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2章【知るは一滴に過ぎず、知らぬは大海の如し】
17 *
しおりを挟むまじまじと観察されながら、桃枝は言葉を返す。
「……練習、したからな」
「えっ。ゴム装着の練習、ですか?」
「そっちからすると『ダサい』とか思うんだろ。悪かったな、童貞で」
「いえいえっ! 人は誰しも童貞からスタートするものですよっ!」
「そんな大規模な慰めは要らん」
生真面目な桃枝のことだ。淫乱ビッチと自称している山吹と交際するのならば【そういった知識】を身に付けようとしたのだろう。
そうした、見えないところで向けられていた愛を知り。……山吹の胸には、またしても妙なモヤがかかった。
「……じゃあ責任を取って、体で慰めてあげますね」
「やめろ、変なこと言うな」
「あはっ。今、課長の課長がビクッて跳ねましたね? 課長と違って、こっちの課長は素直でカワイイですねぇ~っ?」
「やめろ……」
隆起した逸物を眺めて、山吹は楽しそうに笑う。
……さて、準備は終わり。可哀想なことに、桃枝の童貞は山吹の悪意によって奪われるのだ。
「きてください、課長」
まだどこかで、桃枝は迷っているのかもしれない。……それでも山吹は、解放するつもりもないが。
逸物の先端が、山吹の後孔に押し付けられた。桃枝自身の態度や表情とは違い、分身は随分とやる気に満ちている。
「あっ、凄い……っ。課長の、熱くて硬いです……っ」
「やめろ、山吹。今の俺にそういった発言は、刺激が強すぎる」
「だって、本当に凄くて──……んっ」
ゆっくりと、それでいて恐る恐る、距離が縮まっていく。山吹は体を小さく震わせながら、桃枝を徐々に受け入れ始めた。
「こんなに、立派なのに。……未使用だったなんて、もったいないですね……っ」
「随分と余裕そう、だな。……痛くないのか?」
「ボクは、新品の課長と違って……使い古されて、いますからね、っ」
瞬時に、桃枝の眉が寄せられる。その顔が意味することを、山吹は気付いていた。
「あはっ。課長、カワイイですね。……ヤキモチ、ですか?」
「いい気はしないだろ」
「『気にしない~』みたいなこと、告白の時に言ってたじゃないですか? ……それに」
山吹は手を伸ばし、その手を桃枝の頬に添える。
「──今は、課長のモノじゃないですか」
気丈に微笑むと、山吹を見つめる桃枝の瞳と視線が絡んだ。
随分と、真っ直ぐ相手の目を見られるようになった。妙な感慨深さを抱いていると、頬に添えた手に桃枝の手が重ねられる。
「──『今は』じゃなくて。『これからは』だろ」
ピクリ、と。思わず山吹は、体を震わせてしまった。
「……っ。……そう、ですね」
言葉が、詰まる。気の利いた返答のひとつも、できない。
──まさか桃枝は、このままずっと山吹と……?
手を伸ばさなくても、届く距離。桃枝との距離は、あまりにも近い。それなのに、こんなにも遠いなんて……。
「根元、まで。入ったぞ、山吹」
「そうみたい、ですね。……課長の童貞、ごちそうさまです」
体を繋げ、確かな圧迫感がある中で、山吹は心が空っぽになったような。そんな気持ちを抱いてしまった。
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