スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6章【連鎖的に解明される、犠牲的な後輩への想い】

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 相手が矢車だったなら。


『いいんですかぁ? じゃあ、お願いしちゃおっかなぁ? ……それとも、一緒に探しますぅ? ボク、パソコンで表を作るのは苦手ですけど、探し物は得意ですよぉ?』


 きっと……こんな返事がきただろう。

 どうしようもないことを考えて、松葉瀬は閉じていた目を開く。

 そしてその目で、矢車のデスクを見た。


「……ッ」


 矢車のデスクには何故か、茨田が立っている。

 二人はなにかを小声で話していて、そのまま、事務所から出て行ってしまった。


(今の……アイツに、話したのか……ッ?)


 決して、広くはない事務所だ。わざわざ茨田が話さなくても、矢車には聞こえていたかもしれない。

 しかし、それでも……告げ口をされていたらと思うと、気が気ではなかった。


(違う……俺は、そんなつもりじゃ……ッ)


 確かに松葉瀬は、矢車のことを『クソオメガ』と罵ったことがある。

 しかしそれは、本心からじゃない。

 しかも、矢車の方から先にアルファだからと弄られない限り、松葉瀬は矢車をオメガ扱いしなかった。

 ……ただの一回を、除いて。


(茨田のことで腹を立てて、アイツに八つ当たりした俺が……今更アイツに、縋るだって? ……お門違いも甚だしいだろ、マジで……ッ)


 売り言葉に買い言葉であったとしても。

 自分は周囲と同じく、矢車のことを軽んじていたのかもしれない。


(そんな俺が、今このタイミングで……なにを言えってんだよ……ッ)


 茨田について行く矢車を、引き留めるなんて。

 姿が見えなくなることは耐えられないから、どこにも行くなと引き留めることは。

 どうしたって……松葉瀬には、できない。


(――何で、他の男についていくんだよ……ッ)


 自分の理解者でいろと、無理矢理縛りつけたい。

 手の届く範囲にいろと、命じてしまえたら。

 言い様の無い絶望感に……松葉瀬は、頭を抱えた。


(……クソ、最悪だ……ッ)


 今更になって、松葉瀬は気付いたのだ。

 どうしていきなり……矢車が、輝いて見えたのか。

 矢車がそばにいないと、どうして不安になってしまうのかも。


(何で、あんなクソ後輩に……俺は……ッ)


 ――矢車が、自分以外の男と一緒にいるのは……心底、面白くない。

 ――追い掛けて、そばに居ろと引き止めたい。

 この気持ちが何なのか……松葉瀬はようやく、名前を付けた。


(俺は、アイツに……依存、してたのか……ッ)


 アルファである自分を恐れず、それでいて特別扱いもせずに……近寄ってくれたことが。

 どれだけ自分の心が弱くても、それを笑って受け止めてくれたことも。

 矢車が私利私欲の為にそうしていたのだとしても、松葉瀬にとっては。

 ――全て、心の支えだったのだ。

 そう自覚したところで、今更……矢車を追いかけることは、できない。

 自覚してしまったからこそ……松葉瀬は、追いかけられないのだ。

 ここで、矢車を追いかけてしまったら。

 ――きっと……二度と離れてしまわないように、咬みついてしまいそうだったから。




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