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5章【時限性アニバーサリー】

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 部屋の扉を、数回ノックする。

 しかし、父親が言っていたことは本当らしい。

 ……秋在からの返事は、ない。


「マジで寝てるのか……」


 許可もとらずに入室するのは気が引けるが、父親からの許可はもらっている。

 それに……このままここで待っていても、秋在がすぐに起きてくる保証はない。

 小さな罪悪感を抱きつつ、冬総は秋在の部屋へ入った。


「秋在……? 入るぞ……?」


 ベッドの上に、秋在はいる。

 頭を乗せるはずの枕を、抱き締めながら。

 秋在は、規則正しい寝息をたてていた。

 そんな……無防備すぎる姿が、愛おしくて仕方ない。


「秋在……誕生日、おめでとう」


 ベッドに腰掛け、冬総は囁く。

 前髪を指で払うと、秋在の瞼が震えた。

 そして……大きなクリーム色の瞳が、ゆっくりと開かれる。


「……あ、っ」


 寝起きの秋在が、冬総に気付く。

 そして……ふにゃりと、柔らかな笑みを浮かべた。


「……寂しく、ないね……っ」


 どういう意味かは分からないが、嬉しそうなことには間違いない。

 前髪を払った冬総の指を握り、秋在は笑っている。

 そのまま手に擦り寄った秋在が愛おしくて、冬総は秋在の頬にキスをした。


「十六歳、おめでとう」
「十六歳、だね。……おめでとう」


 笑ってはいるが、秋在はなかなか起き上がろうとしない。

 そんな姿も勿論可愛いが、今日はこの部屋で一日を過ごすつもりはないのだ。


「秋在、起きないのか? 今日は、秋在の行きたいところに行くデートだぞ?」


 秋在は冬総を見上げたまま、笑っている。


「十六歳のボクは、まだ、ボクだけのボクだよね」
「……ん? そう、なのか?」


 握るだけではなく、秋在は冬総の指に自分の指を絡めた。

 そして、冬総の指に歯を立てる。

 ガリッ、と、そこそこ強めに。

 そこで……なんとなくだが、秋在が言いたいことを察する。


「……俺は、シてもいいけど……秋在、歩いたりするの辛くなるだろ?」
「ゴム、まだ余ってるよ」
「そういう意味じゃなくて……」


 負担が大きいのは、秋在だ。

 それなのに当の本人は、笑顔のまま。


「十六歳のボクを、プレゼントできる。……誕生日って、凄いね」


 今日の秋在は、プレゼントをもらう側だ。

 しかし……そこを訂正するのは、野暮だろう。

 秋在本人が、楽しそうなのだから。


「俺さ……そこそこ、身なりには気を遣ってきたんだぞ?」


 上着を脱ぎ、冬総は秋在に覆いかぶさる。


「そうだね。いつもと同じ」
「いや、いつもの俺って制服じゃん? 今日はちゃんと私服着てきたんだぞ? 初めて見るだろ?」
「うん。いつもと同じ」


 秋在の私服を、初めて見た日。

 冬総は自分でも驚くほど、テンションが上がった。

 しかし……秋在はそうでもないらしい。

 その違いを寂しく思っていると……秋在が突然、頬を染めた。


「……いつだって、カッコいいよ」


 胸キュンという現象を、冬総は痛感する。


「そ、の……不意打ちは、勘弁して……ッ」


 秋在が言う『同じ』の意味を知り、今度は冬総が、赤面した。




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