親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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5章【親友の弟の目的を知った俺は、】

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 心の中で、謝罪の言葉を紡ぐ。

 ──冬樹、スマン。

 ──一時的に、お前さんをホモにすることを、どうか許してくれ。

 我ながら、かなり強引な設定だと思う。冬人からすると、現実味が薄いかもしれない。
 ……だが、案の定。


「こい、びと……っ?」


 冬人の目が、丸くなった。
 『なにを言われているのか分からない』と言いたげな表情だ。

 それでもちゃんと考えてくれたのならば、俺の言っている意味が分かるはず。
 冬人は少し黙った後に……顔を、驚愕の色に染めたのだから。


「……えっ? 兄と、平兵衛さんが? ……こい、びと?」
「あぁ、そうだ」


 冬人が『冬樹になる』と言うのなら、デメリットを用意したらいい。

 冬樹が男と付き合っていたと仮定すると、冬人はソイツと付き合わなくちゃいけない。
 それは、あまりにも生々しい現実だろう。生半可な気持ちで決断できる話じゃ、ないはずだ。

 ──だからこそ、冬人には諦めてもらう。

 さすがに【恋人の真似事】なんて芸当、生真面目な冬人にはできないはずだ。
 冬樹として生きると決めた冬人でも【そういった種類の覚悟】は、きっとしていないだろう。


「そんな、話……今まで、一度も……っ」


 自分の尊敬している兄が、実はホモだったと言われて。冬人はかなり、衝撃を受けているようだ。
 さっきまでの饒舌さがなくなり、動揺の色を顔に浮かべたまま、言葉が途切れ途切れになっている。


「そりゃそうだろ。そんなカミングアウト、簡単にできねぇさ。俺だって、家族には言ってないぞ」


 まるで本当に、冬樹と付き合っていたかのような演技。
 ……この一ヶ月、またみっちりと仕事をさせられたんだ。

 表情。
 動作。
 言葉選び。

 どこをとっても、演技には自信がある。
 この程度の設定を演じるくらい──冬人一人を騙すくらいなら、容易だ。

 俺の真剣な顔を見て、冬人は一歩下がった。
 だが、すぐ後ろにはキッチンがある。冬人は腰を、キッチンに押し付ける形となった。

 ──冬人が俺から、逃げようとしている。

 ──だが、その反応でいい。

 冬人からしたら、ホモの男とひとつ屋根の下だ。しかも相手は、自分の兄の恋人。
 そんな兄に『似ている』と周りから言われている冬人には、貞操の危機と思ってもらわないと困る。むしろそのつもりで演技しているんだから、ビビってもらってなんぼだ。

 俺が立ち上がると、冬人はまた一歩下がろうとした。
 だが、背後はキッチン。冬人は、逃げられない。


「なぁ、どうなんだよ」
「……っ」


 これ以上逃げようとしない冬人へ近付き、後ろのキッチンに手を置いた。
 冬人が本当に逃げられないよう、腕で逃げ場をなくすために。


「冬樹みたいに、俺を悦ばせられるのか?」


 気分は完全に冬樹の恋人だ。

 ──もう、押し切るしかない。

 疲労による、思考力の低下。それに加えてアルコールも回ってきているせいか、一周回って気分がいいぞ。

 実際問題、俺はバイセクシャルだ。
 つまり、ウソは吐いているものの真実が混ざっていて、演技もしやすい。

 こんな演技くらい、元同居人の弟相手にだってやれる。
 しなくては、いけないのだ。

 全部、冬人と冬樹のためなのだから……っ。 




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