上 下
82 / 88
8章【親友の弟に真実を伝えて、】

12

しおりを挟む



 黙っていた冬人が、ようやく口を開いた。


「手を、離してくれ」


 言われた通り、冬人の腕から手を離す。
 すると冬人は歩き出して、自室の扉を開けてしまった。


「冬人!」


 俺の呼び掛けに答えず、冬人は扉を閉めてしまう。
 その反応を見て、さすがに肝が冷えてしまった。……だけどこれは当たり前、だよな。

 冬人が逃げるのは、当然だ。
 兄に対して好意を抱いているのではなく、その対象が自分自身。冬人にとっては、より恐ろしい展開になったことだろう。

 ……それでも、若干期待していたんだ。

 ──もしかしたら、冬人も同じなんじゃないかって。

 ……だけど、冬人は……っ?
 拳を握り、歯噛みした。

 ──その瞬間。


「──信じて、いいのか?」


 扉の向こうから、冬人の声がした。

 小さくて、いっそ聞き間違いなんじゃないかって思えるほど、か細い声で。俺を、期待させるような言葉が。


「その言葉は、本当に信じていいのか。また嘘だと、私を騙してはいないか」
「ウソなもんかよ。こんなウソ、吐く理由がない」


 答えると、冬人が動いた音がする。


「……あなたは、あの日。私を、そのままの私でいいと言ってくれたな。いつもそばにいようとしてくれて、身を挺して守ってくれたこともあった。どれだけ冷たくしても、私のことをいつも心配してくれて、想ってくれていた」
「言葉で並べ立てられると、さすがに照れるな」
「あぁ、その通り。本当に、あなたは恥ずかしい人だ」


 扉一枚隔てて、冬人が笑った気がした。


「馬鹿で、困った人だ。嘘吐きで、どうしようもない。……それでも、なぜだろう。そんなあなたのことが、私は……っ」


 少し間が空いて、冬人は小さな声で付け足す。


「──平兵衛さんのことが、好きみたいだ」


 ……なぁ、冬樹よ。
 俺は本当に何度、お前さんに謝ればいいんだろうな。

 ──本当に、ごめんな。

 冬人の部屋の扉を、そっと開ける。そこに立っていたのは、顔を真っ赤にした冬人だった。


「冬人、好きだ」
「それは、もう聞いたから……っ」
「それでも言いたいんだよ」


 冬人の腕を引く。……今度はもう、冬人は抵抗しようとしなかった。


「──好きだ、冬人」


 さっきまでは、あんなに怖かったのに。今までずっと怯えていたのは、いったいなんだったのか。
 そう思ってしまうほど、ウソみたいなんだ。


「好きだ。愛してる」
「しつこいぞ、嘘吐き……っ」
「これは本当だ。だから、隠したくない。……冬人、好きだ」


 なんて、心地いい言葉だろう。
 冬人はどうしていいのか分からないのか、しばらく棒立ちになっている。


「……嘘を吐かせてしまった要因は、私にある。それは、分かっている。……それでも、あんな嘘は下劣だ。劣悪だ。悪質だ」
「あぁ、分かってる」
「本当に、あなたは愚かしい人だ。私のことなんて、放っておけば良かったのに。本当に、お節介で馬鹿な人だ」


 だが、遠慮がちに俺の背中に手を回してくれた。


「──そんなあなたを好きになってしまったのだから、私も大概、愚か者で馬鹿なのだろうな……っ」


 それは、不器用ながらも懸命に自分を探し続けてきた冬人の。

 ──本心からの、言葉だった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...