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11章【喉元過ぎれば熱さを忘れる】

15 *

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 頭を腕で支えられ、露わにさせられた逸物を握られて。桃枝はムギュッと、眉間に皺を刻む。


「なぁ、山吹。今の俺の心情を、素直に伝えていいか?」
「はいっ! なんでしょうかっ?」

「──猛烈に恥ずかしい」


 山吹の胸に顔を埋めながら、桃枝は文句のように呟いた。

 しかし、山吹には桃枝の訴えが伝わらない。キョトンと目を丸くして、心底『理解不能』と言いたげな態度を見せているのだ。


「えぇ~っ、なんでですかぁ~? 大好きなボクのおっぱいにちゅっちゅできるなんて、猛烈な羞恥心を遥かに凌駕する栄誉だと思いますけど?」
「そこは否定しない。……が、姿勢と言うか体勢に問題がある。この、赤子じみた扱いはどうにかならねぇのか」

「言ったじゃないですか。『ボクが課長を癒します』って。人間、究極の甘え形態は赤ちゃんですよ?」
「またお前は大規模な話を持ち出してきたな……」


 つまり、山吹はこの行為をやめるつもりはないようだ。言ってしまえば、この行為に『正解だ』という確信しかないのだろう。

 行動力が凄まじい恋人に、桃枝はどんな感情を向けるべきなのか。ほんの一瞬だが本気で、桃枝は悩んでしまった。

 ……だが、実際問題どうだろう。この状況に物申したい気持ちは当然ながらあるものの、桃枝は考えてみた。

 いつまでも気乗りしない態度を示すより、恥を捨てて楽しんでみてはどうだろうか、と。桃枝個人としては、逆転の発想だった。

 羞恥心は勿論残っているが、その羞恥心を向けるべき相手がノリノリなのだ。ならば、桃枝が恥じる意味はないのではないか。むしろ、恥じている桃枝こそが恥ずかしいのかもしれない。

 そう気付き、確信を抱いたのならば。桃枝が取る行動は、ひとつだ。


「──あ、んっ!」


 気持ちを切り替えてしまえば、姿勢や扱いに相違はあれどいつもの行為と変わらないだろう。桃枝がすべきなのは──したいのは、山吹を気持ち良くすることだった。

 すぐに、桃枝の逸物を握る山吹の指が跳ねる。同時に、桃枝の頭を支えている手が不安定に震え始めた。


「課長、なんで……っ。いきなり、吸い付きが……ん、ッ!」


 考えてみれば、山吹の性感帯は乳首だ。つまり、ここで真に優位なのはどちらだろうか。
 無論、深く考えるまでもなく答えは明白だ。


「はっ、あっ。課長、だめ……っ。乳首、そんなに吸っちゃ──あんっ!」


 あっという間に、形勢逆転。簡単すぎて心配になるほど容易に、桃枝は自分の優位性を手に入れた。

 ピクピクと震える山吹を見上げて、桃枝は瞳を細める。


「今日のお前、いつも以上に可愛いな」
「ん、はぅ……っ。構ってもらえなくて寂しいって、言ったじゃないですか。寂しい思いはさせないって、言ってくれましたのに……」

「それは本当に申し訳なかった」
「ひゃっ! そう言いながら乳首つままないでくださ──ひっ、んぅっ」


 口だけではなく、桃枝は指も使って山吹の乳首を愛撫し始めた。


「乳首、舌で転がさないでぇ……っ。やっ、あ、んっ! 爪で、かりかりってしちゃ、やぁ、っ!」
「どうした、緋花。手が止まってるぞ」
「んぅ、むりぃ、っ。白菊さんの口と指が、気持ち良くて……集中、できないです、っ」
「やめろ、お前の声だけで射精させる気か」

「んっ! 白菊さんに責められると、ドキドキします……っ。ボクこそ、白菊さんのお声だけでイきそうです」
「あー……。……可愛いな」


 語彙力の消失。存分に乳首──もとい、恋人を可愛がろう。

 究極の癒しとは、どうやら可愛い恋人らしい。悟りじみたことを考えながら、桃枝は山吹の胸に愛撫を続けた。




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