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13章【雨垂れ石を穿つ】

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 ベッドの、軋む音。
 二人の、粗い呼吸。

 何度も何度も喘ぎながら、山吹は現状を脳裏に焼き付けようとした。

 桃枝に、こんなにも愛されている。見つめたら見つめ返され、求めれば求めるほど、応じてくれた。

 自分は、自分自身ですらどうしようもないほど、桃枝を愛している。キスをされたらキスを返し、求められれば求められるほど、嬉しくなった。

 自分は今、誰かを──桃枝を、愛している。この現実に、山吹は涙が出そうだった。

 この【愛】が、正しいのかどうかは分からない。少なくとも山吹の両親からすると、理解に苦しむ関係なのだろう。

 それでも、山吹は『間違っている』とは思わない。そう、桃枝が教えてくれたから。

 人が人を愛する方法は、千差万別。両親と違っても、周りの誰と違っても、山吹はもう気にしない。


「白菊さん、大好きです。大好き、です、っ」
「あぁ、俺もだ。愛してるぞ、緋花」


 想いを伝え合っている間も、桃枝は動きを止めなかった。
 どこか、獣のように。桃枝は山吹の体を犯し、互いの快楽を貪る。

 桃枝は眉を寄せて、快感に喘ぐ山吹を睨むように見つめた。


「クソッ。腰を、止めてやれねぇ……ッ」


 実に、らしくない。桃枝が山吹の身を案じていてもなお、自分の欲望を律することができないなんて。


「あっ、ん! 止めないで、くださいっ。このまま、もっとぉ、っ」


 それが嬉しいのだから、山吹だってどうかしている。

 強請るように桃枝を許した後、山吹は桃枝の瞳を見つめ返す。それからゆるりと、瞳を細めた。


「もしかして、ガマンの限界ですか、っ? ……ふふっ。なんちゃ──」
「──あぁ、そうだ」


 間髪容れずに、桃枝は肯定する。


「お前のナカに出したくて、堪らない……ッ」


 心のどこかで、山吹は考えていたのかもしれない。
 今晩こうして桃枝が誘ってくれたのは、以前、山吹が泣いてしまったからなのか。……なんて、栓無きことを。

 今になってようやく、山吹はその危惧を振り払うことができたらしい。


「お願いだ、緋花」


 名前を呼ばれ、手を握られ、瞳を見つめ合ったからこそ。山吹には、伝わったのだから。


「──このままもっと、俺を好きになってくれ」


 きゅぅ、と。胸が、締め付けられる。見つめる先に在る桃枝の顔が、真剣そのものだからだ。

 山吹は泣いてしまいそうなほど、胸をいっぱいにしてしまう。……それでも、山吹は微笑んだ。


「頼まれなくたって、ボクはそうしますよ。もう、そういう男になっちゃったんですからね」
「緋花……」

「ボクは白菊さんに対して、責任を取ります。だから──と言うのも、変ですけど」


 言葉を区切った後、山吹は桃枝にキスをした。
 そして、やはり山吹は微笑むのだ。


「──白菊さんも……ボクに責任、取ってください」


 ピタリ、と。一度、桃枝が動きを止める。
 それは山吹からのキスに驚いたのか、笑顔か、言葉か。山吹には答えが分からない。

 しかし、分からなくたって良いのだ。


「言うまでもねぇよ。俺は一生をかけて、お前を大切にするんだからな」
「ふふっ。白菊さんは相変わらずですね? 一生は重たいですよ?」
「足りないくらいだろ」
「変な白菊さん」


 言葉を交えて、もう一度キスをして。それから再度、桃枝は山吹の体を揺すり始めた。


「あぅ、白菊さんっ。ボクも、もう……っ」
「そうか。お揃いだな」
「もう、白菊さんの……ばかっ」


 気持ちや、プレゼントや、指輪や、未来。桃枝からは大切なものを貰ってばかりだ。

 それらが全て、桃枝の幸福にも繋がっていたのだとしたら……。互いの熱を感じながら、山吹は照れ隠しのようにらしくないことを考えた。




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