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6章【親友の弟との関係が歪んで、】
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しおりを挟む気付けば、いつの間にか寝ていたらしい。
目覚めた俺は裸で、ベッドの上に横たわっていた。
窓から差し込む日の光が、否が応でも『これは現実だ』と言っているようだ。
──つまりこれは現実で、今は朝。
「……俺は、昨日。……たし、か……っ?」
そっと、辺りを見渡してみる。
床に散乱しているのは、俺と……俺のじゃない、服。
乱暴に脱ぎ散らかしてある服を見ると、またしても『これは現実なんだよ』と言われているようだ。
それを見て、思い出してしまった。……薄々、感じてはいたことを。
いくら酒が入っていたとはいえ、俺は昨晩のことを、忘れたりはしていないようだ。
冬樹の、大事な弟を。
──冬人を、犯したという事実をだ。
「……冬樹、本当にスマン……っ」
異様なほどの倦怠感にぐったりとしながら、頭の中に浮かんだ冬樹への謝罪を口にする。
結局、俺がしたことはなんの解決にもならなかったのだ。
冬人が冬樹になるという、異常な考え。それを、俺は止められなかった。
【男に抱かれる】という、普通ならまず体験し得ないことが、どうして自分の身に起こったのか。……【冬樹の代わりとして抱かれた】と、冬人自身は思っているだろう。むしろ、そう思うように仕向けたのは俺だ。
──実際は、全部ウソだというのに。
……つまり、だ。
実際のところ、俺は冬樹のことは一切関係無く……俺は冬人に、欲情した。
──【冬樹になるためならばイヤなことでも耐える】という冬人の気持ちを利用して、抱いたのだ。
「最低だな、本当に……ッ」
頭に腕を乗せ、やるせなさや倦怠感……そして、言葉にできない虚無感に苛まれる。
しばらく横になっていると、なにやら音が聞こえてきた。『トンッ、トンッ』と小気味いい音や。『ジュワァッ』という、食欲がそそられるような音だ。
音からして、キッチンの方からだろう。俺は起き上がり、適当な部屋着を手に取って着替える。
そのまま、音に誘われるようリビングに出た。
「……冬人?」
キッチンには、昨晩俺に犯された圧倒的な被害者──冬人が立っている。
「平兵衛さん、おはよう」
振り返った冬人は、うっすらと目元を腫らしているように見えた。……それを見るだけで、またしても言いようのない罪悪感が込み上げてくる。
冬人はまな板に向き直って、キャベツを切り続けた。
「今、目玉焼きが作り終わったら朝食が完成する。だから、もう少し待っていてほしい」
「冬人。……昨日のこと、なんだけどよ」
淡々と話す冬人に近付いて、昨晩のことを話題にしようとする。
すると……。
「……ッ」
料理の手際がいいはずの冬人が、包丁をキャベツではなくまな板にぶつけたではないか。
言葉にされなくても分かる。これは、かなりの動揺だ。
それでも、冬人はその動揺を隠したいのだろう。
「気にしていない」
あくまでも自然を装い、冬人はそう答えた。
しかし、だからと言って『そうだよなぁ』と言えるような問題ではない。分かりやすすぎるウソを吐く冬人を追求しようと、一歩近付く。
「冬──」
「目玉焼きッ!」
声をかけると、冬人が突然声を荒げる。
フライパンの蓋を開けて、冬人は慣れた手付きで焼き上がった目玉焼きを皿にうつす。目玉焼きを乗せた皿には、ソーセージも乗っていた。
俺の言葉を掻き消すように大きな声を出した冬人は、切り終わったばかりのキャベツも同じ皿に盛り付ける。
「目玉焼き、焼き上がったから……ッ」
俺と距離を取って、冬人は目玉焼きとキャベツ、それにソーセージが盛り付けられた皿を突き出す。……目線は一切、俺と合わせようとしないままに。
「なぁ、冬人──」
「──なにも言うなッ!」
再度、冬人は俺に皿を突き出す。
「気にしていないから、もうその話はしないでくれ……ッ」
顔を真っ赤にして、冬人は少し早口でまくし立てる。
そんな様子を見て、俺は思わず……。
──『可愛いな』と。
そう、思ってしまった。
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