親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6章【親友の弟との関係が歪んで、】

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 俺を警戒して、どことなく暗い表情になっているのだとしたら。
 それは【冬樹になることを諦める】という意味では、いい傾向ではある。

 ……だが『嫌われてもいい』とは思っていたが、なんて言うか、そうだな。……実際にそうなると、なんだか複雑だ。
 人に嫌われて嬉しいワケはないが、思っていた以上にショックを受けている自分に驚く。


「なぁ、冬人。ヤッパリ昨日のことなんだが……」
「そのことは、もう話すなと言ったはずだ」


 そう呟いた後、冬人はお椀を取り出し、豚汁を二人分用意する。依然として、表情は暗いままだ。

 冬人は、その話をしたくないのかもしれない。
 だが、このまま冬人を放っておくことなんて、俺にはできるはずがないのだ。


「それでも、俺はちゃんと──」
「──しつこい」


 ピシャリと。冬人は冷たく、そう言い放つ。
 お椀ふたつを俺に差し出してくる冬人の表情は、まだ暗い。不機嫌とかではなく、純粋に元気がない様子に見える。

 冬人が、落ち込んでいる理由。

 ──それは、どう考えても俺のせいだ。

 それでも、ヤッパリ冬人のそんな顔は見たくない。……言い訳がましいが、俺は冬人を傷付けたかったわけじゃないんだ。


『……当たり前』


 冬人が昨晩見せてくれた、あの笑顔を思い出す。

 ──なにが、冬人のためだよ……ッ。

 差し出されたお椀を受け取ってテーブルに並べてみるが、俺は自責の念に駆られる。

 冬人を、傷付けた。冬樹になるのを諦めさせようとして、その結果がこれだ。

 ──どうしてもっと、いい方法を考えられなかった?

 ──どうして、結果を急いでしまったんだ?

 冬人は暗い表情のまま、テキパキと夕食を用意する。そのアンバランスさが、見ていて逆に痛々しい。


「冬人。お前さんはこんな話をしたくないと思うが、ひとつだけ言わせてほしい。……昨日は、本当にすまなかった」


 そっと、冬人が俺を振り返る。


「どんな理由があったとしても、俺がお前さんにしたことは最低な行為だった。許してもらおうなんて毛頭思っていない。だが、それでも謝らせてほしい。……本当に、すまなかった。もう、俺はお前さんに手を出さないと約束する」


 そのまま、冬人は抑揚のない声で答えた。


「平兵衛さんのことは、気にしてない。私はそう、何度も平兵衛さんに伝えているつもりなのだが」


 ウソだ。瞬時に、俺はそう察する。

 だが、仮に。……冬樹になるために、俺のことを【恨んでいないフリ】をしているのだとしたら。
 ……果たして本心を殺してまで、誰かに成り代わろうとする必要があるのだろうか。

 ──どうしたらいいのか教えてくれよ、冬樹……ッ。

 今は亡き同居人に、思わず助けを求める。
 脳内に住まう元同居人は、見慣れた笑顔を俺に向けてくれるだけ。明確な答えなんて、くれるはずがない。

 ……その日の夕食は昨日とは違い、とても静かなものだった。




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