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7章【虚無的で悲観的な思想は、客観的に見て滑稽か】
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しおりを挟む嘲笑しながら、矢車は茨田を見上げる。
「課長、ご存知ないかもしれませんが……ボクってぇ、こう見えて超絶拗らせ天邪鬼なんですよねぇ?」
「超絶……はっ?」
「さっきの……『素直に懐いていた』でしたっけ? つまり、それが答えなんですよねぇ、マジで」
「……どういう、意味だい……っ?」
茨田の手が、胸から離れた。
そのことに安堵しつつ、矢車は笑う。
「――ボクって、好きであれば好きであるほど……その人に辛辣な態度、とっちゃうんですよねぇ? ツンデレってことで、ご愛敬でぇす」
つまり。
素直に懐いていると言うことは、裏返すと……興味がない。
『大好き』は『大嫌い』に。
――そして『大嫌い』は『大好き』ということだ。
「いやぁ、まさか天下のアルファ様を期待させちゃっただなんて……ボクってば、意外と罪な男だったんですねぇ? 自分でも驚きです、ぷーくすくす」
明らかに自分を侮蔑している矢車を見て。
ついに。
――茨田が、キレた。
「人をおちょくるのも、いい加減にしろ……っ!」
うなじからも、手が離れる。
だが次の瞬間、矢車は体の向きを反転させられた。
「きみは気付いていないだろうけど、この書庫は内側から鍵をかけてしまえば、誰も開けられない! つまりだ! きみはここに連れ込まれた時点で、最初から私の番になるしかなかったんだよ!」
腕を、後ろ手に固定される。
「口の利き方には気をつけた方が賢明だとは思わないか? え? 矢車?」
「……あはっ、こわぁい」
腕を固定しているのとは、逆の手。
自由に使える方の手で、茨田は矢車の襟を……力任せに、下げた。
襟を下げられたということは、うなじが露出させられたということ。
――それでも矢車は、笑みを消さなかった。
「課長こそ、お気付きじゃないんですかぁ?」
矢車は顔だけで、茨田を振り返る。
――そこにはやはり、嘲笑的な笑みが貼りつけられていた。
「――こう見えてボク、警戒心バリ三なんですよねぇ?」
矢車がそう言い、茨田と視線を絡めた……その瞬間。
――激しい音が、二人の鼓膜をつんざいた。
「――矢車ッ!」
それは、扉が開いた音。
そして響いた、その声は。
「どう、して……お前が、っ!」
驚いた茨田が、足音のした方を振り返る。
「な、何で……っ! 鍵は、確かにかけたというのに……っ!」
「あれぇ? そんなに驚きますかぁ? 書類探すフリして開けておいたんですけどぉ?」
「なに……っ!」
「ふふっ。世間的に需要アリアリな、プルプル震えるだけの子ウサギ系オメガじゃなくてごめんなさぁい?」
二人に近付いてきたのは、扉を開いた男。
そして、矢車の名前を呼んだ……声の、主。
「センパイ、遅いですよぉ。……書類、ボクが見つけちゃいました」
「なに呑気なこと言ってんだよ、ボケが……ッ!」
誰からも好まれるような、明るく社交的な笑み。
それらを一切消している……そんな男。
――松葉瀬だった。
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