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終章【恋模様シーイング】

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 誰かが開けなくちゃいけない箱が、あったとしよう。

 だが、その箱を開けたらどうなるのか……。

 それは、誰も知らない。

 ……そんな、恐ろしくも魅惑的な箱が、あったとしよう。

 誰も触れることができないその箱を見て、彼なら。

 ――秋在なら、こう言うのだろう。


『――ボクが開けてあげる』


 それは、善意なのか。

 それとも、ただのカリギュラ現象なのかは……誰にも、分からない。

 真意は、秋在本人ではないと分からないのだから。

 しかし……開けようとする秋在だって、その箱がどんなものなのかは知らない。

 それでも、秋在はたとえ、どんな箱だったとしても……我先にと、開けてしまうのだろう。

 ――その箱を開けたら、世界がより良い方に変わると……分かっているのなら。

 ――その箱を開けたことによって、秋在がどう変わるとしても。

 ――その行為が、いい未来に繋がるのなら。


「――だけどッ! ヤッパリ職員室に殴り込みは駄目だって、秋在ーッ!」
「――マジで落ち着けし、春晴く~ん!」


 時刻は、昼休み真っ只中。

 お弁当を食べ、教室やグラウンド、他にも中庭で……沢山の生徒が、思い思いの過ごし方をする時間。

 そんな中、冬総と季龍は。


「……っ!」


 ――二人がかりで、秋在の【特攻】を止めようとしていた。


「秋在、秋在ッ! そんな可愛い顔して睨んでも、駄目なものは駄目だッ! ……くッ!」
「オイ冬総! 春晴くんに見つめられて力緩めんなってマジで!」
「ハッ! わ、悪い四川――オイ四川ッ! 俺の秋在にベタベタ触るんじゃねェッ!」
「イヤ、冬総の情緒ッ! 不安定かってッ!」


 場所は、廊下。

 厳密に言うのなら……先程、冬総が言っていた通りの場所。

 ……【職員室へと続く廊下】だ。

 秋在の腕を左右で掴んでいる冬総と季龍が、突然仲間割れをする。

 ……主に、冬総が一方的に仕掛けているのだが。

 その隙を狙い、秋在は全速力で職員室へ向かおうとした。


「オイ四川ッ! 秋在が逃げたじゃねェかッ!」
「冬総ってガチめに春晴くん関係だとめんどくせ~な~ッ! もうバックハグして連れ帰って来いって!」
「よし分かったッ! フッ、さぞ羨ましいだろうなッ! お前はそこで指咥えて待ってろッ!」
「あぁぁッ! ポンコツ冬総マジめんどくせ~ッ!」


 冬総は季龍に頼もし気な視線を送った後、急いで秋在を追いかける。

 ……余談だが、秋在は体育の成績がそこまで良くない。

 むしろ、悪い。

 対して、冬総の成績はいつだって一番上だった。


「――秋在ッ! 捕まえたッ!」


 全速力で追いかければ、秋在一人を捕まえるくらい……冬総にとっては造作もないこと。

 後ろから秋在を抱き上げ、冬総は走ってきた方向をクルリと振り返る。


「フユフサ、放して」
「一旦落ち着こうぜ、秋在。……な?」
「…………」


 見上げる秋在を真っ直ぐに見つめると、視線を逸らされた。

 ……どうして、冬総と季龍が秋在を追いかけていたのか。

 事の発端は、数分前へと遡る。




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