スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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序章【情熱的且つ退廃的な訪問】

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 何の前触れもなく通路に押し倒された青年は、小さく呻く。


「い、った……っ。ちょっと、センパイ? いきなり押し倒されると、ケガし――」


 青年は当然、文句を言った。

 が、松葉瀬は青年が紡ぐ文句に興味なんてない。

 ――興味があるのは、青年の体だけだった。


「ちょっと……っ」


 うつ伏せに倒した青年にのしかかり、松葉瀬は青年の服を引っ掴む。

 そしてあろうことか……青年が着ている服の襟を、乱暴に下げた。

 ――青年のうなじが、惜しげもなく晒される。

 松葉瀬は、青年のうなじに、舌を這わせた。

 ――いっそ、今ここで、コイツに咬みついてやろうか?

 そこまで考えた松葉瀬は、青年のうなじに歯を立て。


「――咬むんですかぁ?」


 青年に、挑発された。

 うなじを咬まれるか、咬まれないか。
 その、瀬戸際だというのに。

 青年は挑発的に、笑っていた。


「アルファの情けない本性を剥き出しにして、脆弱でカワイソウな後輩オメガをムリヤリ番にするんですかぁ? さっすが、俺様何様アルファ様ですねぇ? 清々しい程にサイテーで、痺れちゃいます」


 口角を上げて、青年は蠱惑的な声色で囁く。

 紅い瞳を細めて、ただただ、楽し気に。


「……黙れ、クソオメガ」


 対する松葉瀬の声は、あまりにも……弱々しい。

 小さな鳴き声に似た松葉瀬の台詞を聴いても、青年は笑みを消さなかった。


「そのクソヤローを虐めることでしかストレス発散できないなんて、高尚なアルファ様は随分とお手軽な人種なんですねぇ? 単純で、羨ましいです」


 青年が再度、挑発をしかけてきたとき。


「――黙れって言ってんだよッ!」


 叫ぶと同時に。

 ――松葉瀬は犬歯を、青年に突き立てた。


「い、ったぁ……っ!」


 怒りに身を任せ、力の限り、咬みつかれる。
 当然、青年は痛みによって悲鳴を上げた。

 けれど。


「……ふ、ふふっ。あははっ! あれれぇ? センパイ、そこはうなじじゃないですよぉ?」


 青年は、咬まれた箇所を。

 ――肩を撫でて、後ろにいる松葉瀬を振り返った。

 自分の下で、愉快気に笑う青年を眺めて……松葉瀬は吐き捨てるように呟く。


「肩から血ィ出してるくせに、なに興奮してんだよ。……この、ドヘンタイが」


 振り返ったまま、青年は唇で弧を描いた。


「ふっ、あはっ。……だってぇ」


 青年の紅い瞳が、松葉瀬を捉える。


「ボク、今から……カワイソウなウジ虫センパイの慰み者になるんですよぉ? そんなの……ふふっ」


 青年の紅い瞳を見て、松葉瀬は眉間の皺を深く刻んだ。


「――とっても、絶望的じゃないですかぁ?」


 松葉瀬を捉えた、紅い瞳。

 その瞳は……情欲によって、濡れていた。





序章【情熱的且つ退廃的な訪問】 了




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