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1章【好奇心は猫をも殺す】

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 山吹は、モテる。男女問わず、年上も年下も関係なく、だ。

 自分の容姿や雰囲気が【そういった意味合いでモテる】と気付いたのは、山吹が中学生の頃。毎月ペースで、変質者に声をかけられた時だ。

 知り合いがいない高校へ進学すると、その疑惑は即座に確信へと変化。山吹は男女問わず、多くの相手から誘われた。
 おかげさまで、山吹は前も後ろも使用済み。童貞でも処女でもない中古品となった。

 それだけで済めば、山吹はただの放蕩者として生涯を終えただろう。普遍的ではないにしても、特段珍しくもない意味深なパーリーピーポーの完成だ。

 だが、不幸がひとつ。山吹がどんな状況でもヘラヘラと笑える、頭のネジが外れた人間へと成り果てる材料が、もうひとつだけあった。

 ──それは、父親からの虐待だ。

 日常的に暴力を振るう父親により、山吹の価値観は歪に変化。性にだらしなく、人間関係に対してもどこかドライな男へと成り果てたのだ。

 それでも、山吹は真っ当な方の部類だろう。来る者は拒まなかったが、去る者は決して追わなかったのだ。オマケに、自分から誰かを誘いもしなかったのだから。

 おかげで妻帯者だということを知らずに上司と火遊びをしてしまったのは痛手だったが……やはり、山吹はどこかがおかしかったらしい。『やっちまったぜ』の一言で事件にケリを付け、今でも平然とした態度で出勤しているのだから。

 数奇な出来事の嵐により山吹は管理課へと異動したのだが、当の管理課トップはそれを知らないときた。これもこれで、おかしな話だろう。


『あの、課長っ。これからもたまに、こうしてご飯に誘っていいですかっ?』


 だからこそ、愉快で堪らない。ここで笑みに輝きを増させるのだから、やはり山吹はどこかがおかしいのだろう。
 並んだ料理に箸を伸ばす桃枝は、眉を寄せた。


『終わってもいないのに次の話か? 随分とせっかちだな』
『確かに、それもそうですね。で、返事は?』
『せっかちの極みかよ』


 魚の刺身を箸でつまみながら、桃枝は返事をする。


『別に、いいけどよ。……誘われるのは、嫌いじゃないからな』


 こうした相手と関われるのは、山吹にとっては稀だ。
 思えば、初めからそうだったのだろう。山吹が誰かを食事に誘うなんて、こんな経験は初めてだ。

 高校時代から付きまとっていた山吹の噂を知らず、下心もない。純粋すぎる、上司と部下の関係。……まさか、そんなものが築けるなんて。


『ヤッパリ今日の勘定、全額ボクが払おうかなぁ~っ』
『はっ? やめろ、馬鹿。俺の立場がねぇだろ』
『あははっ、面白い冗談ですねっ。そんなもの、最初からないじゃないですかっ』
『笑顔でなんてこと言いやがるんだ、このクソガキ……』


 同世代の相手とは、一に会話で二にセックス。
 母親は父親のご機嫌取りばかりで山吹にはさほど関わらず、父親は日常的に罵倒と暴力ばかり。
 そんな中、初めて築けた【普通の関係】だ。


『おい。なにヘラヘラしてんだよ』
『元からこういう顔なんですよぉ~っ?』
『そうなのか? ……なら、悪かった。これからはちゃんと、部下の顔を見るようにする』


 その相手が、対人スキルがマイナス値の男というのもまた、山吹にとっては愉快でならない。思わず『ビールおかわりっ!』と言いたくなるほど、浮かれてしまう。

 当然、山吹は未成年なので飲酒はできないが。




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