万華の咲く郷 ~番外編集~

四葩

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番外編~日常小噺~

【仮想遊戯】

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 16時半。控え所のソファに寝転んで端末を弄っている朱理の手元を覗き込み、陸奥が声を掛けた。

「あれ、また新しいゲーム始めたの?」
「ネットですげぇ騒がれてたからさ。アバターがめちゃくちゃ細かく設定出来るとかで、面白そうだと思って昨日インストールした」
「朱理はアバターって聞くとすぐ飛びつくよね。廃課金して吐くほど後悔するくせに」
「うるさいな。始めたばっかなのに萎えること言うなよ」

 そこへ昼見世を終えた鶴城、棕櫚、荘紫、一茶が連れだって入ってくる。別のソファに寝転んでいた冠次は、ちらりと目だけ朱理たちへ向けるとすぐに手元のタブレットへ視線を戻した。

「なになに、今度はなに始めたの? うわ、凄いグラフィックだなぁ。美麗だけど容量めちゃくちゃ重そう」
「あ、それ知ってるわ。CMやってるヤツだろ」
「俺も見たことあるー。何かと話題だよねぇ。確かMMORPGでしょ?」
「そうっぽい。MMO耐性無いから、まったくの手探りですわ。とりあえずアバはまぁまぁ寄せられたと思うんだけど、どお? 性別選べなかったから女だけど」

 そう言って朱理は端末の画面を皆に見せる。

「えっ!? これ作ったの!? 凄いなお前!」
「めちゃくちゃ似てるー! 意外と器用なんだね、朱理って」
「意外とって失礼だぞ、棕櫚。輪郭とか鼻の高さ、眉の位置とか目の大きさなんかまで細かく弄れるのよ。もうミリ単位で。すごくね?」
「まじすげぇよ。システムっつーか仕上がりがさ。ここまで寄せられる奴、なかなか居ねぇぜ」
「本当、似顔絵みたいだねぇ。これ見せたらすぐ朱理だって分かるくらい再現度高い」

 鶴城たちは朱理の作り上げたアバターの完成度の高さに、心底、感心している。

「へー、朱理がやってんなら俺もやろっと。ってか、既にそこそこレベル高くてびっくりした」
「朱理はやり込むと半端ないもんね。ハマったら身上がりして1日中やってるし。俺もRPG好きだから、やってみよっかなぁ」
「俺も。気になってたうえにそんなん見せられたら、ダウンロードするしかねぇわ。一茶もやろうぜ」
「そうだね、暇潰しには丁度良いかもね」

 やおら皆が懐から端末を取り出し、操作し始める様子を見て朱理は愉快そうに笑った。

「お前らって、割と影響受けやすいよね。共通の話題増えて嬉しいけど。あ、皆やるなら俺のギルド入ってよ。今んとこ共闘とかは無さそうだけど」
「いつもの〝チーム万華鏡〟ね。確かにリア友で固めたほうが気楽で良いわな」

 皆、ポチポチと操作を進めていき、やがて棕櫚が顔を上げて問うた。

「朱理はジョブ何にしたの?」
「ヴァルキリー」
「攻撃と回復かぁ、朱理っぽい」
「うーん、俺はウィッチにしようかなぁ」
「くそ悩む……レンジャーも良いけど、ウィッチも良いな……。でも一茶と被るか……」
「別に被っても良いんじゃないの。俺はウォーリアにする」
「あー、鶴城っぽいわー」
「なぁ……こないだのポ●モンの時といい、何なの、その非難めいた眼差しは……」
「なんでもないっぷよー。陸奥はジョブ何にしたの?」
「ゴリゴリのジャイアント」

 あっさり答えた陸奥に、朱理以外から驚愕の叫びが上がる。

「まじすか!? え、ぜんっぜんイメージじゃないっすよ!」
「陸奥ってソシャゲだと必ずゴリマッチョ選ぶよな、後悔するくせに。棕櫚は?」
「んんー、めちゃくちゃ悩んでる……。無難にウォーリアか、ヴァルキリーも良いなと思うんだけど、女の子使うのはなぁ……」
「相変わらずフェミってんなー。別にゲームなんだし、気にしなきゃ良いのに。でも結局、いくつかキャラ作る前提みたいよ、このゲーム」
「あ、そうなの?」
「俺もまだ全然分かってないけど、それっぽいこと攻略で見た。オススメはウォーリアかウィッチらしいけど、好きなので良いんじゃない?」
「じゃあ、とりあえずヴァルキリーにしとくかな」

 と、棕櫚がようやくジョブを固めた横では一茶が唸っていた。

「うー、参ったなぁ……アバターが全然決まらないよ。本当に細かいね、これ。弄れば弄るほどおかしくなっていくよ」
「一茶って意外とこういうので悩むんだな。もっとサラッと決めるイメージあったわ」
「鶴城はもう出来たのか?」
「俺はアバターに拘りないんで、適当です。今チュートリアルやってます」
「なぁ朱理、これどこまでがチュートリ?」
「結構長いよ。後から小出しにされるのもあるし。てか2人共、もうアバ決まったの? 早くね?」
「鶴城も荘紫もゲーム慣れしてるし、アバターに無頓着だからね。さくさく進められて羨ましいよ」

 そうして皆、無事に初期設定を済ませた頃、ふと、陸奥から怪訝な声が上がった。

「あれ? 朱理のギルド、もう誰か居るじゃん。鶴城か?」
「いや、俺まだ勧誘来てませんよ」
「あ、俺んとこ今来た。本当だ、所属2名ってなってる」
「珍しいね、知らない奴の申請受けるなんて。無言系?」
「ああ、いや、それは──」
「うわっ、やっべーぞこいつ! レベル高すぎ! 超やり込んでんじゃん、ウケる!」
「このゲーム自体、まだリリースされて数日でしょ? どのゲームにも必ず居るよなぁ、イン時間異常なプレイヤーって」
「強いから入れたのか、それなら納得だわ」
「いや……そうじゃなくて……」

 皆がやいのやいのと囃し立てる中、朱理が苦い顔でちらりと対面のソファを見遣る。その視線に気付いた一同が振り返ると、いつもの如く寝転がってタブレットを弄る冠次の姿があった。冷や汗を浮かべつつ、荘紫と棕櫚が恐る恐る冠次の手元を覗き込む。

「……あー……もしかしてだけど、お前がずっとやってんのって……」
「……冠次だったのね……あのプレイヤー……」

 冠次は青ざめる鶴城らを一瞥し、鼻で笑った。

「だったらなんだ。やる時は徹底的にやらねぇとな。そうだろ、朱理」
「あ、ああ、まぁね……」

 気不味い空気を打ち破ったのは、朗らかな一茶の純粋な感嘆だ。

「凄いねぇ、冠次。数時間でそんなにレベル上げられる物なの? コツとかあったら教えて欲しいなぁ」
「ま、俺も昨日からやってるしな。朱理がやり始めた時に見かけて、速攻インストした。やってりゃ勝手に強くなるぜ」
「はー? まじかよ、何か先越された感。むかつくー」

 むう、と眉を吊り上げる陸奥に勝ち誇る冠次。それを遠巻きに見ながら、鶴城たちは嘆息する。

「……そう言えば、冠次も朱理がやるゲーム片っ端からやる奴だったな……」
「冠次の執着も大概、異常だろ。マジで陸奥さんと張れるレベルだわ」
「けど冠次の場合、普段が静かなぶん、陸奥さんより怖い気がするんだよね……」

 和やかな遊戯の始まりのはずが、うっかり同僚の心の闇を垣間見てしまった上手達なのであった。

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