親友の弟を騙して抱いて、

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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4章【親友の弟の目的は、】

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 冬人が持ってきてくれた二本目のビールを空にし、唐揚げをつまむ。


「冬人のところとは違うが、俺も爺さんの影響ってか、そんな感じでな? うちは代々続く老舗旅館なんだが、男が生まれたら『何年前の名前だ!』って感じの名前付けるんだぜ? 爺さん曰く『いつか跡取りになったとき、様になるように』ってよ」


 正直、三十代になった今となってはどうでもいいが、子供の頃は少し悩んだりもした。友達からは『時代劇のキャラかよ!』と笑われたりして、少しだけ自分の名前がコンプレックスだったのだ。

 冬人は不愛想な表情をそのままに、相槌を打つ。


「合っていると思う。その名前」
「ハァ? マジかよ。俺、そんな『平兵衛』って顔してるか?」
「そう見える」


 頷いた後、冬人は立ち上がった。冷蔵庫に向かうためだ。
 缶ビールと、ビンに入った焼酎。それらを持ってくると、冬人はグラスもひとつ、用意してくれた。


「体は大きいし、顔つきも性格も男らしいと、私は思う」


 自分の座っていたイスに戻って、冬人は夕食を食べ進める。
 やけに甲斐甲斐しいところとか、食事の所作が美しいとか、そんなことよりも。

 ──あまりにも淡々と褒めてくる冬人の様子が、気恥ずかしいと同時に、こそばゆいほどに嬉しい。


「お、おう。……なんか、冬人に褒められると照れるな」


 そう言うと、冬人の手がピタッと止まった。


「……『褒めよう』という意図は、なかったのだが。そう聞こえたのか」
「なんか冬人って【人嫌い】って感じに見えたからさ。そうやって他人のこと評価してくれるのが、意外って言うか」
「別に、私は【人嫌い】なんかではない」


 そう言って、冬人は残り少なかったシチューを平らげる。


「父や祖父の影響もあって、私は外で遊ぶより家で勉強をする子供だった。……だから正直、幼い頃は同学年を『馬鹿ばかりだ』と思っていた」
「お、おぉ。随分な物言いだな」
「おそらく、平兵衛さんが抱く私への印象は、その延長線だ」


 会話を続けながら、冬人は食器をキッチンに運ぶ。
 運んだ食器を水に浸け、俺に背中を向けながらも、冬人は会話を続けてくれる。


「人との関わりは、自分が【人】として生きていく上で、必要不可欠なこと。だが、私は他の人よりも【他者との関わり】への【必要性】という思いが希薄なのだろう。現に、私はこうして友人と呼べる相手がいない今の状況へ、焦りを欠片も抱いていない」


 水を止めた後、冬人は俺の正面の席に戻ってきた。

 ……今日は、一緒に仕事をしたあの日よりも、冬人がよく話してくれる。
 もしかするとこれも、ヤッパリ冬樹の料理話のおかげなのかもな? なんだか、こんな些細なことが妙に嬉しい。

 冬人が冷蔵庫から出してくれた焼酎の蓋を開けて、グラスに注ぐ。


「お前さん、友達いないのか? 一人も?」
「いないし、ほしいとも思わない。子供の頃は、この性格だからか……同じクラスの人には疎まれてさえいた、と思う」


 まぁ、確かに冬人は人付き合い下手そうだよな。……とは、モチロン言わない。


「家に来た冬樹の友達とかとは、遊んだりしなかったのか? アイツ、引くほど友達多いだろ?」


 あの明るいキャラなら、友達にも恵まれていたはずだ。そう指摘してみると、冬人は気まずそうに瞳を伏せる。


「……年上も、馬鹿だろう」
「あ~……」


 代表的な男が、身内だもんな。

 ──う~ん。冬樹、スマン。

 ──一切、弁明ができねぇぞ。 




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