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5章【親友の弟の目的を知った俺は、】

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 大人げなく、急ピッチで酒を飲んだからか。
 それとも単純に、アルコールが回っただけかもしれない。……思わずそう、勘違いしてしまいそうになった。

 そのくらい、頭の中がグラッと揺れたような感覚がしたのだ。


「……はっ? 今、なんて……ッ?」


 俺は、冬人が冬樹の代役を承諾した理由を。
 そして事務所のスカウトに応じた理由を、知りたかった。

 ……だが。


「この世界に、興味があったワケじゃないのか……ッ?」
「世間での知名度やテレビに出られるということに、私は欠片ばかりの魅力も感じない。だが、兄を知ってもらうため、兄として生きるためには、その道を通らないといけないだろう」


 ……いったい、なにを。
 なにを、言っているんだ……っ?
 

「だから、私は兄が所属していた事務所からの話を快諾した。兄が通り、目指した道だというのなら、私もその道をなぞるだけだ。そこに、私自身の興味や関心なんて必要ない」


 冬樹の代役を、快諾した理由。
 事務所のスカウトに応じた理由が。

 ──【月島冬樹になるため】だなんて。

 ──そんな理由だろうなんて、誰が思う?

 自分のためじゃない。モチロン、両親のためでもなかった。
 ただ、純粋に。

 ──【冬樹を死なせないため】だったんだ。

 そこに、冬人自身の欲求は、なにもない。
 自分がどうこうなりたいなんてものは、一切ないのだ。


「なんだってそんな、バカな真似……ッ」


 こんなもの、極論にもほどがある。

 ──単純に、兄の死を受け入れられないからゆえの、現実逃避?

 そう思いたかったが、違う。

 ──それよりももっと別な、一線を越えた重たい愛情的なやつなのか?

 そうとも思ったが、冬人の考えはヤッパリ、俺の予想の斜め上だった。

 動揺する俺とは対照的に、冬人は冷静だ。


「兄の、葬儀の日」


 冬人はコップから視線を外すことなく、俺に返答する。


「あの日、似ていると言われて……その時は、なにも分からなかった。だが、事務所からの電話で確信した。『私のせいで命を失った兄になることで、兄に命を返せる』と」


 ──『命を返す』?

 ──『似ていると言われて』?

 ……なんだ、それ?
 冬人が冬樹になろうと決心したきっかけは、これまた単純。

 ──他人から『似ている』と言われたから。

 理解すると同時に、愕然とした。

 ──冬人にそう言ったのは、誰だ?

 それを言ったのは、他の誰でもない。

 ──葬式の日。


『似て、た、ので。本当に、すみません……ッ』


 ──そう。

 ──俺、だ。

 じゃあ、つまり。
 冬人がそんな、バカげた極論を見つけたのは。

 ……俺のせい、なのか?


『本当にすまな──すみません、でした、失礼なことを、してしまって』
『……っ。お気に、なさらず』


 俺が、あの日。
 冬樹の、葬式で。

 冬人や親御さんに、あんなことを言ったからなのか? 




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