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7.5章【人は知らずに裁き、神は知って罰する】
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しおりを挟むそれは、月曜日の夜に突然起こった。
「──えぇーっ! ブッキー、二十歳になったのっ?」
「──全然知らなかったんだけど! なんで言ってくれなかったのっ!」
そう言って驚く二人は、山吹と同じ課の職員だ。桃枝が風邪を引いた時、看病に対するロマンについて語っていた先輩たちでもある。
なぜ、桃枝以外の相手に誕生日を教えなくてはいけないのか。……そもそも、桃枝にだって教える気がなかったのだ。山吹が自ら、誰かに誕生日を打ち明けるわけがない。
ならば現在、なぜ山吹は『二十歳になった』と申告しているのか。簡単に言うと、話の流れだ。深い意味はない。
山吹に対する好感度が高い二人は、まるで親戚のように山吹の年齢を喜んでいる。デスク周りの片付けをする山吹は、看病に対するロマンと同様、二人の喜びが分からなかった。
「ボクの年齢って、そんなに大事な話ですかね」
「「当たり前でしょ!」」
「そんな、声を揃えて……」
苦笑いを浮かべつつ、山吹はパソコンの電源を切る。すると、まるでその動きを待っていたかのように、男の先輩が『パン!』と勢いよく自らの両手を合わせた。
「よし! それなら今晩、早速飲みに行こう!」
「えっ? 今晩、ですかっ?」
「だって明日は祝日で休みだし、少し羽目を外しても大丈夫でしょう?」
「それは、まぁ。確かにそうかも、しれませんけど……」
どうやら、女の先輩も同意見らしい。山吹はオロオロと、二人の先輩を見上げる。
シンプルな回答として、山吹はこの飲み会に乗り気ではない。
女の先輩が言った通り、明日は祝日。夜更かしと言う意味で羽目を外すのならば、共に時間を過ごす相手には断然、桃枝を選びたい。これが、今の山吹が抱く素直な答えだ。
しかし、そうは言えない。山吹は桃枝との関係を、社内の人間に明かしたくないからだ。
「お酒、ですか……」
興味がない。……と言えば、さすがに嘘だ。山吹はアルコールの類に、少なからず興味がある。
だが、どうせ初めて酒を飲むのなら……。やはり、山吹の頭に浮かぶ相手は一人しかいない。
「ボクは、そのっ」
拒否をする正当な理由は、特になく。しかし気乗りするような理由も、同様にない。答えに詰まった山吹は、視線をソロソロと動かして──。
「──なにやってんだよ。用事がないならサッサと帰れ」
「「「──っ!」」」
いつの間にか近くにいた桃枝を、視界に捉えた。
念のため翻訳すると、桃枝のこの発言は【怒り】からのものではない。純粋に【善意】であり、つまるところ『早く仕事が終わったんだから、家に帰ってゆっくりしたらどうだ?』という意味である。当然、山吹以外には理解されないが。
委縮した先輩二人に代わり、山吹が口を開く。
「ボクが二十歳になったので、お酒を飲みに行かないかと誘っていただいたところです。なので、これは大事なコミュニケーションですよ、課長」
「酒? 山吹が?」
「むっ、なんですか。ボクだってお酒に興味くらいありますよ」
「別に否定的な感情なんざ向けちゃいないんだがな。……って、そうじゃなくてだな」
桃枝の眉が、なぜか普段以上に寄せられる。先輩二人はビクビクと怯えているが、山吹はキョトンと小首を傾げた。
いったい、なにがそこまで気になるのだろう。三人は思い思いの表情で、桃枝を見た。
三人分の眼差しを受けた桃枝が、ようやく口を動かし──。
「──行くのか。酒、飲みに」
続く、桃枝の言葉に。ようやく山吹は、桃枝の眉が寄せられた理由を理解できた。
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