親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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8章【親友の弟に真実を伝えて、】

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 いくら罵られようと、弁解の余地はない。
 それでも、きちんと誠意は見せたい。今さらどう思われるか分からないが、それでもだ。


「殴ってくれていい! 好きなだけ!」


 冬人の肩から手を離し、両手を自分の顔の位置に上げて開く。『抵抗しない』という意思表示のつもりだ。

 冬人はブルブルと震えて、左手に力を籠める。


「潔いな、平兵衛。……ならば、覚悟しろ。加減はしない」
「あ、あぁ」


 さっきまでの可愛らしい冬人がまるでウソだったかのように、いつもの冷徹で素っ気無い声色になっていた。
 ……イヤ、冷静さはないな。怒気を感じる。しかも、敬称もない。

 そんな声を聞いて、俺はギュッと目を瞑る。

 いくら冬人が細いと言えど、男のパンチは痛いよな、絶対……っ。
 前回のケガの件もあるし、せめて顔は外してもらいたいが……そんなことを言える立場ではない。
 好きなところを遠慮なく、それでいてしっかりと殴ってもらおう。


「いくぞ」


 冬人の男らしいその言葉に、俺は顔に衝撃がくることを覚悟した。

 ──せめてどうか、マネージャーにどやされませんように……ッ!

 そう思い、余計に瞼を強く閉じる。
 ……だが。

 ──ぽすんっ、と。

 それはそれは軽いパンチが、お見舞いされた。


「い……たく、ない……?」


 冬人の右手が、俺の胸元にある。


「ふゆ──」
「──私はッ!」


 冬人が俺の服を強く握り、俯いていた。
 それでも怒鳴るように大きな声で、俺の言葉を遮る。


「兄さんに命を返すために、兄さんが愛した男を──残された男を、せめて悲しませないようにと……脚を、開いた……っ」


 冬人の耳が、赤い。
 なのに冬人は、震えた声で続けた。


「初めは本当にそれだけで、怖いとか恥ずかしいとか……色々な気持ちを、抑え付けた。兄さんになるのなら、そんな感情は不要だからだ。……だが、日が経つにつれて徐々に、抑え付けるのが苦しくなって……っ」


 俺の服を握っている手から、冬人の体の震えまで伝わってくる。
 こんなに震えているのに……それでも、冬人は続けるんだ。


「今まで、ずっとずっとあの日のことを考えていた。するとなぜか、嬉しいのと悲しいのが混ざった気持ちになっていったのだ。あなたの腕にいたのは【私】だという喜びと、あなたが見ていたのは【私に映した兄さん】だという悲しみで……私は、ずっと……ッ」
「……はっ?」
「だから、つまりッ!」


 冬人は、勢いよく顔を上げる。
 真っ赤な顔をして、俺を見上げた。


「──さっきまでの『可愛い』という言葉は……わ、私個人への……賛辞……? で、いいのだなッ!」


 不意に、頭の中がグラッとするような錯覚。
 ……イヤ、頭の中だけじゃない。正直なところ、体が若干フラついた。

 だって、そんな……ッ。


「……ハハッ」
「なッ! なぜ笑うッ!」
「イヤ、だってお前さんが笑わせるから……」
「私は至極真面目だッ!」


 ボコボコに殴られる覚悟も。
 殴るだけでは納得しないで、蹴られる覚悟とか。
 なんだったら最悪、骨の髄まで嫌われる覚悟もできてたんだぞ?

 なのに、なんで……。


「──怒んないのか?」


 小さく笑いながら、訊いてみる。

 冬人は俺の服を握っていた手の力を弱めて、少しだけ落ち着いたトーンで答えた。




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