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第三章 取り調べを受ける
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僕はウン年間のウィーン留学中に三度だけ引っ越しをしましたが、記念すべき一件目は日本から探した物件でした。
ウィーンの日本人コミュニティーサイトで見つけたので、入居は安心してできたのですが、家賃も割と高く、大学から片道一時間かかりました。
通学時間一時間はは、日本では普通でもオーストリアでは考えられないということで、最初の家からは一か月くらいで引っ越しました。
ただ、その時は入学もできていなかったので、世界遺産のシェーンブルン庭園に気軽に散歩に行ける距離にあった家に住めたのは、ウィーンに来たばかりの僕にとって「ヨーロッパに来たぞ!」という心地がして幸せでした。
二件目は何十件もお宅見学をし、片っ端から入居拒否をくらった後、最後の最後で辿り着いた、心理学の大学教授が貸し出している住居でした。
そのフラット(日本で言うアパート)には教授が週に一度セラピーに使う部屋を含めて三部屋あり、大学休学中の女の子が一人で住んでいました。
僕には僕専用の部屋が割り当てられ、キッチン・トイレ・お風呂のみ、その女の子とシェアする形でした。
彼女は本当に素晴らしい同居人で、休学中だったこともあり、シェアスペースの掃除を率先してやってくれるなど、フラットシェア初体験の僕を陰ながら支えてくれました。
彼女お気に入りのコーヒーマシンやおばあちゃんから譲り受けたという洗濯機を不幸にも僕が壊してしまうなどのトラブルはありましたが、それ以外は実に完璧なフラットライフで、あまりの心地よさに留学中はほとんどそこに住み着いていました。
しかし数年が経ったとき、急きょ教授がそのフラット全体を売りに出すと言い出し、卒業試験のための勉強で超忙しい時に、新しい住居を探すこととなりました。
時間もお金もない日本人学生が見つけられる住居なんてたかが知れたものです。
僕は拒否される心配のない八人用のシェアフラットに決めました。
そこでは、フラットメイトの中に、非常に恰幅がよく、態度がすこぶる高慢な女性がいて、さらにそいつは、フラットをうるさく駆け回る子犬を飼っていました。
ある日、その犬が死ぬほど苦手だった僕は、キッチンでキャンキャンと足元に寄ってきた子犬を軽く蹴り返しました。
すると、すかさずヤツがやってきて、「子犬なんだから仕方がないでしょ」と言いながら僕のことを平手で叩きました。毎日図書館が開いてから閉まるまで勉強していた僕は、魔が差したのでしょう、女性の頬をビンタしてしまいました。
頬がほんのり赤くなっただけです。
それでも被害者は即日病院へ行き、医者から診断書をもらい、その足で警察に行きました。
それで僕はオーストリアの警察に事情聴取を受けることになったのです。
「日本では男性が女性を叩いても良いのか」
この問いにはぐぅの音も出ませんでした。
そう言えば、警察には日本でもお世話になりかけたことがあります。
元旦に自転車で馬術部の練習に向かっていると、不意にパトカーに呼び止められました。
ヘッドフォンをしながら運転していたので、そのことかと思い自転車を停めたのですが、どうもヘッドフォンのことではないようです。
「この自転車はどうやって手に入れたのかな?」
無精ひげの警官に僕は問い詰められました。
後部車輪に鍵が付いていないことから、盗難車ではないかというのです。
確かにそれは先輩から安く譲ってもらった疑惑の自転車だったので、先輩を擁護するため、「知らない」としらを切り続けました。
しかしパトカーで警察署まで連れて行かれた時、このままでは親にまで迷惑がかかってしまう、と思った僕は、結局その先輩の連絡先を教えて、釈放されました。
しかし、此度の女性暴行は正真正銘自分自身が引き起こした問題です。
僕はオーストリア人警官のお叱りを受けたのち、無事に『仮釈放』されましたが、正念場はそこからでした。
家に帰った僕は、同居人の部屋のドアをノックします。
被害者が訴えなければ、当然ながら裁判もなく、事なきを得られるからです。
閉じられたままのドアに「謝るから許してください」と頭を下げますが、「一か月以内に退去しなければ訴える」とその女は一歩も譲りません。
それどころか、僕のあずかり知らぬところで当事者(僕)なしのフラット会議が持たれ、数日後には大家から正式に退居命令が下ったのです……
第四章に続く
ウィーンの日本人コミュニティーサイトで見つけたので、入居は安心してできたのですが、家賃も割と高く、大学から片道一時間かかりました。
通学時間一時間はは、日本では普通でもオーストリアでは考えられないということで、最初の家からは一か月くらいで引っ越しました。
ただ、その時は入学もできていなかったので、世界遺産のシェーンブルン庭園に気軽に散歩に行ける距離にあった家に住めたのは、ウィーンに来たばかりの僕にとって「ヨーロッパに来たぞ!」という心地がして幸せでした。
二件目は何十件もお宅見学をし、片っ端から入居拒否をくらった後、最後の最後で辿り着いた、心理学の大学教授が貸し出している住居でした。
そのフラット(日本で言うアパート)には教授が週に一度セラピーに使う部屋を含めて三部屋あり、大学休学中の女の子が一人で住んでいました。
僕には僕専用の部屋が割り当てられ、キッチン・トイレ・お風呂のみ、その女の子とシェアする形でした。
彼女は本当に素晴らしい同居人で、休学中だったこともあり、シェアスペースの掃除を率先してやってくれるなど、フラットシェア初体験の僕を陰ながら支えてくれました。
彼女お気に入りのコーヒーマシンやおばあちゃんから譲り受けたという洗濯機を不幸にも僕が壊してしまうなどのトラブルはありましたが、それ以外は実に完璧なフラットライフで、あまりの心地よさに留学中はほとんどそこに住み着いていました。
しかし数年が経ったとき、急きょ教授がそのフラット全体を売りに出すと言い出し、卒業試験のための勉強で超忙しい時に、新しい住居を探すこととなりました。
時間もお金もない日本人学生が見つけられる住居なんてたかが知れたものです。
僕は拒否される心配のない八人用のシェアフラットに決めました。
そこでは、フラットメイトの中に、非常に恰幅がよく、態度がすこぶる高慢な女性がいて、さらにそいつは、フラットをうるさく駆け回る子犬を飼っていました。
ある日、その犬が死ぬほど苦手だった僕は、キッチンでキャンキャンと足元に寄ってきた子犬を軽く蹴り返しました。
すると、すかさずヤツがやってきて、「子犬なんだから仕方がないでしょ」と言いながら僕のことを平手で叩きました。毎日図書館が開いてから閉まるまで勉強していた僕は、魔が差したのでしょう、女性の頬をビンタしてしまいました。
頬がほんのり赤くなっただけです。
それでも被害者は即日病院へ行き、医者から診断書をもらい、その足で警察に行きました。
それで僕はオーストリアの警察に事情聴取を受けることになったのです。
「日本では男性が女性を叩いても良いのか」
この問いにはぐぅの音も出ませんでした。
そう言えば、警察には日本でもお世話になりかけたことがあります。
元旦に自転車で馬術部の練習に向かっていると、不意にパトカーに呼び止められました。
ヘッドフォンをしながら運転していたので、そのことかと思い自転車を停めたのですが、どうもヘッドフォンのことではないようです。
「この自転車はどうやって手に入れたのかな?」
無精ひげの警官に僕は問い詰められました。
後部車輪に鍵が付いていないことから、盗難車ではないかというのです。
確かにそれは先輩から安く譲ってもらった疑惑の自転車だったので、先輩を擁護するため、「知らない」としらを切り続けました。
しかしパトカーで警察署まで連れて行かれた時、このままでは親にまで迷惑がかかってしまう、と思った僕は、結局その先輩の連絡先を教えて、釈放されました。
しかし、此度の女性暴行は正真正銘自分自身が引き起こした問題です。
僕はオーストリア人警官のお叱りを受けたのち、無事に『仮釈放』されましたが、正念場はそこからでした。
家に帰った僕は、同居人の部屋のドアをノックします。
被害者が訴えなければ、当然ながら裁判もなく、事なきを得られるからです。
閉じられたままのドアに「謝るから許してください」と頭を下げますが、「一か月以内に退去しなければ訴える」とその女は一歩も譲りません。
それどころか、僕のあずかり知らぬところで当事者(僕)なしのフラット会議が持たれ、数日後には大家から正式に退居命令が下ったのです……
第四章に続く
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