだろ! なんとしても阻止せねばならんのだ!」
「は、はぁ……」

 そう言い捨てて歩き去って行った王子の背を、使用人達は呆然と見送る。

「……どうしたんだ、あの人……」
「いい歳までこじらせると、ああなるってことだろ。つーかさ、嫁探しなんて無理じゃね? だってあの人の理想って……」
「おい、やめろ吉良! 誰が聞いてるか分からないんだぞ!」
「はぁ……。色々やばいな、この国……」

 王子が旅立って1週間後。白雪姫はというと──

「ワガママ言うなよ冠次! 今夜は俺が朱理と寝る番だろ!」
「嫌だね。今日の薪割まきわり代わってやっただろ」
「はぁ!? それとこれとは話が別だ! 大体、そんな条件付きなら代わってもらわなかったわ!」
「今さら遅ぇんだよ。タダでやってやるワケねぇだろ。人から親切にされる時は真意を探るべきだったな。詰めが甘ぇんだよ、荘紫」
「ンのやろぉ……相変わらず汚い手ぇばっか使いやがって……。とにかく! 絶対に順番は譲らねーからな!」
「それはこっちのセリフだ」

 白雪姫を挟んで荘紫と冠次がいがみ合っているところへ、伊万里が鬱陶しそうな声を上げる。

「うっさいんじゃ、お前ら! ガキみたいな喧嘩すなや。ええ大人がみっともない」
「ほんまに、久々に賑やかで楽しいなぁ。何百年も生きとると、こないなお客はんが来ると嬉しおしてしゃあないんやなぁ、みんな」
「ふふ、もう下心隠す気もないし。冠次なんて毎晩のように寝込み襲ってるみたいだしねぇ」
「合意の上なのだろうか……。仮にも聖域の番人ともあろう者が、暴行となると捨て置けない」
「安心しろ、露李。ちゃんと許可は取ってある」
「お前もか、景虎……。真面目一徹みたいな涼しい顔して、しっかりヤることヤってんねやな……」
「朱理ー、アップルパイあるからこっちおいでー。町で有名なお店で買ってきたんだー」
「やったー! いつも有難う、一茶! いただきまーす」
「ふふ、美味しそうに食べる子って、本当に可愛いなぁ」

 荘紫らの腕をかいくぐって駆けつけて来た白雪姫は、大好物のアップルパイを幸せそうに頬張っている。そんな白雪姫の頭を撫でながら微笑む一茶に、香月たちは苦笑を漏らした。

「こっちは餌付えづけ作戦ですかぁ。相変わらず、静かに獲物を狙う目が怖いよねぇ、一茶って」
「あの包装紙って、いつも行列できてるお店のやん? マメやなぁ、ほんまに」

 このように毎晩、荘紫と冠次は白雪姫との同衾どうきん争いを繰り広げ、横から虎視眈々と狙う一茶と景虎。それらをコメディショウよろしく眺める桂菲たちの姿は、ほぼ定着化しつつある。
 大人の夜事情はありつつも、白雪姫は優しいエルフ達に囲まれて平和で穏やかな日々を過ごしていた。
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