スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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後日談【間接的で直接的な戯れと本心】

前編

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 その日。

 矢車は珍しく、動揺していた。


「センパイ……今の、もう一回言ってもらっていいですかぁ?」


 ベッドの上で、ワイシャツ一枚だけの姿になった矢車は。


「…………」


 ただネクタイを外しただけの松葉瀬を見上げて、動揺していた。

 ……それも、そのはずで。


「――青あざのこと『青たん』って言ってるのすっごく面白い……じゃなくて可愛いので、もう一回言ってもらっていいですかぁ?」
「――死ね」


 松葉瀬の口から出てきた、どこか可愛らしい響きの言葉。

 その音を聴いて、矢車は動揺した。

 ……もとい、楽しんでいるのだ。


「まさか、俺様何様アルファ様の口からぁ? アイドルの愛称に使いそうな『たん』って言葉が出てくるなんてぇ? 世間にコミットしすぎじゃないですかぁ? カッコよさと可愛さのギャップってやつですぅ? ぷぷぷっ、可愛いですねぇ?」
「舌引っこ抜くぞ、クソビッチ」
「えぇ~? それってぇ~? もしかして『タン』でかけてますかぁ? やだ、高尚すぎて大爆笑不可避ですぅ!」
「殺す」


 どうして、そんな話になったのか。

 いつものように、矢車は松葉瀬と行為に及ぼうとしていた。

 その際、矢車は松葉瀬の手によってズボンを剥がされ。

 そしてすぐさま、身に覚えのない痣に矢車は気が付いた。


『あれぇ? ボク、そんなところぶつけましたっけぇ?』


 当然、松葉瀬から答えがくるとは思っていない。

 そして、松葉瀬は呟いたのだ。

 ――今に至る、自滅のワードを。


『知るか、ボケ。テメェが擦り傷だろうが青たんだろうが……どこ怪我してても俺が知るワケねェだろ』


 たかが、言い方の違い。
 意味合いは、同じ。

 それなのに、矢車は松葉瀬の言い方が妙に気に入ったらしい。


「ねぇねぇ~! ボクのことも『菊臣たん』って言っていいんですよぉ?」
「気色悪い提案するんじゃねェよ。つゥか、たかが方言に食いつきすぎなんだよ、ウザってェな」
「ボクは別に、方言をバカにしてるつもりじゃないですよぉ? ただボクはセンパイをバカに……じゃ、なくて……『ボクのアルファ様は可愛いなぁ』って言ってるだけですぅ」
「それがウゼェんだよ、分かれや」


 苛立たし気に表情を歪める松葉瀬を見上げて、矢車はご満悦だ。

 いつもは、不遜な態度を隠している。

 完璧に見える笑みを浮かべて、誰もが求める言葉を的確に選び、発して……。

 そんな【皆が愛するアルファ】を演じる松葉瀬の、本性。

 それを知っているのは、矢車だけ。


「プンプンしちゃってぇ……センパイ、かぁわい~っ」


 嬉々として松葉瀬の本心を覗きたがる矢車は……存外、イカれているのだろう。

 ……それか、純情を拗らせているのかもしれない。

 ニヤニヤと口角を上げる矢車は、今なお楽し気だ。

 ベッドの上で、ワイシャツ一枚だけの姿。だというのに、恥じらいも焦りもない。

 細く白い脚を、惜しげもなく晒している。

 そのまま矢車は、まるで見せつけるかのように、笑った。


「センパイの大事なオメガたん、青たんできちゃってますよぉ? 心配ですぅ? 過保護になって『俺の菊臣たんに、なにしてるんだよ~』って怒っちゃいますぅ?」
「誰が大事なオメガだよ。俺にそんな相手はいねェ」
「図星なクセにぃ」


 からかいながら、矢車はぼんやりと考える。


(う~ん……。どこにぶつけたんだっけ? 思い出せないし、いっそのことウソ吐いてカワイソウなフリしたら……センパイ、心配してくれるかなぁ?)


 そして、内心で自嘲気味に笑う。


(センパイがボクの心配とか……ナニソレ、笑えない。絶対してくれるわけないよなぁ……)


 それでも、矢車は松葉瀬から脚を隠そうとしない。


(でも、ちょっぴり期待しちゃうのは……複雑な恋心ってやつなのかなぁ? ……なぁんて)


 存外、矢車は甘え下手なのだ。




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