地獄への道は善意で舗装されている

10章【疾風に勁草を知る】

16 ＊

　呆気なく、達してしまった。顔から火が出てしまいそうなほど、恥ずかしい。
　山吹は赤い顔を両手で隠そうとしながら、首を横に振った。

「だめ、ですぅ……っ。手、放してください……っ。課長に触られたらボク、感じちゃいます、からぁ……っ」
「やめろ、出ちまうだろ」
「ぁ、んっ！」


　またしても腰を掴まれ、震える。どうやら、桃枝は感じすぎて恥じらう山吹を見るのが気に入ったらしい。


「お前、乳首弄られるの好きだよな。舐めてやろうか？」
「訊かないで、ください……っ。『うん』って言うのも『してほしい』って言うのも、恥ずかしぃ……っ」

「そうか。俺はどんなお前も好きだが、素直なお前は特に好きだ。愛してるぞ、緋花」
「は、うぅっ」


　腰を掴まれたままだと言うのに、愛を囁く唇が胸に近付いた。胸元を舌が這うと、山吹の体にはゾクゾクと強い快感が奔る。


「ぁ、はぁ、んぅ……ッ。乳輪、舐められるの……ゾクゾク、します、っ」
「おいこら。だから、逃げんなって」
「ダメ、ぇ……っ。気持ち、良すぎて……体が、勝手に……っ」


　性感帯である乳首を啄まれ、それだけではなく奥を突かれる快楽が強すぎて、恐怖すら浮かんできそうで。本能的に逃げようとする山吹を、桃枝は決して放そうとしなかった。


「ぁん、んっ、あ、あッ」


　ベッドが軋む音が鳴り、互いの体がぶつかる音がやけに卑猥で。断続的な喘ぎ声を漏らしながら、山吹はたった一言『イク』と宣言もできずに、何度も達する。


「ずっとイッてるな、お前。ナカの痙攣が、すげぇ気持ちいい……ッ」
「あぁ、んっ。奥、そんなにグリグリしないでぇ、っ」


　根元まで挿入された桃枝の逸物が、山吹の弱いところを何度も圧迫してくるから。山吹は涙を流しながら、桃枝を見つめてしまった。


「形、覚えちゃう……っ。白菊さんのおちん×んの形覚えて、ずっとずっと挿れててほしくなっちゃうぅ……っ」
「……ッ。やめろ、声で俺をイかせようとするんじゃねぇよ」
「あぁっ、あッ。ズリズリって、お尻いじめちゃだめぇ……ッ！」


　またしても、強すぎる快感から体が逃げてしまいそうになる。すぐに桃枝の腕が山吹の腰を掴み、元の位置へ戻そうとした。

　何度も射精し、何度も達して……。山吹の理性は、既に機能していなかった。
　だからこそ山吹は、桃枝に向けて両腕を伸ばす。


「逃げないように、ギュッてして……捕まえていて、くださいぃ……っ」


　甘えてきた山吹を、桃枝はしっかりと支える。
　それから桃枝は、山吹の耳朶にそっと顔を寄せた。


「緋花、ナカに出したい。……奥に、種付けさせてくれ」
「っ！」


　先ほど『声でイかせようとするな』と言ってきたくせに、自分はどうなんだ。耳元で囁かれた熱い言葉に、山吹は射精せずに達してしまう。

　それでも、返事をしなくては。呼吸を荒げたまま、山吹は桃枝の背に腕を回す。


「欲しい、ですっ。白菊さんの精子、お腹の奥にいっぱい出してぇっ」


　言うとすぐに、桃枝がキスを贈ってくれる。山吹は夢中になって桃枝にキスを返し、そして……。


「んん、んッ、ふぁあ……ッ！」


　絶頂を迎えると同時に、桃枝の熱が注がれたから。山吹はあられもない声を上げて、強すぎる快感に体を震わせた。

　しばらく、絶頂の余韻に浸りながら。互いの体をしっかりと抱き締め合ったまま、山吹は桃枝の体に顔を埋めた。


「白菊さん、好き……っ。白菊さんとするセックスも、気持ち良くて大好きです……っ」
「あぁ、俺もお前が好きだ。……今さらだが、少し跳ねた後ろ髪も可愛いぞ」

「えっ。き、気付いていたんですかっ？　……うぅ、恥ずかしい……っ」
「その反応はやめろ。また勃つだろうが」


　まさに、幸福極まれり。これ以上の幸せはないと言いたげに、山吹は桃枝にしがみついていた。

　……だから、山吹は想像することすらできなかったのだ。

　──桃枝が言っていた『来週から来る中途採用の奴』が、誰なのかを。