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8章【親友の弟に真実を伝えて、】

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 マンション付近の案内という名目でデートの約束を取り付けた俺は、急ぎ足でマンションを目指す。

 この一週間、俺はずっと冬人のことを考えていた。……それも、そのはず。
 つい先日、やっと冬人への好意を自覚した俺は、現状について考えるしかなかったからだ。

 ……考えてもみてくれよ? 好きな奴とふたりきりで、同じ部屋に住んでいるんだぞ? こっちとしては、なによりも生殺しな状況だろ?
 そういうふうになるつもりで一緒に住み始めたわけではなかったが、想像してみるとかなり凄いことだ。

 冬人の手料理はウマいし、気も利く。オマケにキレイで、だけどちょっと可愛いところもあって……。
 そんなことをずっと、とめどなくグルグルと考えていた。

 たった一週間だというのに、約束の日に至るまでの時間が、異様に長く感じたほどだ。
 本当は休みが合う前日にマンションへ戻りたかったが、仕事終わりには終電を逃してしまった。

 いっそ『いくらかかってもいいからタクシーで帰ろうか』とも思ったが、気を利かせたマネージャーがホテルを予約してしまったので、泊まるしかなく。

 約束の日、当日。つまり今現在の俺は、始発に乗って駅からタクシーを拾って帰っているところだ。

 一分一秒が、もったいない。

 ──なによりも早く、冬人に会いたい。

 その一心で、やっとたどり着いたマンションに急いで駆け込む。
 冬人が待つ部屋のカギをカバンから探しながら走っていると、不意に……。

 ──見覚えのある人物の後ろ姿が見えた。

 猫背気味で、フラついた足取りの……アレは、どう見ても……?


「──龍介、か?」


 思わず、その人物に声をかける。
 名前を呼ばれたその男──龍介は、ノロノロとした動きで背後にいる俺を振り返った。


「平兵衛? なァんだ、今帰りかよォ?」


 俺の姿を見ると、龍介はポケットに両手を突っ込んだまま、嫌味ったらしくそう言う。


「人気芸能人はいっそがしィですねェ~?」
「イヤ、まぁ……」
「あァーッ! 人気だって認めたなッ!」


 なんだか、今日の龍介はイヤに上機嫌だ。……それが、逆にと言うか正当に怖い。
 端的に言うのなら『イヤな予感がする』ということだ。

 そして、大体。そういうものは、ピタリと的中する。


「──これからお前の部屋に行こうと思ってたんだ。ここで会えたのは丁度いいぜェ」


 ──予感的中。

 ──しかも、待ったなしで。


「部屋には冬人がいるぞ」
「『フユト』? 誰だっけ、ソイツ」
「冬樹の弟だよ」
「ふ、ゆき? ……あァ、元同居人の弟だっけか? ……まっ、別にいっかァ~」


 冬人がいると知り、龍介は一瞬だけ不愉快そうに眉を寄せた。
 だが、頭の中で割り切ったのだろうか。人嫌いの龍介にしては珍しく、いても構わないと思ったらしい。

 イヤな予感がどんどん強くなってくるも、上機嫌な龍介を振り払う術を、俺は知らない。
 渋々、俺はカギを開けて、龍介を招いた。




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