スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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4章【普遍的ゆえに模範的な、上司による裂傷】

7 *

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 ――このまま、歯を突き立てて。

 ――矢車のうなじを、力任せに咬んでしまえば。

 ――松葉瀬はアルファとしての脅威を、捨てることができる。


(もういい、もう面倒だ……ッ!)


 矢車のうなじに、歯を這わせた。

 すると矢車が小さく震え、声を押し殺す。


「ん……っ」


 後孔の締めつけが増し、松葉瀬は眉間に皺を寄せる。


(コイツ、こんな時でも……ッ)


 うなじとの距離は、ゼロ。

 残すはもう、咬むだけ。

 なのに松葉瀬は……余計なことに、気付いてしまった。


(――俺が咬んだら、コイツは一生……俺の、番……ッ?)


 オメガを咬んでしまえば、松葉瀬はアルファという呪縛から多少なりとも解き放たれる。

 ――しかし、矢車は?


(コイツは一生……アルファのオメガとして、生きていかなくちゃいけねェのか……ッ?)


 うなじを咬み、番になってしまったら。

 確かに松葉瀬は……誰かを番にしてしまうという脅威から、逃げられるかもしれない。

 しかし矢車は……一生、オメガとしての汚名を背負い続ける。

 ――オメガである象徴を、体に刻まれ続けてしまうのだ。

 ――【オメガ】という枠から、一生……逃げられない。


「――クソがァッ!」


 叫んだ松葉瀬は、矢車のうなじを手で隠す。

 そのまま強く握り、何度も何度も、腰を打ちつけた。


「あっ、ぁあっ! だめっ、また、イっちゃ――はっ、ぁあ、んっ!」
「ク、ソ……ッ!」


 もう一度、矢車の体内に精を注ぐ。

 松葉瀬の下で、矢車も絶頂を迎えている。

 そこに……多幸感なんてものは、ない。

 そして、達成感もなかった。


「はぁ、ふ……っ、セン――」
「黙れって言っただろォが……喋んな、クソヤロー……ッ!」


 肩で息をする矢車が、松葉瀬に声をかけようとする。

 しかし松葉瀬は、それを拒絶した。


「喋んなよ、クソビッチ……ッ! なにも、言うな……ッ、笑いもするな……ッ!」


 いっそ……いつものように『自分勝手だ』と罵られたなら、良かったのかもしれない。

 けれどどうしても、今の松葉瀬はその言葉を聴きたくなかった。


(アルファが強いだなんて、優秀な種族なんて……嘘に、決まってんだろォが……ッ!)


 矢車のうなじを握ったまま、松葉瀬は呼吸を整える。

 珍しく、矢車は松葉瀬の言うことを素直に聞いていた。

 なにも言わず、呻きもせず……ただ、松葉瀬の言葉を待っている。

 けれど、今の松葉瀬には……矢車に対する気遣いが、全く無かった。


(ふざけんな、ふざけんなよ……ッ!)


 アルファが強いなんて。

 賢いだなんて、迷信に違いない。


(だから……ッ)


 ――期待。

 ――尊敬。

 ――恐怖。


(そんな目で、俺を……見るんじゃねェ……ッ!)


 ――自分はなんて、弱い生き物なのか。

 誰にも言えない孤独を、心の中で叫んで。

 松葉瀬は激しい自己嫌悪に、苛まれた。





4章【普遍的ゆえに模範的な、上司による裂傷】 了




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