地獄への道は善意で舗装されている

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
407 / 466
12.5章【ロバにスポンジケーキ】

3

しおりを挟む



 そんな、イチャイチャでラブラブ括弧、当社比、括弧閉じな日常を過ごした翌日。

 ──山吹は、事件を引き起こしてしまった。


「あ、あぁ……っ!」


 それは、平日の夜。残業をしている桃枝の帰りを、料理をしながら待っていたその後。
 山吹は紅茶を飲もうと思い、コップを持ちながら歩いていた。桃枝に教えてもらったリモコン操作をして、テレビを見ようと思ったからだ。

 その時、事件が起こった。


「──シ、シロが……シロがぁ……っ!」


 躓いた拍子に、コップから紅茶が零れ……シロを、汚してしまったのだ。

 幸い、コップは割れていなかった。山吹自身にも、怪我はない。桃枝が最も嫌がる【傷付いた山吹】は、引き起こされなかった。

 だが、大問題だ。桃枝にプレゼントしてもらったシロが、無残な姿になっているのだから。


「どっ、どうしよう……! 染み抜き、染み抜きしなくちゃ……!」


 持てる全ての家事スキルを活かし、山吹は懸命に染み抜きを開始。
 しかし、相手はぬいぐるみ。ズボンやシャツのような単純さではなかった。


「だ、大丈夫、大丈夫だよ。きっと、クリーニングに出せばキレイになるはずだよね。あっ、でもボク、このマンションの近くにクリーニング屋さんがあるのか知らない……」


 万事休す。山吹はペタリと床に座り込む……なんてことはせず、急いで紅茶やコップを片付けた。根から家事根性が沁みついている山吹は、この状況を前にただただ項垂れる……なんてこと、できないのだ。

 混乱は、確かにしている。それでも山吹は、現状打破を諦めたりはしなかった。


「えっと、クリーニング屋さん。先ずは、クリーニング屋さんを調べて、それで……」


 山吹は急いでスマホを手に取り、近所にあるクリーニング屋を探そうとする。
 しかし、その直前。


「白菊さんに、頼っても……いい、よね?」


 おず、と。指先が彷徨う。

 今の山吹は、焦っている。悠長にアレソレと悩む余裕がない。
 だからこそ山吹は、即決できた。【桃枝に頼る】という選択肢を。

 山吹は先ず、スマホで写真を撮った。汚れてしまったシロの写真だ。

 その写真をすぐに桃枝へ送信し、即座に現状を共有。あとはただ、言葉で『信頼できるクリーニング屋は近くにありますか?』と訊くだけ。山吹はタシタシと、スマホの画面をタップする。


『白が』
『シロが』
『汚れてしまって』
『紅茶』
『クリーニング屋さん』


 先ほども述べた通り、山吹は焦っていた。思った通りの単語変換や、文章が打ち込めない。

 桃枝とのトーク画面には、すぐに【既読】の二文字が表示される。映し出されたその単語が、さらに山吹を焦らせた。


「どうしよう、えっと、電話をした方が──」


 文字ではなく言葉で伝えた方が早いか。そう思い、山吹がスマホを握り締め直した時──。


『落ち着け』


 ポンと、桃枝からメッセージが送られてきた。
 それからすぐに、地図情報が共有される。


『歩いて数分の所にあるクリーニング屋だ』
『この時間でもまだ開いてる』


 表示されたマップを確認するより先に、桃枝が全てを教えてくれた。
 山吹は半泣き状態になりながら、見えないと分かっているのにコクコクと何度も頷く。

 それから一言、桃枝に『行ってきます!』とだけ返信をした。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...