親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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5章【親友の弟の目的を知った俺は、】

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 冬樹はもう、いない。
 冬人のそばには、俺しかいないのだ。

 だからこそ生まれた、おかしな決意。
 そんな極論、修正しないといけない。

 なら、俺は……。


「──そんなこと、今すぐやめろ」


 ──俺が、冬樹の分も冬人を止める。

 俺の視線に、冬人も真剣な眼差しで応じた。


「やめない。私は、兄になる」
「冬樹はそんなこと望まないだろ。それくらい、お前さんだって分かってるはずだ」
「あなたに口出しされたくはない」


 正論を振りかざしたところで、冬人は強情だ。
 ……本気、なんだろう。生半可な気持ちで挑めるようなことでは、ないのだから。

 ──だが、どうする?

 冬人の行為は、一種の逃避だ。

 そんなことをしても、冬樹自体が生き返るわけじゃない。冬人と冬樹は、どうしたって別の人間なんだ。
 どんなに冬人が冬樹と似ていても、冬人が冬樹みたいな性格になっても。

 ──それは【冬樹に似た冬人】という粋を越えない。

 冬樹は確かに、仕事仲間の間でも人気だった。根から明るくて、いい奴だったのだ。
 だからこそ慕う人は多かったし、死を悲しむ奴だって、多かった。

 ……だからと言って、冬樹の模造品で喜ぶ奴なんていない。冬人のやろうとしていることは、なんの意味もないんだ。

 冬人からそんな考えを捨てさせて、前を向かせないといけない。

 ──きっと冬樹だって、それを望むに違いないだろう。

 ……なにか。
 なにか、冬人を止める方法は……っ?


「今はまだ、兄には似ても似つかないかもしれない。それでも、私はいつか必ず、完璧な【月島冬樹】になってみせる」


 そう言って麦茶を飲み干してから、冬人はイスから立ち上がった。

 ──このままじゃ、話が終わる……ッ!

 今、この機会を逃したら? 今度はいつ、こうやって話せるか分からない。
 その間にも、冬人は冬樹の模倣を繰り返し続ける。
 単純に【止める】と言っても、そう仕向けるための題材が必要だ。

 ──冬樹になるメリットを、消す。

 ──冬樹になりたくないと、冬人に思わせる。

 冬人が冬樹になりたくなくなる、なにか。

 ──多少、荒療治でもいいから。


「……待て、冬人」


 キッチンにコップを置いた冬人へ、後ろから声をかける。


「まだ、なにか言うのか」


 振り返った冬人が発した声は、煩わしさを含んでいた。

 ──荒療治でも、構わない。

 ──嫌われる可能性が、あるとしても。

 ──それでも俺は、冬樹のためにも……冬人を、止めなくちゃいけないんだ。

 だから、俺は。


「──じゃあ【恋人】として、冬樹の代わりにお前さんが俺の相手をしてくれるのか?」


 ──冬人が冬樹になりたくなくなる【ウソ】を吐く。

 ──親友の弟を、騙す。

 俺はこの瞬間、そう決めたのだ。
 ……たとえそれが、過ちへの一歩だとしても。




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