万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩

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番外編~日常小噺~

【Word chain game】

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 とある昼下がり。ひかしょのソファに朱理しゅり陸奥むつが寝転び、何やら単語のやり取りを交わしていた。しりとりの真っ最中らしい。
 ちょうど朱理のターンだ。

乳様突起にゅうようとっき
急雨きゅうう
雲下うんか
勝掛かちかけ
血海けっかい
陰会いんかい
稲妻いなづま
松風まつかぜ
「〝ぜ〟かぁ……きちぃな……」
「朱理には特別〝せ〟でも良いよ」
「まじ? ラッキー。じゃあ潜龍せんりゅう
雲月うんげつ
釣鐘つりがね
「うわ! くっそ……〝ね〟って無いんだよなぁ。やばい……」
「流石に〝ね〟は代えが効かねーな」
「うーん……ちょっと待って、思い出すから……」
「無駄だと思うけど頑張れ、陸奥」

 楽しげに笑う朱理と頭をかかえる陸奥の姿に、通りかかった妹尾せお渡会わたらい吉良きら月城つきしろはほっこりとなごんでいた。

「しりとりしてる朱理さん、可愛い……」
「なんだかんだで仲良いよな、あの2人。言ってる単語はまったく意味不明だけど」
「道具とかの名前なんじゃねぇの? 茶道とか華道とかのさ」
「確かにそれっぽいね。ただのしりとりまで風流だなぁ。流石はツートップ太夫」
「しりとりなんて、もう何年もしてないよ。楽しそうだし、俺も混ぜてもらおうかな」
「渡会が行くんなら俺も行くー!」

 渡会と吉良が嬉々として朱理らに近づこうとした時、2人の肩がガシッと掴まれた。振り返った先には、青ざめた鶴城つるぎと仏頂面の冠次かんじが立っている

「馬鹿、やめろお前ら!」
「今、彼奴あいつらに近寄るな。死ぬぞ」
「どうしたんですか? そんなに血相変えて……」
「大袈裟っすよ、ただのしりとりじゃないですか」
「いや、アレはただのしりとりじゃないんだ……」
「彼奴らが言ってるの、全部、人体の急所だぜ」
 「 「「「 え 」」」」

 冠次のひと言に絶句する新造4人。追い打ちをかけるように、鶴城から補足説明が入る。

「……ちなみに負けたほうは、勝ったほうが最後に言った急所を攻撃される……」
「〝ね〟から始まり、〝ん〟で終わらない急所は無い。陸奥さんの負けかくだ」

 と、そこへ陸奥の悲痛な叫びが室内にこだました。

「ぅぁあ駄目だわ!! やっぱ無いわ!!!!」
「やったー! 今回も陸奥の負けなー」
「……あの、ちょっと待って……。本当にソコだけは勘弁して……。仕事出来なくなるからまじで……」
「やだ。身上がりすれば良いじゃん」
「お前の血は緑なのか!? 同じ男なら分かるだろ!!」
「だってー、負けは負けじゃん? 大丈夫大丈夫、つぶしはしないから。あ、でも1個くらい潰れても問題無いんだっけ?」
「大問題だわ! お前まじでやりそうで怖ぇもん! 本当に厭だ!!」
「うるっさいなー。駄々こねてると余計に危なくなるぞ。さっさと部屋行こーぜ。ここで騒ぐとみんなに迷惑だろ」
「うぅ……分かったよぉ……。でもほんと、まじで、潰すのはだけは無しでお願いします! なんでも言うこと聞くから──!」


「……陸奥さん、引きずられてっちゃった……」
「あんなに取り乱す陸奥さん初めて見たけど、大丈夫なのかな。朱理さん、なにする気なんだろう」

 妹尾と月城が心配そうに朱理たちを見送ると、冠次の鼻で笑う声が聞こえた。

「ざまぁ」
「えっと……朱理さんが最後に言ったのって、何でしたっけ……?」

 渡会の問いかけに、鶴城が震え声で答える。

釣鐘つりがね……」
「と、言うと?」
睾丸こうがんだ」

 冠次の言葉で、いっきに控え所の体感温度が下がったとか下がらなかったとか。
 売れっ子太夫らは、遊びまで凡人離れしていると思い知った新造達であった。
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