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5章【親友の弟の目的を知った俺は、】

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 肩で息をする冬人の頬に、手を添えた。


「冬人。顔、見せてみろ」
「は、ぁ……っ」


 隣に頭を並べて、強引に冬人の顔を覗き込む。
 酸素を求めて枕から口元をずらしていたので、冬人の顔は容易に見えた。

 涙に濡れた瞳。……だが、絶頂による快感で、その瞳はどことなく虚ろだ。
 ぼんやりしているからか、俺を見ているようで、目が合わない。

 ──そんな表情が、堪らなくエロく感じる。

 禁欲的な印象だった冬人の、快楽でだらしなくなった姿。正直なところ、それはかなり、そそられる。

 抵抗虚しく犯され、呆気無く処女を失った。
 そう思っていたら、拒否する間も無く男に中出しされて……。
 どんな気持ちなのか、いっそ洗いざらい知りたくて堪らない。

 すると不意に、冬人が口を開いた。


「腕、を」
「ン?」


 気付けば俺としっかり視線を合わせて、冬人が呟く。
 弱々しくて、消え入りそうな声だ。


「腕を、解いてほしい」


 服によって縛りつけられた腕を動かそうとして、冬人が訴える。


「あ、あぁ。分かった」


 すぐに、冬人の両腕を結んでいた服を解く。
 自由になった冬人の両腕は、力無く枕の上に落ちた。

 だいぶ呼吸が落ち着いてきたのか、冬人は黙っている。
 ……気付くと同時に、霧散していた理性が戻ってきた。

 ──さすがにこれは、やりすぎだ。

 ヤッている最中は気にしていても、見て見ぬふりをするように犯した。
 だが、冷静に考えて──。……イヤ、冷静に考えなくても、とんでもないことをしてしまった。

 ──元同居人の弟を、レイプだなんて。

 ──そんなの、シャレにならないだろう。

 バカな極論を撤回させるための行為のはずが、結果はどうだ?

 ヤるだけヤッたくせに、冬人の考えを改めさせることはできなかった。これでは、ただのレイプに他ならない。
 コイツの兄貴に──冬樹に、弁明しようがないのだ。

 冬人へかけられる言葉が見つからず、俺は冬人ので汚れた自分の手を、ティッシュで拭う。
 そうこうしていると、おもむろに冬人が立ち上がった。


「冬人? どこに行くんだ?」


 ベッドから降りた冬人に、声をかける。
 冬人は俺を振り返らず、いつもと同じく淡々とした声で答えた。


「体中が、ベタベタして気持ち悪い。シャワーを、浴びてくる」


 ベッドから降りた冬人は一度、足をもつれさせて、転びかける。
 すかさず、俺は手を伸ばしかけた。


「あ、オイ。一人で大丈夫か? 俺も一緒に──」


 フラフラになった冬人は、壁に手をつく。
 だが、俺を振り返らない。


「──一人に、してほしい」


 俺の言葉に、力なくそう答えた後。
 冬人は、部屋から出て浴室へと向かった。





5章【親友の弟の目的を知った俺は、】 了




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