親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
上 下
87 / 88
オマケ①【親友の弟を不意打ちで抱いて、】

2

しおりを挟む



 しかし、冬人に惚れ直している場合ではない。
 俺は冬人が用意してくれた缶ビールのプルタブを引きながら、真剣な眼差しを冬人へ送る。


「いいか、冬人。お前さんは自覚をした方がいい。……よく考えてみろ。お前さんは、キレイだ。美人だ。正直、チャイナドレスを着てスリットから覗く太腿で俺を誘惑してほしいくらいだ。顔も体も……どこもかしこも! お前さんはキレイなんだよ! だから、頼む! 自分の魅力を自覚してくれ!」
「あなたは自分が『酔っている』と自覚をするべきだ」
「そんな冬人がフリフリのドレスを着て誰かの姫になるなんて……っ! 俺と冬樹はお前さんをそんな男に育てた覚えはないぞッ!」
「育てられた覚えもなければ、そう育った覚えもない」

「──冬人! 俺だけのお姫様になってくれ!」
「──分かった。水を用意しよう」


 そう言い、冬人は立ち上がってしまった。

 ……なぜだ? 俺の本気が一パーセントどころか一ミリも伝わっていない気がする。

 冬人は俺の言っていることを『妄言』とか『酔っ払いの戯言』として受け取ったのだろう。落ち着いた様子で蛇口から水を出し、コップに注いでいる。

 まったく、なんて男だ。後ろ姿やその姿勢すらもがキレイだとなぜ気付かない?

 俺はスッと立ち上がり、キッチンに立つ冬人へ近付いた。
 するとどうやら冬人は、すぐに俺の接近に気付いたらしい。


「平兵衛。あなたはもう、休んだ方がいい」


 そう言いながら、すぐさま俺に水の入ったコップを渡してきたのだから。

 ……完全に、扱いが酔っ払いだ。俺は不服そうな顔をしながら、コップを受け取った。酔っ払いではないが、せっかく冬人が用意してくれたのなら、無下にはしたくない。
 俺はコップに入った水を一気に呷り、ドヤ顔なんぞを向けてみる。


「いい飲みっぷりだな」


 冬人はそう言い、小さくはにかんだ。……くっ、可愛い。これだから無自覚な奴はダメなんだぞ。


「いいか、冬人。お前さんは自覚をした方がいい」
「またその話か。私はあなたに育てられた覚えは──」
「──お前さんは美人な上に、可愛いんだ」


 そう言うや否や、俺は……。


「──っ?」


 ──細い体を、許可も取らずに抱き上げた。

 突然床から足が離れた冬人は、普段のクールな瞳を丸くしてしまう。まるで硬直したように、静止しているのだ。

 やがて状況を理解したのか、冬人は本心からの呟きをこぼす。


「……はっ?」


 珍しく、冬人が大きく表情を変えている。『驚いています』と顔に書いてあるようだ。
 ……いつもの素っ気ない表情も堪らないが、こういうふうに驚く冬人も可愛いな。


「なんだよ冬人、その手は?」
「『なんだ』と問われても。むしろ、突然抱き上げられた場合の手はどうするのが正解なのかを知らない」
「俺に回せばいいだろ! ギュッとな!」
「なぜ?」


 冬人は状況を理解していても、どうしてこの状況に陥ったのかが理解できていないらしい。胸の前でただ、手をピタリと止めているのだから。

 行き場のない手すらもキレイなのだから、やはり冬人はもう少し自分の魅力を自覚するべきだと、俺は思うがね。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

処理中です...